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もの草子#3「空の境界-the Garden of sinners-」

初めに

 「そろそろ秋服に衣替えしようかしら」などと悠長に構えていたら、急な大寒波に絶望する今日この頃、いかがお過ごしだろうか。私はもうこの惑星に適応していく自信がなくなりそうです…と、ひとりごちたところで暮らし易くはならないので話を進めよう。この記事を開いてくれた読者諸君に早速だが質問したい。本日の副題をなんと読んだだろうか?初見では中々読めないと思う。こちらは「からのきょうかい」と読むのだ。もちろん、私の造語ではない。そんなセンスはない。これは、とある小説のタイトルである。今回は、そんな『空の境界』を読んだ私の覚書を残していこうと思う。最後までお付き合いしてもらえると幸いだ。

本題

講談社ノベルス版『空の境界 上/下』


作品紹介

 ひとまず、『空の境界』がどんな作品かご存知ない方々のために、簡単な概要を紹介していく。劇場版アニメの公式サイトに掲載されているあらすじはこちら。

「生きているのなら、神様だって殺してみせる」
これは、望まぬままに万物の生の綻び——死線を視る力「直死の魔眼」を得た独りの少女の物語。
名を両儀式という。
もとより「彼女」は自身に課せられた運命を無関心なまま受け入れていた。しかし、その生に疑問を抱いた刹那、皮肉にも二年もの昏睡状態に陥ることに。
やがて、目覚めの刻は訪れる。
そのとき、世界は変わっていた。
否、違っていたのは己だった。
かくして煌めくナイフを握り、日常と非日常の狭間に棲む怪異を追うことが唯一の生きる糧となる。
……見守る眼差しがあることを知りながら。

劇場版 『空の境界』公式サイトより引用

モノの死が視える不思議なチカラ「直死の魔眼」を持つ主人公・両儀式が“普通”の青年・黒桐幹也や凄腕の魔術師・青崎橙子らと共に、多くの複雑怪奇な事件に関わっていく物語。こう書くと、所謂ライト/ファンタジーノベルの類だと敬遠する方も少なくないだろう。実際、分類としてはライトノベル(伝奇小説とするパターンも。よく分からん。新伝綺ってなんぞや)にあたる。だが、本作は設定こそフィクション全開だが、読後感としてはサスペンスやミステリに近い。…なんかカタカナが多くなってきたな。ともかく、繰り返しになるが、特異な力を持った主人公とどこまでも普通な青年の物語だということを理解していただければOKだ。
 
 もう少し、作品情報を残して、紹介部分は終わりとしよう。本作は『Fate/stay night』『月姫』などでお馴染みのゲームブランドTYPE-MOONの作品となる。著者は奈須きのこ。イラストは武内崇が担当した。元々、同人サークル竹箒のHP上にアップしていたものが二転三転して一般書籍化されたのである。果ては劇場アニメーションとしてのメディアミックスまでされた。制作は後に多くのTYPE-MOON作品に関わることになるufotable。最近では『鬼滅の刃』で話題を呼んだ会社だ。とまあ、人によっては全く要らない細かな情報も書き終えたので、本編の感想の方に入っていこうと思う。

感想

※ここからは『空の境界』本編のネタバレを含みます。
また、読後のテンションそのままに長文を書きました。ご了承ください。

 まずは上巻(1/俯瞰風景5/矛盾螺旋)から。正直、読み進めるのに時間がかかった。奈須先生の作品は『Fate』シリーズや『月姫 -A piece of blue glass moon-』に触れていたので耐性はあったはずだが、それでも少し読みづらい部分があった。ファンがよく使う「『空の境界』はポエム」という言葉を身を持って体験した。特に第1章の俯瞰風景は「回りくどいな〜」という場面が多かったように思う。しかし、この章に関しては最後の最後で最高の叙述トリックを魅せてくれる。そう書くと安っぽく聞こえるかもしれないが。この構成を存分に楽しむなら、一切の事前情報無しで読むのがいいんだろうなぁ。私はタネを知っていたので、ちょっと勿体なかったと思う。
 続く第2章殺人考察と第3章痛覚残留から、物語は加速度的に面白くなっていった気がする。2章は本作の根幹に触れる部分について多くの謎を残しつつ、両儀式と黒桐幹也の織り成す物語にグッと引き込まれる。3章はミステリっぽい要素とフィクション、というか型月(TYPE-MOON)世界の設定や考え方の面白さがいい塩梅に盛り込まれていて良かった。

劇場版でも人気の高いエピソードである『痛覚残留』
魔眼使い同士の超常決戦は熱い。

 一つ面白いなと思った点は第4章伽藍の洞までのシナリオの展開方法。この章まで、主人公である両儀式やその周辺の事情については「こういうものである」と、あまり説明されないまま物語が進行していた。(殺人考察は別)そして、4章目にして、式が昏睡状態から目覚め橙子の下で怪事件に関わるようになるまでの話が明かされる。3章分も焦らすのか…と感心した。この作品は時系列が結構バラバラみたいなので、もう一度読み返すのも良いのかもしれないな。というか、人生の内にあと一回は読みたい。

