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フードエッセイ「アイスクリームが溶けぬ前に」 #22 キッチンあだち(三島)


幼少期、家族によく連れて行ってもらったお店で、
自分がご馳走する日が来るとは思ってもいなかった。


小学校高学年になり、お子様メニューからの卒業を果たし、いざ通常メニューの世界へ。それでも、一人前の量が多い料理だと、付け合わせのキャベツが残ったり、キャベツを先に食べ始めたらカツやご飯を残してしまったりと、全クリ(完食)出来ずによく父にバトンタッチしたのを思い出す。


大人になった今、家族やパートナーとご飯に行くときは、
わんぱく小僧ぶりを少し殺して、誰かがお腹いっぱいで食べきれなかった用に、腹七部くらいの量を頼むように心がけている。あまり行ったことないけど。


社会人なりたての頃に迎えた父の日、母の日、家族の誕生日は、モノのプレゼントをしていたが、一緒に暮らしていないこともあり、最近はご飯をご馳走するというプランが定直しつつある。「家族で過ごす時間」「共にする食卓」がプレゼントといえるかは、別として。



今日は父の誕生日。

父だったらこの場所がいいかな…と思い、幼少期からの我が家行きつけの「キッチンあだち」へ。ドライバー泣かせの駐車場の狭さをなんとか切り抜け、入店。3人ともこのメニューになることもしばしば、「Aセット(ヒレカツ、カニクリームコロッケ、エビフライ)」をオーダー。


「出来立てをご賞味いただきたく、作り置きはしておりません」の言葉に、最高です…と伝えたくなる。揚げ直して提供するのでもなく、オーダーを受けてから作るスタイル、作っているシェフのこだわりを感じる。


ヒレ肉とエビにまとう衣の美しさ、山盛り千切りキャベツの迫力、キャベツにのっかるパセリの頂上感、おしんこに冷奴の脇役たち、店名入りの湯呑みに入ったちょうどよい温度のお茶。物価高の現代、税込1,550円で味わえるなんて信じられない。


美味しいご飯を食べていると、一緒に食べていることを忘れ、無言の空間が広がるようで。「美味しいんだから、邪魔しないでね」という匂わせメッセージを、暗に感じ取る。


隣のおじさんがオーダーした「カツ丼」を横目に、目の前のフィールドをきれいにしていく。ここのフライを食べた翌日は、揚げ物を本当に食べたのか…?となるほど、胃に溜まる感覚はない。次はカツ丼も食べたいな、、という余裕が出るほどに。


完食した面前を見ながら、お冷と湯呑みのお茶を交互に飲みつつ、「今日も美味しかった」と心の中で合掌する。さて行きますかという合図のもと、お会計。お釣り待ちをしているタイミングで、「ごちそうさま」と両親から言ってくれたとき、少し感慨深くなった。あと何回、「ごちそうさま」ってお互いに言えるだろうか。1ヶ月に1度くらいは、家族で食卓を囲む時間を作ってみようかと、思える瞬間だった。


今日もごちそうさまでした。

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