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読書人口が半分に減った世界で、編集者はいかに本を売るか?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

2024年もあっという間に上半期が終了。今年に入ってからも出版不況は相変わらずで、書店の数もますます減っているな〜という印象です。

本を売りづらい状況のなか、かろうじて担当本は重版しているのですが、やはり売れる勢いが数年前より減退している感じがします。

このままの作り方、売り方ではいけない気はしているけれど、正直、編集者単体の力ではどうにもならないので、危機感を抱いたまま悶々としているというのが、現場全体のリアルな状況といえるかもしれません。

そのような状況のなかでも、ほとんどの編集者は、「世のなかに役立つのではないか?」「これは本当に面白い!」「必要としている人がいるに違いない!」と、誠実に本づくりに向き合っていると思います。

作っているときは、その情熱で夢中になっているからよいのですが、その本が世に出てから頭を抱えるというパターンが、数年前よりさらに増えているのではないでしょうか。

『アベンジャーズ』シリーズのラスボスだったサノスが、指パッチンで宇宙の人口の半分を消し去ったように、本というメディアを利用する人は、もはや国内の成人人口の半分まで消滅してしまいました

その傾向はお隣の韓国でも同様だそうで、年一冊も本を読まない人の割合は6割弱まで上昇しているとのこと。読書離れの傾向は、日本だけが特殊な例ではないということですね。

読書人口の減少の理由として挙げられる「時間がない」「スマホの利用」というのは、もはやお馴染みのレギュラー項目です。この状況は絶対に変えられないので、そんな時代変遷の流れにのって出版業界も策を講じないといけないのですが……。

現状において本を選択する利点ってあるの?


YouTubeとかTikTokなどの動画メディアって、スキマ時間で気軽にサクサク観られるので、「時間をつくる」というハードルも低いし、知りたい情報はほとんど検索できるので便利ですよね。

XやInstagramといったSNSも、自分が好きなジャンルのリアルタイムの情報や、インフルエンサーのリコメンドなどもあって、必要な情報を得やすいですし、これもほかの行動と「ながら」で時間を使える便利さがあります。

また、LINEなどの通信アプリによって友人知人と常にオンラインでつながっている状態が続くと、ひとりで過ごす余暇時間そのものがほんのわずかでしかないという実状もあります。

このような状況のなかで、本というメディアをわざわざ選択する利点って、存在するのでしょうか? 

本というものは……、

情報の密度は濃いです。膨大な量の情報、知識がコンパクトにまとめられています。ある程度まとまった知識が必要な場合は効率がよいメディアなのではないでしょうか。また、フィクションにおいても物語の詰め込まれるボリュームが大きいので、他メディアより長く深く楽しめるのが利点です。

読む時間、スピードなども自分でコントロールできるので、やろうと思えばスケジュールに組み込みやすいものではあります。

冊数が多くなると、物理的にかさばるのが問題ですが、コレクターズアイテムやアナログなデータベースとしての価値、部屋に並べることのインテリア性などの価値もあるかと。やはり場所を取るのが嫌だということであれば、電子書籍という選択肢もあります。

教養や読解力の養成をはじめ、他にもたくさんあると思いますが、本というメディアの主な利点って、ざっくり整理すると上記のようなことだと思います。

逆に不利な点を挙げると、「値段が高い」「本屋に行かないと買えない」「ネットショップでも即時に手に入るものではない」「集中する時間が必要」「読書の習慣がないと行動に移すまでのハードルが高い」というのがあります。

で、これら本のメリットやデメリットを踏まえ、「タイムパフォーマンス」や「スマホの利便性」などと比較検討してみるとどうか……贔屓目に見ても劣勢です。

小説などのフィクションは一冊1500〜2500円だと、同じ金額を払えばNetflixやhuluといった動画配信サービスが見放題ですから、娯楽としての費用対効果はよくないといえます。でも、原価がかかるので本の価格は下げられないのが現実です。

学術や実用の情報なども、ネットだと膨大な量の情報から検索する手間がありますが、それさえ頑張れば無料で済むので、圧倒的に不利といえます。

本屋以外でも買えるようにしたいところですが、本の原価率って6割とかになるので、小売店では儲けが少なすぎて置いてくれませんし、現状の制度のままでは、事実上流通が不可能ともいえる状態です。

本というメディアの形を残すのであれば、かなり業界全体の仕組みを変革しないと無理なような気がします。根本から考え直し、再構築するレベルかもしれません。

本屋という業態の改革、出版流通の制度や仕組みの見直し、市場規模を世界に拡大したコンテンツの制作と環境整備とか、課題がデカすぎてイチ編集者である私の手には負えません……(偉い人たちよ、どうか)。

そこまでせずとも、できる範囲で今の便利な主流コンテンツのスキマに食い込む方法を考えるなら、オーディオブックはアリかな〜とは思います。

車の運転、就寝前、筋トレ、電車通勤、いろいろな状況下で目を使わずに「ながら」視聴できるのは、残り少ない可処分時間に食い込むのに有効なのではないかと。

実際に成人の4割弱は、オーディオブックを利用したいと考えているそうなので、音声メディアにすることを前提として、その利点を活かす本づくりを考えてもよいのではないかと思います。

ただ、それも、文章表現の価値を耳で受け取るには限界があるので、音による変換が容易なエンタメとか、ノンフィクションとか、ビジネス書とかに限定されるものではあると思います。実用などのビジュアルメインのコンテンツも無理ですね。

人気の俳優、声優、ナレーター、芸人などを起用して付加価値を付けたり、音の演出をかけたり、A I音声を使って制作費を削減したり、本を音声メディアにする何かしらのメリットを加えるとさらによいのではなかろうかと。さらにいうと紙の本を買えば、セットで付いてくる感じが理想かと思います。

このように、ない頭を振り絞っていろいろ考えてみましたが、「とにかく今のままではマズイ」ので、「文化的に重要だから残す」方向だけでなく、時代に合ったメディア変革を本にもたらして、多くの人が「これは使いたい」と思える利用価値を見いださなければいけないな〜と思います。

たぶん、このままだと、売れる本だけ売り伸ばすデータ至上主義にならざるを得なくなるでしょうし、中小の出版社が倒産したり、大きいところに吸収されたりする傾向はますます加速すると思います。そうすると出版の多様性が失われ、本の価値そのものが奪われていくことになりかねません。

本の価値、出版の意義が失われていくと、当然著者も自身の考えや作品を発信するメディアに本を選択することが減ってくるでしょうし、そうなると出版社は本を作ることさえできなくなる可能性も考えられます。

音楽や映画のように、本がなくなることはないでしょうが、メディアへの触れ方やビジネスのあり方などは変わってくるでしょう。そうしたときに、業界全体で力を合わせながら、柔軟に対応できるようにしたいものです。

文/編プロのケーハク

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