 次は下巻(5/矛盾螺旋空の境界)について。こちらは、もう、なんというか圧巻だった。奈須先生の文章に慣れたのもあろうが、ページを捲る手が止まらず、一息に読み終えた。最後の100pくらいは駅のホームに立ち尽くして一気に読んでいた。正に、時を忘れて、というやつだ。 
 下巻から引き続き始まる第5章矛盾螺旋には各キャラクターの生き様がよく描かれていた。「無価値」と断ざれながらも意味を残して死んでいった臙条巴。柄にもなく、奇跡的な運命の螺旋の上にできた日常を守ろうとする青崎橙子。己の生涯をかけて理想を追い求め続け、死に際に真実を知りながらもまた理想を目指そうとする荒耶宗蓮。私の稚拙な文章と読解力では彼らとその物語を表現すること叶わず。原作を読んで欲しい。 
 第6章にあたる忘却録音は第3章の痛覚残留と似た、推理小説で真相が明らかになっていく時のようなワクワク感とその真相の陰鬱さ、型月ワールド全開のファンタジックな展開に目を離せなかった。幹也の妹である黒桐鮮花がメインキャラクターとして活躍するため、他の章とは少し違う独特の雰囲気があったのも面白かった。これは敵役である玄霧皐月の影響も大きいが。割と好きな章だった。

下巻で一番のお気に入りは、やはり『殺人考察』
「式と幹也の物語」はこれが最初で最後。


 第7章の殺人考察は、これまで紡がれてきた両儀式と黒桐幹也の物語の結末にあたる。個人的に終章の空の境界はボーナストラックみたいなものだと捉えているので、この章が実質的なフィナーレと言えるだろう。正直、私は両儀式というキャラクターがよく分からなかった。というか、きっと今でも1割も理解しているか怪しい。どちらかというと苦手なキャラだった。着物に革ジャンとブーツ、ナイフというデザインは気に入っていたけれど。しかし、この殺人考察を読むと、ほんの僅かだけ彼女のことを知れたような気がした。そして、好きになれた。普通じゃない彼女は普通な彼に出会って、ありふれた日常を夢見る。血生臭いサスペンスや魔術の飛び交うファンタジーではなく、二人で過ごすなんでもない日々に思いを馳せたのだ。それまでの式はいわゆるツンデレのような素振りを見せていたが、私は「結局、式って幹也のことどう思ってるんだろう」というのが心の中で引っかかっていた。その答えは、彼女自身もハッキリと自覚していなかったんだ。過去の記憶を取り戻して、いろんなことを思い返して、ようやく式と織の気持ちに気づいていく。その後に綴られていく式のモノローグに私は胸を打たれた。勝手に。さらに幹也についてもこの章で好きになった。命を秤にかけた白純の勧誘に対して「なんか、面白そうじゃないから」と断るシーンは少し驚いた。まぁ主人公が悪役の誘いには乗らないよね、とは思っていたが、理由が面白くなさそうと来るとは…正直、幹也の普通を追い求める感性は普通ではないのだろう。それゆえ、彼は孤独だった。人当たりの良い、純朴な青年として描かれてきた幹也のバックボーンは少し哀愁を感じさせる。…うん、もう何書いてるか分からなくなってきたな。とにかく、式と幹也が幸せに日々を暮らしてくれれば僕は満足です。

 全体を通しての感想は、一言で言うと、「難しい」だ。もちろん、面白い作品だったとは思う。だが、そんな簡単に感想を済ませる気にはならなかった。まだまだ、この物語を理解…いや、味わい尽くせている気がしない。登場人物についても、ストーリーについても、「何を伝えたいのか」という核心の部分を私は掴みきれていないと思う。傑作だ、というのは簡単だが、もっとこの作品にのめり込んだ上でなければ、私は胸を張って面白かったと言えない気がする。だから、とりあえず今のところは「難しい」という言葉で感想を締めたいと思う。

 読後の興奮冷めやらぬ中、とりあえず秋歯…違った秋葉原で外伝である『未来福音』を購入した。劇場版アニメも知人に借りてあるので準備は万端だ。もう少しだけ、この物語に浸れるらしい。こんなに嬉しいことはない…

星海社『空の境界 未来福音』
機会があったら『終末録音』の収録された20周年記念本も欲しい。

終わりに

 もの草子第3回、楽しんでいただけただろうか。今回も随分と長い文章になってしまったようで申し訳ない。最後まで読んで下さった方々には心より御礼申し上げます。『Fate/Grand Order』の2部6章や『月姫R』の影響もあって、最近は型月熱が急上昇しておりまして…次は『DDD』を読もうかなぁと考えております。それでは今回はこの辺で。良かったら過去記事も覗いてみてくだされば。季節の変わり目ですのでお体にご自愛くださいね。good-bye!!

#日記 #読書記録 #感想 #小説 #物語 #アニメ #つぶやき #TYPE -MOON

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