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【不定期連載エッセイ:二進も三進も行かないVol.6】 棚上げ師

家族に対してカッコつけてしまうんです。
特に妹などに対して、たかが2年と4年早く生まれただけなのにまるで人生を一周終えているような態度で話してしまう時がある。勉強の話とか、時事的な話でよく発動してしまう。不意に。留学後から僕の背中に張り付いている監視係の透けた自分が嘲笑している。

「お前もう大学にも行ってないじゃないか。妹は順調に2年生を迎えたと言うのに。」

もっともである。
もし僕が次の4月に復帰するとしても4個下の妹と同じ学年ということになる。いやぁ怖い。どこか別の文章でも書いた気もするけどやっぱり自分で選んだ道とは言え死ぬほど怖い。ずっと銃口を突きつけながら後悔の様な気持ちを抱えながら、先の見えない日々を送っている。

つい数ヶ月前にもまたよく分からない棚上げが発動した。妹の次女の方が体調を崩して部活の最後の試合を見送ることになった際、「俺は海外行ってから本当に5年くらい風邪引いてない。免疫めちゃくちゃ上がってるわ。」どうでもいいクソマウントである。協会に認定棚上げ師として認めてもらいたい。

ゲリラ棚上げ発生から数週間後…2023年8月、本当に今更あの疫病に初めて感染した。周りの状況によっては今更でもない人もいるだろうけど、僕にとってはもう割と過去の物で東京ではマスクも珍しくなってきた今、時間経過は早いなあとか抜かしていたらここぞとばかりに免疫と免疫の間にゴースティングされ、見事破壊。1週間ほど寝込む日々が始まった。

診断されてから規定の療養期間中、出かけることは出来ないので幸いお金は減らなかったけれど体重と自尊心は擦り減った。
まあ体重は別にネガティブな要素でもないか。
症状は人によって個人差はあるみたいだけど、僕の場合はまず熱と頭痛、それから一晩経って倦怠感や関節痛、そして喉痛といった感じで日が経つにつれて症状が変わり、辛いけど回復に進んでいると思えるような展開でお送りしていた。そうはいっても全体的にメンタルと体がダウナーではあるので、寝てたり座って惚ける事が一番楽だった。その1週間でやりたいことは沢山あったのにどうしようもそれらに向き合って作業する気になれず、エンタメもいつも摂取してるラジオや動画などは見る気が起きなかった。詳しくいうと別に流しておくには問題ないのだが、いつもの楽しみ方、受け取り方が出来ないので、どうせもう一回聴くことになるなと思い、やめた。
そうなるとずっと何をしていたのか。体調くそわるに特化した、その時にこそ一番の力を発揮する思考停止系エンタメの浪費である。
いつもは観ない様なものがその1週間の大部分を埋めてくれた。

まずはダウ90000の日常系動画、知っている人はわかる旅行とかのやつ。いきなり普段から見てる人たちのコンテンツになってしまったのだが、普段は彼らのコントなど、作品を中心に楽しんでいたので、あまり素の姿を追っていなかった。男女均等の8人組で、他に裏のスタッフさんなどがいる集団。主宰の蓮見さんを筆頭に、演技も脚本もらしさが確立された数年以内に確実にトップ集団とせめぎ合うであろう才能と実力の集団。てかもうトップディビジョンには顔を出しているかもしれない。
そんな彼らの移動中の車での怒涛のクイズ動画や、ロッジで寛いでいる様がなぜかぶっ倒れている僕にとってはとても見やすくてほのぼの出来るエンタメだった。是非彼らの作品も含めて公式のYouTubeで見てほしい。
一応ステートメントとして書いておくが、決して私はそういった人たちに対して仲の良さで芸を評価したくありません。作品も大好きだし、オフの様子も心地良かったという事です。
なんかムキになってしまいました。
少し話が逸れますが、僕は偶に見かけるYouTubeで視聴者の事をリスナーと呼んでいる人にイラっとしてしまいます。単純に使う単語のチョイスとして間違っている気がするのと、リスナーという言葉を選んでいるスタンスが好きになれません。なんかかっこいいから選んでいるような気がして。言葉の意味ではなく外側の見え方だけで選んでいる気がして。偏見かも知れないけどまだ自分の名前で〇〇ちゃんずとかの方がマシです。まず視聴者でいいだろってことなんですけども。そんな所在表明。

