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【論文要約】北海道産トドマツ精油の詳しい成分がようやく公表された件。【トドマツ精油】

こんばんは!
今回は内容こそ科学的ですが、久々に林業テーマ記事に戻ります!
今回はざっと、北海道林業の主要樹種であるトドマツ精油の詳しい化学組成がわかったよ!という内容です。

モミ属トドマツ(Abies sachalinensis)は本州にはまったく生えておらず、北海道(ほかサハリン島や千島列島にも生えるが異国である)にしか生えていない地理的に限定的な針葉樹です。
そのため調査研究の盛んな本州のメジャーな針葉樹スギ・ヒノキと違って、調査データが少ないといった側面がありました。
単純にググっただけではGC-MSなどで出したトドマツ精油の詳しいデータは見つからず、トドマツの精油組成が知りたければ専門的な書籍を買うほかないという状況でした。

この書籍にはトドマツの”おおまかな”精油組成データが記載されているページがあります。
主な化学組成データは載ってはいるものの、0.1%程度までの主体成分がいくらかしか載ってなかったんですね。

そしてなんと今から1年も経たない2022年11月に、あるトドマツに関する論文が公開されました。

Improving the Efficiency and Antioxidant Activity of Essential Oil Extraction from Abies sachalinensis by Underwater Shockwave Pretreatment for the Construction of Low-Energy and Sustainable Essential Oil Extraction System

https://www.mdpi.com/2227-9717/10/12/2534

和訳タイトルは「低エネルギーで持続可能な精油抽出システムの構築のための水中衝撃波前処理によるトドマツからの精油抽出効率と抗酸化活性の向上」というなにやら小難しいタイトル。

ごく最近の2015年ごろから林業振興自然物利用自然志向の高まりによってトドマツ精油を扱ったアロマ商品が増えはじめました。
そういった潮流の中で、年々需要が上がりつつある素材であるトドマツ精油のより効率的な抽出方法を模索するといった内容の論文のようです。

■ざっと論文内容の要約

すーーーっごい簡単に論文趣旨を要約すると、北海道で多産するトドマツ精油の需要って年々増していってるから今ある素材処理技術(超音波水中破砕技術)で精油抽出量を増やせないかな?それにはどれぐらいのエネルギーコスト(経費)がかかるかな?といった事を評価する内容の論文ですね。

その一遍にトドマツ精油の詳しい成分解析表がついてました。
市民研究家のおいらからすると、ようやく精油成分の目安データが出されたか!といった感じです。
今回の記事で扱うのはそちらGC-MS解析データの内容です。
あくまで本論文はGC-MSによる詳しい成分解析だけで完結した内容ではないという事も抑えておいてください。

とはいっても、アロマ屋・化学者・調香師・農学者目線で見ると不備・課題も大きい内容となっていますが、、、
今回の論文発表により大きくわかったこと・変わることを主軸に解説していこうと思います。

精油の抽出技術に関する内容なのがメインな内容なので、何やらエネルギー計算の物理方程式がいろいろ登場してきます。
おいらエフゲニーマエダにはこのあたりはまったくわかりません。
農業的にも関係ない分野なので物理計算の部分に関しては割愛します。

内容の割愛について注釈

■トドマツ葉っぱより抽出した精油の化学組成

論文「Improving the Efficiency and Antioxidant Activity of Essential Oil Extraction from Abies sachalinensis by Underwater Shockwave Pretreatment for the Construction of Low-Energy and Sustainable Essential Oil Extraction System」より引用

なにやら数列がいっぱい並んでいますね。
なかでも今回注目したい箇所というのは、Untreatedの下にあるFresh(生葉素材であることを意味)です。
Driedと以降に続くSW項は一般蒸留家には関係ないところなので触れずに進めます。

過去GC-MSを使用してトドマツ精油の成分をこのように詳しく記載した例はありませんでした。
なのでこの論文により成分比を詳しく知ることができるようになったのは調香や医学の観点からも大きい進歩じゃないかと思います。

