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意識のピント、感情のフィルター

ノートの上に落ちている髪の毛が実はペンで書かれた線だったという経験は、誰しも一度はあるのではないだろうか。

紙に書かれた線だと分かった途端に、さっきまで髪の毛に見えていた線は、もう髪の毛には見えなくなってしまう。その理由について、私は「意識のピント」がズレてしまうからだと思っている。

私たちはモノを見るとき「意識のピント」を調節しながら、対象に潜む様々な意味や印象を受け取っている。これは単に、見間違いによって同じモノの見え方が変わるという話ではない。

私が「ピント」という言葉をあえて使っている理由は、この認識の変化が生じるとき、同時に対象と自分との間に、距離感のような感覚の変化ももたらされるからだ。

少し分かりやすいよう、生活の中で「意識のピント」がズレる体験の例を出してみよう。

想像してみてほしい。

あなたが、とあるカップルの口論をドキドキしながら目撃していたとする。

しばらくすると、ヒートアップしたカップルを仲裁するため、近くにいた友人が会話に入ってきた。しかし、その友人は何故か、棒読みのような違和感のある喋り方をしている。その瞬間、あなたは気づいてしまう。今までの一連の情景が、実はテレビ画面に映っていた映像だったことを。

映画やドラマを観ているとき、下手な役者の演技を観て、一気に現実に引き戻されてしまうということはたまにある。

のめり込みながら観ているときと、そうでないときとでは、テレビ画面に対する心の距離は大きく異なる。心の距離が近づくと視聴者の意識は映像内に入り込み、心の距離が遠ざかると意識はテレビの外へと引き戻されてしまう。

この、自分と自分が観ているモノとの心(意識や認識上)の距離。そして空間的な距離が同時にズレる感覚を、私は「意識のピント」がズレる体験と呼んでいる。


「意識のピント」のズレによって起こる驚きは、メタフィクションという表現手法としてこれまで様々な映画や小説、ゲームの題材に使われてきた。

アニメのキャラクターが突然視聴者に語りかけてくるといった演出も、意識のピントのズレを利用したメタフィクション表現だ。

このように「意識のピント」は、髪だと思ったらペンの線だったといった日常のあるあるだけにとどまらず、鑑賞者に驚きを与える表現として活用することもできる。


さて、ここまで「意識のピント」という概念を説明してきたが、実は最近モノの見え方が変わる原因には、また別の要素も関係していることに気がついた。

それが、「感情のフィルター」だ。

「感情のフィルター」という概念を説明する上で例に出しておきたいのが、P・F・ドラッカー氏の有名な名言、「コップの水理論」だ。

「コップに『半分入っている』と『半分空である』とは、量的には同じである。だが、意味はまったく違う。とるべき行動も違う。世の中の認識が『半分入っている』から『半分空である』に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる」
P・F・ドラッカー(2007)『イノベーションと起業家精神』(上田淳生 訳) ダイヤモンド社.

ここでは、半分の水を半分の空と思えるハングリー精神こそ、イノベーションを起こす動機になると語られている。

しかし、この話は下記のような捉え方もできる。

水が半分入ったコップを見て、「まだ半分も残っている」と思える人の方が、「もう半分しか残っていない」と思う人より、幸福感を感じやすい。


この2つのモノの見方を通して私が思ったのは、モノがあるという状況もないという状況も、どんな眼差しで見るかによって全く意味が変わってしまうということだ。

たとえ、身の回りで嫌なことが起きたとしても、情熱を持ちながら生活していれば、新しい挑戦の糧として有効活用できるかもしれない。また、安らぎを感じながら生活していれば、そもそも起こった事柄に対して、心を乱されずに済むかもしれない。

このように私たちが普段見ているモノや状況には、その時その時の心の状態で構築された「感情のフィルター」が施されている。

いつも使っているフィルターがネガティブよりなものなのか、ポジティブよりなものなのかについて意識できるようになれば、人生で起きるあらゆる事象を、より有意義なモノとして活用できるのではないだろうか。


「意識のピント」と「感情のフィルター」、今回はモノの見え方に影響を与える2つの要素を紹介してみた。

さて、

あなたが今までずっと見ていたのは、この記事だったのか。

それとも、単なる画面上の黒いドットだったのか。

はたまた、日常を少しだけ面白くするヒントだったのか。

あるいは、時間を無駄にしただけの意味のない記事だったのか。


「意識のピント」と「感情のフィルター」は、今この瞬間にも適用されているはずだ。

ミヤタ-------
プランナーをしながら、日々新しい気づきや固定観念が壊れる瞬間の事例を収集しています。

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