見出し画像

2022年映画ベスト10

みなさんこんばんは。
そして明けましておめでとうございます。
今回は昨年の映画を振り返ってみたいと思います。

総括

 今年はいつもに比べて気に入った映画が極端に少なかったです。特に日本映画の実りのなさは今まで経験したことがないほど。
 これキネ旬のベストテンどうなるんですかね?10本もないと思うんですが…
 『PLAN 75』早川千絵、『マイスモールランド』川和田恵真などの新鋭も出ましたが、いつもに比べると小粒な印象です。『37セカンズ』HIKARIや『あのこは貴族』岨手由貴子のようなインパクトがなかったですね。
 また作品を発表しなかった常連監督も多かった気がします。黒沢清、是枝裕和(『ベイビー・ブローカー』は韓国映画)、石井裕也、西川美和、原一男、真利子哲也などの新作がなかったですね。また青山真治が亡くなったことも大きいですね。
 そんな中、作家性が強く出た映画、またマイノリティを扱った作品で気に入ったものが多かったです。

2022年日本映画ベスト5

①エゴイスト
②愛なのに
③流浪の月
④LOVE LIFE
⑤さがす

 いつもなら外国映画と日本映画それぞれのベスト10を出すのですが、今年は日本映画のベストがどう頑張っても10いかなかったので5にしました。
 『エゴイスト』は一般公開は来年ですが、東京国際映画祭で観てあまりによかったので入れてしまいました。鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子の演技が凄まじく、また凡百のマイノリティのその先へ行こうとする姿勢が素晴らしいと思いました。
 『愛なのに』は軽快でブラックな恋愛喜劇。今泉脚本と城定演出が上手くハマり、恋愛の本質をみせることに成功していると思いました。瀬戸康史を中心としたアンサンブル感もいいですね。
 『流浪の月』は流石李監督、映像的な完成度は頭一つ抜けています。ただしペドフィリアという題材に関して誰もが納得できる描き方かと言うと微妙なところがあるんですよね。
 『LOVE LIFE』はヴェネツィア映画祭コンペに出品された作品で、大好きな深田晃司監督ということで非常に期待していました。確かにいい作品ですし、これもストーリーの完成度で言うと文句のつけようがありません。しかし僕の大きすぎる期待を上回ることはありませんでした。監督の手癖で作っているような感じを受けてそこまで好きではないです。
 『さがす』は片山慎三作品で初めて好きになった作品かもしれません。『岬の兄妹』は正直微妙だったのですが、それを遥かに凌駕する快作だったと思います。

2022年映画ベスト10

①グリーン・ナイト
②TITANE チタン
③呪詛
④マンティコア
⑤エゴイスト
⑥DAU.退行
⑦マンディブル 2人の男と巨大なハエ
⑧BEGINNING ビギニング
⑨ふたつの部屋、ふたりの暮らし
⑩スクール・フォー・グッド・アンド・イービル

