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第十五回読書会:森鴎外『舞姫』レポート(感想・レビュー)

教科書にも掲載される名作は、喧々諤々、白熱して凄かった!

今までの読書会で一番盛り上がった回でした!!

『舞姫』は名作!では名作とは?

名作とはどんな作品をいうのでしょうか?

名作の基準の一つとして「さまざまな解釈に耐えられるもの」というものがあります。

私の読書会で取り上げる作品は、この名作の基準に従い、「さまざまな解釈が可能」なものを取り上げるようにしています。

そうでないと、わざわざ読書会を開催する意味がないからです。

さまざまな意見に分かれるほど、実はそれだけ奥の深い作品というわけです。

意見の違いを披露して面白がることが、読書会の醍醐味です。

名作は長い年月読み継がれてきた作品に多く、それはつまり時代が変化し、価値観が変わっても、色褪せることなくさまざまな解釈に耐えてきた証しでもあります。

『舞姫』も正にそんな作品でした。

私も○○年ぶりに読み返してみたら、初読とはまったく違う結論に達しました!

凄いぞ!『舞姫』!感動!

「クソ野郎」が飛び交う読書会(笑)

この話は本当に、賛否両論別れる物語です。

鬼畜の所業(+o+)

ろくでなし(ー_ー)!!

クソ野郎(>_<)

などなどの罵詈雑言が飛び交いました(^_^;)

簡単にかいつまんであらすじを説明しますと、国費でドイツに来ていた主人公の豊太郎は、エリスという踊り子に出会い、彼女との間に子どもができ、悩んだ末に、寝込んでしまい、結局祖国に帰る流れにはあらがえなかった、その帰路の船の中で書かれた回顧録です。

これは本当に女性の立場としては、容易には承服しかねる物語でしょう。

本能としてこのような男性を許してしまうことはできません。

自分の命はもちろん、いずれ産褥となる身の上で父親が不在ということは、子どもの命にまで関わる一大事だからです。

しかも東洋人とのハーフとして生まれてくる子どもは、ドイツで白人よりも下に扱われながら生涯を送ることになりかねません。すでに不幸な新しい命は、想像を絶する試練に晒される、そんな事態を身重の立場で容易には受け入れられるわけがありません。

エリスは自立した女性ではなく、母親に虐げられ、踊り子として搾取されている、か弱い存在です。豊太郎にすがってやっと心のバランスを保っているような状態でした。

そんなエリスに対して豊太郎は、どっちつかずのあやふな態度をとり、結局帰国してしまうのです。

もはや読み手が発狂しそうです笑。

せめて腹を括ってエリスに嫌われるくらいの覚悟で、落とし前をつけてきて欲しかった。

どこまでも「良い子ちゃん」でいようとする「嫌われたくない」豊太郎は軟弱で決断のできない大バカ者です!

文語体に惑わされる読者

『舞姫』の第一の特徴は、文語体で書かれている点です。

言文一致の時代の流れとなっていた当時としても、文語体で書かれていることは、意味があると考えるべきでしょう。

実際に文語体により、読みづらさも相まって、物語が格調高く感じられます。まるで読者を選んでいるかのようです。

文語を操れるのは、所謂エリートと呼ばれる存在です。書き手はエリートであり、読み手もエリートに宛てて書かれているのかもしれません。とにかくハードルの高い作品です。

「石炭をば早や積み果てつ。」チーン。。。冒頭で撃沈です。

ほかにもよく言われているのが、文語体の方が時制がはっきりしていて、とくに「けり」「つ」といった過去を表わす助動詞により、物語が紡がれている時間より前の出来事であることを、はっきりと示すことができているというものです。

現代語の「た」は、実は時制として過去を表しているわけではありません。厳密には時間を表してはいません。動作の流れを一旦区切っているにすぎないのです。

『舞姫』はすでに過去の話として描かれていることが、文語体によって明確に表現されていると受け止めてよいでしょう。

そんな過去を雅な文体でつづられている話の中身はというと、臭気と狂気を放つ常軌を逸した異様な場面だったりします。

豊太郎がエリスに出会う最初の場面からそれは忍び寄っています。エリスが父の葬式が出せずにすすり泣いているところに出くわすのですが、不憫に思った豊太郎は、葬式代を肩代わりすることになります。

前田愛先生は論文の中で、土葬文化であるヨーロッパにおいて葬式が出せないとは、すなわち部屋のなかで朽ち果てていることだ、と気づかれ、死臭のただようグロテスクな室内風景を読み取ることができる、としています。

母親にいたぶられ、踊り子として働きに出ているエリスとの出会いには、すでに救いようのない残酷な狂気が漂っているのですが、美しい文語体に包まれて分かりづらくなっているのです。

出会いからすでに、狂気のラストへの布石はなされていることを読み取れるかと思います。

豊太郎の気持ちも分かる……

クライマックスでは豊太郎の未来に関わるような決断を迫られ、豊太郎自身は決断できずに、なんと寝込んでしまいます!

目覚めたのは数週間後。

その間にエリスは、豊太郎が日本に帰国することを知らされ、発狂してしまっていました。

このように豊太郎が腹をくくれなかった代償は、救いようのない悲劇となって返ってくるのです。

ただ、豊太郎も立身出世を願い、家を背負って、国を背負っている、期待された人材です。

20歳半ばの青年が、己の恋心を選択できずにいた気持ちも、今となっては理解できます。

(しかし、初読の際はまったく理解できませんでしたが!)


立身出世の中で自我が芽生えたとき

いわゆる世間の期待を一身に背負って邁進するエリートは、ある意味、自己の欲求を犠牲にしなければならない場面が多々あります。

そうでなければ、お家の、お国の存亡にかかわるからです。

親や先生に褒められることが嬉しくて勉学に励んできた豊太郎にとって、いわゆる「良い子ちゃん」にとって親や先生の望まない選択をとることは、全く考えの及ばない世界なのでした。

もしあなたが、未来を嘱望されたエリートの立場になったときに、豊太郎のことを責め立てることはできるでしょうか。

世のため人の為に役に立つ尊い責務に誇りを持ち、何年も精進してきた豊太郎は、簡単にはエリスを選べない事情があるのです。

これがエリートの悲劇というものなのでしょう。初めて芽生えた自我との格闘を、うやむやにして目を背け放置してしまいます。

私もやっとこの歳になって、豊太郎の気持ちを理解できるまでになりました。

私も腹をくくれず決断を先送りにしてきたものがいくつもあります。

もし誰にも遠慮することなく、世間体を払拭して自我を通せれば、また違った人生になっただろうに、、、

幸せとはなんなのか、考えさせられる名作です。

2021年3月13日土曜日開催

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