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使える財務指標#4 佐川急便とヤマトで学ぶ「営業利益率」の使い方

「脱・丸暗記」の財務指標シリーズ4回目は「営業利益率」を取り上げます。企業の収益性を測るこの指標は、報道等でも頻繁に登場します。

なぜ「脱・丸暗記」か?

企業を分析するとき、どの財務指標を使うのが適切なのかは、なかなか悩ましく、簡単には答えが出ません。けれど、適切なモノサシを選ぶことができなければ、企業の実態を理解することはできません。

世の中には数多の財務指標が溢れかえっています。資格試験や社内の研修でこれらを勉強した経験がある人は多いと思います。けれど、多くの場合丸暗記になってしまっています。私もそうでした。

丸暗記型ではなく、使える財務指標をまとめていきたいと考えています。

営業利益率とは?

営業利益率をヒトコトでいうと「本業の収益力を表す指標」です。企業にどのくらいの儲ける力があるのかを示しています。企業の実力をざっくり分かりやすく把握できることから、新聞報道等で頻出する指標です。

計算式は「営業利益 / 売上高 x 100」です。企業の損益計算書(P/L)があれば簡単に計算することができます。

計算式は分かりました。けれど、営業利益の正体は何なのでしょうか。次に、経常利益など他の利益指標との違いを整理していきます。

損益計算書のマトリクス

損益計算書マトリクス

損益計算書には、いくつかの利益が記載されています。その中で営業利益は最も重要だと言われます。なぜなら、企業の本業の実力を反映しやすいとされているからです。損益計算書マトリクスを使って説明します。

そもそも損益計算書はその名の通り、企業活動の結果としての損失または利益を計算するための書類です。損益計算書マトリクスは、企業活動を2つの軸で分類するものです。本業か否かと、経常的か否かという軸です。

営業利益は「本業×経常的な活動」の領域で利益を計算したものです。だからこそ、営業利益は本業の収益性を示す指標と言われるわけです。

経常利益は、営業利益に営業外(本業以外)の損益を加えたものです。営業外は実際のところ、その大部分が財務活動によるものです。例えば、銀行預金に対する受取利息や、借入金に対する支払利息などが該当します。

ところで、本業かそうでないかは何を基準に判別するのでしょうか。

楽天やLINEが定款を変更した理由

企業の本業は、定款に記載されています。定款とは会社を設立する際に最初に作成する書類で、どんなに小さい会社にも存在します。そこには自社の事業は何かということが記載されています。

最近になって、楽天やLINEなど多くの企業が仮想通貨に関する業務を新たな事業として定款に加えています。これにより仮想通貨関連の売上は「本業」になるので、各社の営業利益に反映されるわけです。

逆に、定款に記載されていない事業から得られた利益は営業利益には含まれないことになります。

営業利益率の使い方

財務分析の基本は「比べる」ことです。ですから、営業利益率も何かと比較することによって、企業の実態をより理解しやすくなります。比較対象は、時系列や競合他社、業界平均などが一般的です。

また、営業利益率は粗利率と販管費率の差として計算することもできます。このように分解することによって、例えばユニクロのように高い粗利率を確保できるビジネスモデルなのか、あるいはしまむらのようにコストコントロールで販管費を抑える戦略なのか、などが立体的に見えてきます。

今回は事例として、宅配業界のSGHD(佐川急便)とヤマトHDを比べます。

佐川急便とヤマトHDを営業利益率を使って分析

ヤマトと佐川の営業利益率の推移

事例として、宅配業界のヤマトHDとSGホールディングス(佐川急便)の営業利益率の推移を追ってみます。すると、2013年に機に佐川がヤマトを逆転していることが分かります。

ターニングポイントとなった2013年は、佐川がAmazonとの取引を解消した年でした。佐川がアマゾンから撤退したのは、規模の追求をやめて利益率を高める方針に転換したからだと考えられます。

実際に「脱・アマゾン」直後の佐川急便の取扱量は、前年同期比で1割以上も減少しました。これだけの影響が予想されたにも関わらず、なぜ佐川はアマゾンとの取引を解消したのでしょうか。

佐川が脱・アマゾンに踏み切った理由は、アマゾンの交渉力が極めて強いからです。圧倒的な宅配の依頼数量を交渉材料に、アマゾンは宅配料金の値下げを要求していたと考えられます。

そのあたりは、ファイブ・フォース分析を使うと体系的に理解できます。

まとめ

営業利益率は「本業の収益性」を示す指標です。定款に記載されている自社の本業から、どのぐらいの儲けを生み出したかがわかる指標です。

SGホールディングス(佐川急便)の事例からもわかるように、営業利益率のトレンドが変わったときには、それに先立って何らかの経営判断がなされている可能性が高いです。

企業活動の変化がどういうような利益インパクトをもたらしたかを継続的にウォッチしていくと、ニュースの奥行きが感じられるのでおすすめです。

今回は以上です。

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