続いて、スポーツと犬の感動系・ほっこり系動画です。言わずもがなサッカーワールドカップ前回大会の決勝戦選手入場前の寺川アナウンサーによる約2分間の大会の振り返りを含んだ口上は本当に彼の実況人生において最高傑作だと思う。あれによって彼はw杯での仕事を完遂以上に十分にお釣りが出るほど全うした様な気がしている。余談だけどあの決勝戦は後世に語り継がれる史上最高の決勝だった。少なくとも僕にとっては。
そして8月当時開催されていた世界陸上のハイライトなんかも落ち込んだ気分を引っ張り上げてくれた。人間が生身で人間してる様がリアルで命のたぎりが見える気がしました。同じような命の表現で言うと、ダンサー"The D SoraKi"によるDance Your Styleでのパフォーマンス。あの動画はビヨンセの一件で話題になったが、その試合の他にも大会を通して鼓動で踊っている彼の表現はいつ見ても心臓が昂る。
犬の動画ってのは子犬とかがただ生活している様を人間が見て萌えるためだけの動画で偶に見るのだが、インスタグラムのリールなどで見始めると萌えと指が止まらなくなってしまった。あれは本当に怖いシステムだと思う。気づいたら2時間も経っていて、部屋が暗かった。だから僕はTikTokをインストールしないのだ。体調がいい日も一日中ショート動画に支配されてしまう未来しか見えない。

そうして画面をなぞり続けていると急にディズニーシーのアトラクション、タートル・トークの切り抜きが流れてきた。権利的にOKなラインか分からないがとにかく療養中の自分には一番楽しいコンテンツだった。ファインディングニモの作中で出てくるウミガメのクラッシュが実際にそこにいる人と会話をしたり出来るライドなのだが、そのクラッシュがとんでもないMC力を持っている。もう普通にゴールデンの司会ができるんじゃないかっていうくらい。悩みなら的確に答えつつ、当人を傷つけないくらいに踏み込んだりして観客を笑わせる。人を傷つけない笑いを公の場で体現しているカメだった。そう、大前提クラッシュはウミガメなのである。そこがとても上手くて、海の中にある常識以外の質問が飛んできたらクラッシュは絶対にそれを知らない。改めて海の常識で例えたりして、ウミガメとして答えてくれる。これは友人とか上司とかに相談する時のスタンスとは訳が違う。我々は人間界を一旦脱出してただの生き物として話す事ができるのだ。他に一般の観客はいるのに質問する側も普段は言えないであろう気持ちの内側を曝け出したり、同行者に伝えれていない事をクラッシュを通して伝えていたりしていた。その後彼らがどうなっていくのかはもちろん分からないが、その瞬間は沢山の幸せそうなヒレが舞い上がっていたのだ。

クラッシュが芸能界に進出したら瞬く間に朝の帯と夜のゴールデンバラエティの司会の仕事が来る。そして、お昼と深夜のラジオからもオファーが来るのだ。お昼の帯番組ではアナウンサーさんと共に交通情報や、企業とのコラボコーナーを暖かい雰囲気でこなし、深夜帯ではテレビやお昼のラジオでは見れない、ウミガメの使命を降りたクラッシュが見えるのだ。基本的にリスナーのメールと一緒にふざけつつ、上手い事を言ったりして、企業から頂いたフルーツなどには初見として驚き、偶にブースに届くリスナーからの真剣なお悩みのメールにはウミガメとして最大限に寄り添い応える。それが素敵な放送としてギャラクシー賞にノミネートされる。僕は死ぬまでにクラッシュのオールナイトニッポン特番を聴いてみたい。年末年始の特番時期に年末年始って何のこと?って惚けて欲しい。
性格の悪いメタ的な欲望としては作家として入ってクラッシュがシフトに入る瞬間と、勤務を終える瞬間を見てみたいと思ってしまう。
ああもう子供じゃないんだな僕は。

一連の流れをラジオでも話したのだが、今は順調に回復して療養期間を終えた僕は今やもうダウ90000以外の上記のコンテンツ日常的に見なくなった。やっぱり僕にとってはそういうものなんだなと思いつつ、これらが無かったら乗り越えられなかったかけがえの無いコンテンツたち。また見まくる日が来ない事を願いつつ、いつかのクラッシュのオールナイトニッポン実現に向けて経験値を積んでいこうと思う。

んーこれはエッセイなのだろうか?笑


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