 いつもに比べると悪い意味で選ぶのに難儀しました。正直6位から下はいつもなら次点にする作品かなと思います。
 『グリーン・ナイト』は素晴らしかったですね。アーサー王伝説の外伝というクラシックな題材を卓越した映像センスで表現した傑作です。巨人のシーンが今でも目に浮かびます。デヴィッド・ロウリーとロバート・エガースはアメリカアート系映画監督で一番好きです。
 そして上半期ベストに選んだのが『TITANE チタン』です。あの怪作『RAW~少女のめざめ~』のデュクルノー、やってくれましたね!これぞパルムドール!という奇怪な作品です。セクシャルを超越し予想のつかないところへ持って行かれてしまうクラクラするような感じが素晴らしかったです。
 『呪詛』は配信映画として2022年一番話題になったのではないでしょうか。台湾のホラー映画で、本国で記録的なヒットとなった作品です。冒頭からもう、これはひと段階違う怖さだなと分かるほど。呪いの正体、呪いの効果、そして悪魔的な締め方も何から何まで怖い作品でした。劇場公開されたどのホラーよりも怖かったです。
 『マンティコア』は東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された作品です。スペインのカルロス・ベルムト監督は『マジカル・ガール』『シークレット・ヴォイス』で世界的に評価されており、大好きな監督です。特に『シークレット・ヴォイス』は人生ベストに入るほど好きなので期待していました。そしてその期待を軽く超えてくる作品でした。その展開力は健在、美しくも不気味な映像美が面白かったです。おそらく神話をもとにしているのだろう結末とキャラ設定も品格があってよかったですね。
 『エゴイスト』は前述の通り、今年の日本映画では頭一つ抜けています。
 『DAU.退行』はロシアの作品です。「DAU.」シリーズの第一弾として『DAU.ナターシャ』が昨年公開され、その第二弾となります。DAU.プロジェクトはとにかく規格外。主要キャスト400人、エキストラ1万人を実際につくった架空の都市に住まわせてソ連時代を再現した暮らしをさせるという壮大すぎてよく理解できないプロジェクトの一つです。その公式サイトでは既に10以上の作品が発表されていて、日本で公開されたのは氷山の一角に過ぎません。それでもこの作品だけで6時間超えという…得体の知れない作品でした。
 『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』はまあ、バカ映画です。副題の通り2人の男となぜか巨大化したハエの珍道中という映画です。これは劇場公開されず、JAIHOで配信されました。監督のカンタン・デュピューは非常に注目されていて、昨年『地下室のヘンな穴』が劇場公開され、新作『タバコは咳の原因になる』が東京国際映画祭で上映されました。他にも『勤務につけ!』が同じくJAIHOで配信されたりと俄にファンを増やしている印象です。気の抜けた話の割に映像や美術がもの凄く凝っていたりとヘンなバランスがクセになります。今後も期待です。
 『BEGINNING ビギニング』もJAIHOで独占配信された作品です。第93回アカデミー賞ジョージア代表として提出された映画で、これまた強烈な女性映画でした。レイプシーンがもの凄かったので気をつけた方がいいかもしれません。静かな画面にジョージアで少数派として生きる辛さがこれでもかと刻まれる一作でした。
 マイノリティという意味では『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』も印象深いです。本作も第93回アカデミー賞フランス代表作品で、最終選考まで残ったもののノミネートはされませんでした。今までレズビアン女性が描かれることはあっても、高齢レズビアンカップルが描かれることはあまりなかったのではないでしょうか。若者以上に難しい高齢女性同士の恋愛をスリリングに、そしてロマンチックに描ききったこの作品を大いに称えたいです。監督は新人ということで粗さはありますが、実に素晴らしい作品だと思います。
 一番最後に観たのは『スクール・フォー・グッド・アンド・イービル』でした。こちらもNetflixオリジナル作品で劇場公開はされていません。『シンプル・フェイバー』のポール・フェイグ監督で、シャーリーズ・セロン、ミシェル・ヨーが出演で悪いことある!?と思うくらい期待していたのですが、批評家の反応は辛口。まあそれも分かるなというくらい脚本に穴が多い作品ではあります。でも最近ファンタジーに飢えていたこともあって、本作の華やかとダークさが混じり合ったファンタジー世界はかなりいいと思いました。女子二人の友情物語としても実に爽やか。ただどう考えても長過ぎですね。ドラマにした方がいいのかなと思いました。

2022年ホラー映画ベスト10

①呪詛
②ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス
③NOPE ノープ
④X エックス
⑤哭悲
⑥バーバリアン
⑦女神の継承
⑧ナニー
⑨オンマ/呪縛
⑩戦慄のリンク

 『呪詛』は前述の通りです。
 『ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス』は上半期ベストに入れていた作品です。ホラーにも関わらず第94回アカデミー賞ハンガリー代表に選ばれた作品です。映像的に非常に凝っている作品でした。ともすれば笑ってしまいかねないぶっ飛んだホラー表現が面白く、撮影も美しかったです。
 『NOPE ノープ』はジョーダン・ピール作品ですが、前作『アス』があまりハマらなかったので不安がありました。でもそれを吹き飛ばす快作でしたね。あまりにも素晴らしい脚本に驚かされました。含蓄のある深い演出の数々はもはや職人芸。
 『X エックス』は昨年最も評価されたと言っても良い作品ですよね。ミア・ゴスのホラークイーンとしての佇まいはもう貫禄すらあります。湖を上から映した恐ろしすぎるシーンが忘れられません。
 『呪詛』と同じ台湾のホラーでありながら全く異なる『哭悲』も面白かったですね。あまりにグロいと世界で話題になっていた作品で、その評判も分かるなという強烈なホラーでした。シンプルなストーリーであるが故に残酷描写が際立つ作品でした。
 『バーバリアン』はアメリカでヒットしたのに日本ではDisney+での配信スルーとなってしまった作品です。二転三転する展開が面白く、閉じ込められホラーとしては『ブラックフォン』より断然良かったです。素直によくできた一作ですね。
 第94回アカデミー賞タイ代表に選ばれた『女神の継承』も今年のハイライトの一つですよね。かなり話題になりました。女神の正体に驚き、納得するしかない民俗ホラーでした。ただ、モキュメンタリーという方法が最大限の効果を果たしていたかは疑問に思うところがありました。
 こちらもAmazon Primeで配信スルーとなったのが『ナニー』でした。サンダンス映画祭で審査員賞を受賞し、インディーホラーとしてかなり評価されていました。雰囲気としては『アトランティックス』や『獣の棲む家』に近いなと思いました。移民を超常的な演出で描いた静かなホラーです。
 サム・ライミがプロデュースした『オンマ/呪縛』も劇場公開はされませんでした。おそらく期待は高かったものの、蓋を開けてみると否定的な評価が多かったのが原因かなと思います。サンドラ・オーを主役に据えた民俗ホラー、そして家族の呪いを描いた作品として僕は大いに楽しめました。
 『戦慄のリンク』はJホラー界の重鎮、鶴田法男の久々の監督作です。中国で製作されたもので、アフタートークで色々な制約があって大変だったと語っていました。ホラーというよりはサスペンススリラーといった感じですが、楽しい展開でかなり楽しめる一作でした。

