#170 産業遺産は古代信仰の聖地?【宮沢賢治とシャーマンと山 その43】
(続き)
宮沢賢治の「経埋ムベキ山」や「庚申」の話から熊野について触れているうちに脱線してしまったが、これまで書いてきたような、熊野などの信仰の聖地や修験道と鉱物についての話で言えば、賢治が暮らした花巻の早池峰のすぐ近くにも、鉱物の一大産地がある。
岩手県には、世界遺産が三つあり、最も有名なのが平泉で、もう一つが岩手県釜石市の「橋野鉄鉱山」だ。「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成遺産の一つとなっている。
ちなみに、もう一つは「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一つである一戸町にある御所野遺跡で、縄文文化と賢治との関係性も興味深いが、脱線してしまうので、ここでは触れない。
「橋野鉄鉱山」がある岩手県釜石市は「鉄の街」として有名で、以前に日本一を何度も経験したラグビー部があった「新日鉄釜石」の企業城下町でもある。
「橋野鉄鉱山」は、近代製鉄の発展に多大な貢献をした事が、産業革命遺産となった理由であろうが、実際に訪れると、おおよそ近代的なイメージとはかけ離れた姿に驚かされる。
遠野方面から橋野へ入ると、峠の一つに「笛吹峠」があるが、この笛吹峠は、柳田國男の「遠野物語」でたびたび登場し、異界と現世をつなぐような機能を果たしている。そして、ここにも源義経の伝説が残り、平泉で死んだはずの義経が落ち延び、北へ向けて海へ出たと伝わる。
そして、橋野に足を踏み入れると、そこは近代工業を支えた工場群のイメージは全くなく、何も知らずに訪れたのなら、古代信仰を支えた霊場と言われても、素直に信じるのではないだろうか。
【写真は、岩手県釜石市の橋野鉄鉱山】
(続く)
2024(令和6)年4月2日(火)
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