謎の会社「出前やかた」の呪い②
祓い
電話を切って30秒後折り返しが来た。
最初にアクセスしてから何度もかけ続け一週間。
なんとこれが出前やかた側からの始めて折り返しである。
妖怪無限折り返し地獄もついに覚悟を決めたらしい。
鳴り響く電話からは不気味なオーラが溢れ出していた。
こちらも覚悟を持って受話器を取った。
「出前やかたの林田です。」生気のない声が耳にこびりつくように入ってきた。
手始めになぜ折り返しをしないのかを聞いた。
「担当者の連絡先がまだ見つからなかったもので…」
恐るべき攻撃だ。一瞬怒りで我を失いそうになる。
ここで怒りを爆発させては相手の思う壺だ。
この期に及んで言い訳から入るのか?まず謝罪だろ!
見つからなかったにしても約束の時間までに中間報告をするべきだろ!
昨日一日何をやっていたのだ!
などという人間向けの感情は押し殺さなければいけない。とりあえず憑いているものを祓うのだ。
この手の妖怪を祓うのはそう難しくない。呪力を使うまでもない。
憑いているとはいえ中身は人間だ。人間としての自覚を取り戻させればいいのだ。
俺の場合は二択法を使う。
最初は簡単な質問から、相手に選びやすい二択を選択させる。
少しづつこちらの意図する方向に誘導する。
「林田さん。あなたは今お仕事中ですか?それとも休憩中ですか?」
「仕事中です。」
「そうですよね。仕事ですから約束は守らないといけませんよね。」
「あなたはオペレーターの部下ですか?上司ですか?」
「上司です。」
「上司なら責任をとらないといけない立場ですね。」
「ここのサポートセンターの仕事はその場しのぎをしているように感じます。」
「サポートセンターの仕事とは加盟店の問題解決をサポートするのがしごとですか?それともその場しのぎをして逃げ続けることですか?」
林田は少しの間をおいて震えるような声で答えた。
「問題解決をサポートすることです」
よしもう少しだ。
「そうですよね。林田さんの仕事はその場しのぎをするのではなく問題解決に向けて加盟店をサポートすることです。」
「私にはこの電話で林田さんにお願いするしかなす術がありません。」
「林田さんが担当者につないでくれれば林田さんの仕事は終わりです。」
「後は担当者と私のやりとりです。」
「なんとか協力していただけないでしょうか?」
電話口からはかすかに呻き声が聞こえてくる。
もうひと押し。
「サポート出来ますか?出来ないですか?」
返事が返ってこない。
だが不気味なオーラが消えていく気配は感じられた。
糸口
「全力でサポートさせて頂きます。」
ハッキリとした声が帰ってきた。
「色々とご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。」
「今日中に担当者と連絡をとり折り返し連絡をいれるように伝えます。」
その言葉を聞き祓えたことを確信した。
「それでは念のため15時に進捗状況を報告お願いします。」
「報告、連絡、相談は常識ですからね。約束を守る。責任を持つことも社会人としては当然ですよね。」
再度憑かれることもある為あえて人間としての縛りをかけておく。
14:55 林田から報告の電話が入る。5分前行動。社会人の常識をとりもどしている。
「担当者と連絡がとれました。請求書についてまだ調査中なので調査が終わり次第折り返すとのことです。」
「ええっ!」
思わず声がでた。
まだ祓えていない?
いやあの時祓えたはず。また憑かれた?
いや林田は祓えている。その証拠に時間通り折り返してきた。
縛りも効いている。
これは担当者の方の呪いだ。
向こうの呪いが強く林田が逆らえないのだ。
せっかく糸口が見えてきたところでまた壁にあたる。
まあ俺の仕事ではよくあることだ。
だが林田の呪いは祓えている。ここは林田を通して俺の呪力を使う。
林田を通して担当者に縛りをかけ折り返し電話をかけざるを得なくする。
「林田さん。私が最初にサポートセンターに電話して要件を伝えた時、オペレーターはどう対応したかわかりますか?」
「はい。担当者から折り返ししますとお答えしたはずです。」
「そうですよね。オペレーターから担当部署に連絡して担当者が加盟店に電話する。それが御社の正規の業務の流れですよね。」
「はい。その通りです」
「担当者が折り返して直接加盟店と話し合う。その中で応えられるものはその場で対応し、調査が必要であれば調査の時間をもらう。この手順で合っていますか?」
「合っています。」
「だとすると、その担当者は手順が違います。」
「まず加盟店に折り返しの電話をするという手順が抜けています。」
「林田さんはサポートセンターの責任者として正規の手順を守らせる責任があります。」
「手順を守らない、つまり御社の社内ルールを破っているのはその担当者です。」
「調査の前にまず加盟店に折り返し電話をしてください。と担当者に伝えてください。それが御社のルールです。」
林田は「わかりました」と力強い声で答えた。
さらに自分から「いずれにしても17時にはご報告の電話をいたします」
と言ってきた。
俺は思わず笑ってしまった。
ちょっとしたことだがこの仕事をしていて嬉しくなる瞬間だった。
※言うまでもなくこの物語はフィクションです。固有名詞はすべて架空のものです。
リスペクトを込めて様々な作品をオマージュしている部分もあります。
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