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「涙のシャンプー」 松本望太郎編


「どんな仕事だって儲けなければいけない。でも、それが目的ではない。お客様に喜んでもらいたい、お客様の笑顔が一番のごほうびなんだ━━。そう思ってがんばっていれば、自然に成果はついてくるんだ、ということを教えてもらったのです。」



「涙のシャンプー」 松本望太郎編



松本望太郎さんは、美容室・美容院の経営改善、人材育成などの理容業界のコンサルティングを行っています。


美容師さんたちと接している中で、たいせつなことに気づかされたと語っています。

どんな仕事だって儲けなければいけない。でも、それが目的ではない。

お客様に喜んでもらいたい、お客様の笑顔が一番のごほうびなんだ━━。

そう思ってがんばっていれば、自然に成果はついてくるんだ、ということを教えてもらったのです。


美容師さんの中には、仕事の喜びや楽しみを全身で感じている人、また反対にどうしても自分の仕事に喜びを見いだせなく、下を向いている美容師さんもたくさんいるそうです。


僕が行っている散髪のお店は、いつも一人でやっています。お昼ご飯も食べずに、電話がかかってきたときも、非常に遅くの時間まで予約を取っていました。


とてもハードな仕事なんですよね。


松本さんはそんな美容師さんを応援したいという思いから、「美容師という仕事は楽しくて、とても尊いものです」というメッセージを伝えたいと考えました。


まずは、「そういったエピソードを集めた本はないだろうか?」と探してみましたが、まったくありませんでした。


「どうやって伝えたらいいんだろう・・・・・・」


悩んでいるうちに、閃きました。


「この世に美容師さんの仕事のすばらしさを伝える話がないのであれば、自分がつくればいいんだ」


松本さんは、仲間たちに声をかけて回ります。


「美容師として感動した体験を、エッセイにして届けてほしい」


そうすると


1ヶ月後、200点を超えるエッセイが集まりました。


ビックリしました。
「行動する」ということの意味がわかったような気がします。


完成した本が「涙のシャンプー」です。


松本さんはまえがきで、このように語っています。


この本を手にした美容師さん、そして美容師さんではないご職業の方が、ご自身が今されている仕事を、もっともっと好きになってくれたらいいなと思います。


読み終わったあと、仕事とは……というより、「人を幸せにしたい」と思う美容師さんたちの人間性に共感しました。


人に喜んでもらえるということが、仕事をする上で何よりも幸せを感じることだと、あらためて思いました。


たくさんのエピソードの中から、このお話をご紹介します。


         ◇


Sさんが美容師になってまだ日が浅い、アシスタントだった頃の話です。


自信を持ってできる技術といえば、シャンプーしかありませんでした。


12月 


美容院にとっては、1年で一番忙しい時期。


Sさんは先輩の足手まといにならないように必死で、いっぱいいっぱいになっていました。


そんな時


お店の前に、1台のタクシーが停まりました。


「 (タクシーの運転手さんとお客さんが、何やら話している) 」 ※


(予約のお客様ではないなぁ……。どうしよう)


お店のドアが開くと、腰の曲がったおばあちゃんが入ってきました。


Sさんは笑顔でお出迎えすると


「あのね、私、シャンプーとブローだけ
してほしいんだけど、やってもらえるかねぇ?」


Sさんは戸惑います。


お受けしたい気持ちはあるのですが、
予約表には、隙間が一切ありません。


タクシーはもう出発してしまいました。


先輩に相談すると


「うーん……。

でも、シャンプーならあなたでもできるよねっ?お受けしていいよ」


ブローまでできるかどうかは自信がないSさんでしたが、わざわざタクシーで来られたおばあちゃんのために「精一杯やろう!」と心に決めます。


「お背中痛くないですか?」

おばあちゃんはにっこり笑っていいました。

「大丈夫よ。気持ちいいシャンプーして
もらうだもんで、このくらい我慢できるわ」


普段、先輩たちが髪を切る前の準備としての、また、施術したあとの流しとしてのシャンプー。


しかし


今回の目的は「シャンプー」です。


このシャンプーは、〝一部〟ではなく〝全部〟です。


Sさんは、先輩たちに厳しく教わったシャンプーを練習してきてよかったと、おばあちゃんのシャンプーしてる時に実感しました。


「こんな気持ちのいいシャンプーしてもらったのは久しぶりだったわ。ありがとね」

(中略)

「ありがとうございます!・・・・・・

でも、今日はたくさんある美容室のなかから、どうして私たちのお店を選んで来てくださったんですか?」


その質問に、おばあちゃんは何年も入院していたこと、気持ちのいいシャンプーがしてもらいたかったことをSさんに語りました。


そして


「タクシーの運転手さんもね、男性の方だから、美容室なんて行ったことないそうでねぇ。

それなのに、迷うことなくこのお店に連れてきてくれたのよ。行ったこともないのに、なんでこの店に連れてきたのかたずねたのねぇ。

すると、いつもここの前を通るとガラス張りの中が見えるけど、みんな笑顔で仕事しとるし、お客さんもきれいになって帰って行くから、ここはきっといい美容室だ。

おばあちゃんを安心して連れて行けると思ったんだ、といっとたんだよ」※


ちょっとした心遣いで、人を幸せな気持ちにできるのが仕事。


それは


仕事をする人の相手(お客様)に対する思いやりなんですね。


それがあれば、仕事は輝きます。


美容院の人たちも良い仕事してるけど、タクシーの運ちゃんも良い仕事してますよね!


episode・5 『〝幸せ〟は、タクシーに乗って』より






【出典】

「涙のシャンプー」 松本望太郎編  学習研究社


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