2022年LGBTQ+映画ベスト10

①エゴイスト
②TITANE チタン
③ふたつの部屋、ふたりの暮らし
④ファイアー・アイランド
⑤鬼火
⑥落とし穴
⑦FLEE フリー
⑧チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-
⑨海に向かうローラ
⑩ホーホヴァルド村のマリオ

 『エゴイスト』『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』『TITANE チタン』は前述の通りです。
 『ファイアー・アイランド』はDisney+で配信された作品で、ジェーン・オースティン『高慢と偏見』をゲイに置き換えたという挑戦的な映画です。これがゲイラブコメとして非常に上手くいっています。こんな映画をずっと観たかった!
 『鬼火』は東京国際映画祭で上映された作品です。監督のジョアン・ペドロ・ロドリゲスは今非常に注目されている人物です。唯一無二の露悪的な性描写が全面に出た奇怪な作品です。ミュージカル調になっていて、その音楽センスも好きでした。
 EUフィルムデーズで一番気に入ったのが『落とし穴』でした。ラトビアの作品で、少年の成長を美しく描いたものです。マイノリティを主に描いているわけではないのですが、少年が出会う人物として「ある男」が登場します。その描き方が非常に感動的で好きでした。美しい映画です。
 『FLEE フリー』は昨年のアカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞、長編アニメーション映画賞の3部門ノミネートという初の偉業を成し遂げた作品です。ゲイがいないことにされる国を離れ移民として生きる辛さを描いています。ドキュメンタリーをアニメーションとして描くという手法は面白いですが、そこまでガツンとくる内容ではなかったというのが正直なところです。
 『チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-』も「ゲイなどいない」と公言するチェチェンから脱出しようとする人々をディープフェイクを用いてスリリングに描いたドキュメンタリーでした。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞、そして視覚効果賞の最終選考に残りましたがノミネートはされませんでした。切実なテーマではありますが、ドキュメンタリーとしては作りが粗い感じを受けました。
 『海に向かうローラ』『ホーホヴァルド村のマリオ』はEUフィルムデーズで鑑賞した作品です。作りとしては標準的ですが、世界各地でこういう映画が作られるようになったことは喜ぶべきことかなと思います。

2022年ドキュメンタリー映画ベスト5

①ビューイング・ブース-映像の虚実-
②ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦
③映画はアリスから始まった
④チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-
⑤インフィニティ : 無限を旅する

 『ビューイング・ブース-映像の虚実-』はかなり衝撃を受けた作品でした。ベルリン映画祭に出品された中編で、イスラエル問題についての映画です。しかしそれを超えて「人間の先入観」というものを気づかせてくれる作品でした。人はどのようなものに影響を受け、どのようにモノを見ているのか。普段意識していないことを考えさせられました。
 『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』の映像は圧巻でした。サンダンス映画祭で話題になり、今年のアカデミー賞も有力とされています。迫りくる溶岩と大地の不思議を本能的に体感させられる傑作です。
 『映画はアリスから始まった』は映画最初期に活躍したものの、ほとんど忘れられていた女性監督アリス・ギイを追った作品です。単純にアリス・ギイという人物を知るという意味で大いに意味がある映画でした。しかもこの人がつくった映画は面白く先進的!映画の始めから女性はその場にいた、それを知ることができた有意義な作品でした。 
 『チェチェンへようこそ』は前述の通りです。
 『インフィニティ : 無限を旅する』はNetflix配信の作品でした。これは「無限」という概念について学者たちが楽しそうに喋る映画で、Netflixにしかできないですよね。なかなかみないタイプのドキュメンタリーで興味深かったです。

ということで以上になります。
今年はいい日本映画にたくさん出会えるといいな。
読んでいただきありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?