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出版社の「自社本を分析しない」問題

今宵、本の深みへ。
編プロのケーハクです。

今回は賛否があるかもしれないと、少しビビりながらも勇気を出して思ったことを書きます(笑)。

先日、前夜メンバーたちとこのようなテーマを話し合いました。

「売れる本と売れない本」の違いとは?

まあ、経験則での話になるので、こうじゃないかという個人的な仮説を述べつつ、実際にうまくいかないことのほうが多いという事実に打ちひしがれ、どんどん声量を失っていくざんねんな展開に……(笑)。

結局のところ、企画に対する熱量を込め、あとは時の運にまかせるしかない! といった「編集者であれば共感しやすい」結論に落ち着いた(?)感じでしょうか。

このとき、私はなにも言いませんでしたが、少し期待外れな気持ちになったのはたしかです。

客観的な分析やメソッドを学びたい期待値が大きかったせいかもしれません(笑)。

(殿に意見する御家人の気持ちで)憚りながら、申し上げますが……
「え? そんなんでいいの?」と。

出版社は意外とデータ分析をしない

普通の企業であれば、自社製品の売れ行きとか、傾向、プロモーションの費用対効果など、いろいろとデータをとって分析すると思います。いわゆるデータマーケティング的なことですね。

さまざまなデータから自社のヒット商品の法則を導きだし、次の商品開発に活かすやり方って、どこでもやっていることなのではないかと。

出版社ではない、外部の編プロにいる私から見ると、出版社って意外とそういうデータ分析ってしてないな〜と感じています。

もちろん、取次とか、大手書店の売上部数は見ていると思いますよ。
でも、多くの場合、それだけのような気がします。

「初速の動きがいいね〜」
「新聞広告を打ったらこれまでの5倍注文が入った」
「あそこの書店で売れているから、他の書店でも仕掛けよう」
「この本を買っているのは、女性が8割を占めている」
「通常の売れている本の2倍のペースで売れている」

私も外側の人間なので、編集や営業さんの言葉を拾ってみた限りになってしまうのですが、およそ出版社におけるデータ分析って、これくらいのレベル感が多いのではないでしょうか?

部数の動きに対する「なぜ?」という問いに、確実に答えられない状態。

こういう感じだと、やはり「結果論」や「ざっくり予測」「皮算用」的な法則しか得られないのは当然のように思います。

「予算が限られているからA Bテストなんてできない」とか、いろいろ事情があるのはわかります。しかし、できることはやったほうがいいのではないかな〜と思います。

批判するだけだとアレなので、ここからは私の勝手な提言です(笑)。大掛かりにすると、非現実的な感じになってしまうので、誰でも思いつくカンタンなことに絞りました。

小さな提言

◎とにかく記録

部数だけでなく、いろいろ記録をとることで見えてくるものがあると思います。
たとえば……

  • 仕掛けの効果(具体的に何を実施し、その結果どうなった?)

  • 新聞広告の効果(どの新聞に? どのタイミング? どの書店で動いた?)

  • 時事&現象(たとえば選挙、五輪、戦争、災害、パンデミック、国際情勢などの影響。天候、季節の特徴なども。どんな本がどれくらい動いたか? 変化はあったか?)

  • 発売タイミングとジャンル(各ジャンルの発売時期と初速の結果は?)

  • 著者の発信力とその影響(メディア、フォロワー数、実売部数)

挙げればキリがないですが、法則のヒントを導き出すような項目を可能な範囲で決め、(目的を定め)コツコツと詳細な記録をとっていきます。起きたこと&行ったことに対する数字を把握すると、ヒット商品のアイデアにつながるのではないかと。

◎本の担当を設ける

出版営業はエリアで担当分けしていることが多いと聞いていますが、これに担当本の概念を加えたいところです。一冊の本の市場ストーリーを詳細に追えないと、分析が散漫に。こうしたらこうなった、これが起こることでこう変化したという全体の流れを把握・記録する人的システムが欲しいです。

◎きちんと仮説を立て、検証する本をいくつか企画する

現状は編集者の熱意だけでつくってしまう傾向(個人の能力頼み)が強いかと。出版文化を豊かにするためなら、そのやり方でも良いとも思います。が、同時に市場を守るために、売り上げを立てるベストセラーを意図的に狙っていくことも大事です。

そこで、データから導き出した仮説のもとに企画を立案し、発売時期からPRの方法まできっちり計画的に行い、結果を検証するためだけの本も年に数冊制作したほうが良いと思います。

そこから得る情報は、とても貴重な財産になるかと。

そのために「○○出版社ベストセラーの法則プロジェクト」みたいな社内ミッションを課すのも良いのでは?

最小のリスク&リソースでやるなら、ひとりの編集者&営業担当者がタッグを組んで、徹底的にデータに寄った企画にとりかかるのも面白いですね。もしくは期限を切って、編集部全体でデータ取り企画のキャンペーンを張るパターンもありです。

以上、大した提言じゃなくてすみません……。
私も所詮こんなもんです(笑)。

「売れる本 < つくりたい本」の傾向が強い

編集者は「面白い本をつくる」ということに重きを置きがち。売れる本を開発せよというのは、会社から課せられた使命なので、割と消極的(二の次)に考える傾向が強いのではないかと思います。

だから、データ分析とか苦手だし、あまりやりたくない……というのが本音なのかもしれません。

「外の人間が勝手なこと言いやがって」と思うかもしれませんが、会社として商品開発における成功法則を持つことはとても大事なことではないでしょうか?

今までの方法で結果論的な法則、個人の経験則しか得られていないのであれば、なにかできることから始めるべきだと思います。

「今年参院選があるから、これ企画すれば確実に売れるよ」みたいな裏付けのある提案ができたら、超カッコいいですよね(笑)。

編プロの編集者としては、出版社の編集者さんから着実な「売れる法則」の観点から助言をもらえたら、なんと頼もしいことか!(ぜひ欲しい!)

偉そうな批評家になるつもりはサラサラありません。
もし、一緒にできることがあれば、もちろん協力します。

「ベストセラーの法則プロジェクト」を立ち上げたい出版社の方がいらしたら、ぜひ編プロのケーハクにお声がけください(笑)。

文/編プロのケーハク

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