フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #9 喫茶セブン(三軒茶屋)
カップルが一夜で急増したり、カップルの2人がそれぞれの時間を過ごすべくグラウンドから消えていく『後夜祭マジック』のように、若者が吸い込まれるように入っていく『純喫茶マジック』がある。
聞いたことないのに、どこか懐かしさを勝手に感じてしまう歌謡曲が流れる店内。レトロな照明、黒電話、オープンキッチンから漏れでるパスタの匂い、フラスコ式コーヒー、壁にかけられた統一感のない絵画たち。
そして、思わず覗きたくなってしまう外観。
今回の舞台『喫茶セブン』は、小説に出てくる喫茶店を連想させ、学校帰りにこんな場所があったら通いたくなってしまう、若者を惹きつける喫茶店。友だちの家のような場所だ。
ぼくはここで、ビジュ買いならぬ、ビジュ写でクリームソーダと出会いたくなった。アイスクリームとメロンソーダ、そして欠かしてはならないさくらんぼ。緑と白と赤のコントラスト、そして喫茶店の肘掛け椅子や壁との調和。この写真を撮ったとき、喫茶店雑誌を作ったら、第一号の表紙はこれだ…!と思える1枚だった。
クリームソーダは、時間がたっても楽しめる飲み物で、まるでいろんな食べ方が体験できる「お茶漬け」のようだ。
最初はアイスクリームをがぶり。次にメロンソーダの部分を味わって、ちょっと混ぜてアイスとメロンソーダが両方感じられて、だんだん時間が経ってくると、ミルクセーキを飲んでいるような錯覚に陥る。ああ、もうクリームソーダの虜になってしまった。
純喫茶は、少しずつ街の中から消えていっている。まさに絶滅危惧種だ。
気になっていたところがいつの間にかシャッターがずっと降りっぱなしだったり、閉店の貼り紙がされていたり。
でも、喫茶セブンのように、純喫茶が、新しい出会いを作ってくれたり、青春時代の思い出を彩ってくれたり、親世代が思いを馳せていたものを体感できたりしてくれる。訪れてみないと分からない、人を惹きつける『純喫茶マジック』をいろんなところで味わいたいと、勝手に願ってしまう。
純喫茶マジックの余韻から覚めぬ前に、ごちそうさまでした。
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