精油成分を評価してみる

トドマツの夏の葉っぱの成分を評価すると、、、

酢酸ボルニル〜27.65% (196.28 g/mol)
ボルネオール〜19.45%
(154.25 g/mol)
βフェランドレン〜10.56%
(136.24 g/mol)
カンフェン〜9.71%
(136.24 g/mol)
αピネン〜7.73%
(136.238 g/mol)
βピネン〜5.92%
(136.238 g/mol)
リモネン〜5.02%(
136.24 g/mol
ミルセン〜2.36%
(136.23 g/mol)etc…

というような成分構成になっています。
トドマツ精油の針葉樹らしい香りをつくっているスーッとスッキリ香る成分は、樟脳ほど強くは香りませんがボルネオールとカンフェンによるようです。
で、室内の空気清浄性が高いとされる物質フェランドレンは10%ほどの含有となっているようです。
やはり精油の主体は酢酸ボルニルで、質量が重めなので香りもややヘビーなものになります。

乾燥した素材から得た精油成分データもFreshの隣Dried項で算出されていますが、一般的な水蒸気蒸留においては素材を乾燥させると水分より揮発しやすい精油成分も一緒に揮発してしまいロスとなるので、ほぼほぼ生葉素材しか使いません。
例によってはハッカやラベンダーの精油生産のようにいくらかの乾燥工程を経る伝統メソッドもあるようですが。。。


■今回の論文で惜しかった部分・内容

そもそも論でこの論文趣旨は、精油抽出にかかる処理機構のエネルギーコスト計算だったりするので農学的・香り産業目線ではない内容なのはしゃーないのですが、あえてエフゲニーマエダの林業・香り産業・農学者目線で読むと内容の不備を指摘できる面がいくらか存在しています。

この内容補えたら別産業からみても完璧だよねー!という内容になるという意味ですね。

1.夏に採ったトドマツ葉っぱ限定である点

ニセコのトドマツ葉っぱを7月に採取したことを説明する植物材料の項

この実験に供した植物材料の項についてなのですが、精油組成データを得るための材料サンプルは北海道ニセコ町のトドマツから7月に得たもののみという内容になっています。

この点について、実は針葉樹の精油組成は精油組成は四季それぞれで大きく変わることが知られています。
(当然、樹種により組成や変動幅はさまざまですが。)

厳密にいうとトドマツ(Abies sachalinensis)では未だ検証されていないのですが、日本Main land・本州の主要樹種スギ(Cryptomeria japonica)ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)ではすでに京都大学の研究グループが針葉樹の精油組成の時期変動を検証して論文にされています。

四季それぞれスギの葉っぱから得られた芳香成分の動態(2013・京都大学)

上記こちらがスギ(Cryptomeria japonica)のデータ。

四季それぞれヒノキの葉っぱから得られた芳香成分の動態(2008・日本)

でこちらがヒノキ(Chamaecyparis obtusa)のデータです。

図をみてわかる通り、針葉樹が葉っぱに持っている精油は春夏秋冬それぞれ成分バランスが大きく異なっていることがわかっています。
気温や日射が変化する四季下では、精油品質はむしろ安定することがないんですね。

ということもあり、トドマツも同じ針葉樹として同じことが言えるだろうという事なのです。
ようするに、トドマツ精油の香りが夏蒸留と冬蒸留とではガッツリ変わっているハズなのです。

2.林業へ技術還元するならばサンプルの冬採取がベストだった

北海道林業の性質上、造材を目的にたくさんのトドマツの伐採が行われるのは、木材の水分が一番少ない冬季なんですね。

通常、樹木は冬になると水分のほとんどを根っこに送る性質があり、林業において冬に伐採を行うことのメリットとして上がる理由は
①木材の水分が少ないと丸太が軽くなるので、山現場からガソリンをかけずにトラックで工場へ運び出すことができる
②製材加工に回すまでの乾燥の期間・手間を省くことができる

などコストカットでみてもメリットが大きいため、主に冬に伐採が行われます。

なので林業の性質上、葉っぱがたくさん得られるのは冬になるワケです。
一般的に、夏期葉っぱは施行上、除伐や間伐くらいでしか出ない部位素材なので、実際と実験との整合性がなかなかとれてないよね、というのが僕目線でみた課題点だったりします。


■蒸留師・調香師的な見方。

さてここからが蒸留技術に関する有料部分となります。

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