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【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その壱

みんな、パルプしてますか?

今年も開催された逆噴射小説大賞、応募数は10月21日段階で132作品ほど。新しい参加者も多く、去年同日での実績は126作品だったので(ジョン久作さん調べ)しっかり盛りあがっている! なお応募作品すべてを下記から読むことができます。

さて。そんな応募作品のなかから、個人的に「よいな」と思ったものを数回に分けてピックアップしていこうと思います。ちなみに毎記事ごとに自分のなかでテーマを決めてピックアップしていく予定です。

ちなみにそのテーマは機密事項として非公開。なので「なんであれがピックアップされてないんだろう」と思うことがあるかもしれませんが、単にテーマ外だった可能性が高いです。

では、やっていきます。


アローン・イン・ザ・メイズ

ワンシチュエーション・スリラーもの。設定開示でほとんど終わっているとも言えるんだけど、主人公が不条理な状況に巻きこまれたこと、それに対して動揺することなく対処していることがきっちりと理解できる。そして淡々とした情景描写のなかに静かな緊張が満ちていて、残酷なゲーム性を予感させる。こういうの個人的にすごく好きなんですよね……! 続きが読みたい!

海と脂

美しい筆致。描かれる情景自体は美しいわけではなく、むしろグロテスクであり、すえた臭いすら漂わせている。しかし刻々と変わりゆく光景と視点人物の置かれた状況、そして生きてきた道がリンクし、それはとても美しいと感じさせる。小説としての芯がある……。

著者である誰悪さんは2021年の逆噴射小説大賞受賞者ですが、その受賞作である『薄火点』は歴代大賞作品の中でも完成度の高さで群を抜いている。そんな誰悪さんの作品なので、さすがだな、と思いました。ちなみに誰悪さんの連載作である『ネクロ13』は最高に面白いので是非読んでみてください!

夜山踏み

狩人が獲物を狙って身を潜めるように、静かに、しかしヒリヒリとした感覚を漂わせて物語が進んでいく。物語の底流に流れる緊張感が心地よく、また、語り口もこの物語に相応しいもので、とても雰囲気が出ている。素晴らしいなと思いました。かなり好きです!

一方そのころ、残りの1/2は

すさまじいテンポ感! めちゃくちゃ楽しい。一気に読んでしまい「いったいなんなのこれは?」とさせられる。作者は何かをキメてこれを書いたのではないか……と疑念を持ってしまうほど素晴らしい。大好きです。今後の展開を予感させるタイトルも、かなりアホっぽくて好き……!

悪魔の風の軌跡

冒頭からすさまじい緊迫感をともなって映像が浮かんでくる。まるでハリウッド映画か Netflix の大作ドラマのような情感。読み終わって「え、ほんとに800字?」と思わせるほど情報密度が濃く、なによりも圧倒的な臨場感がある! 引きのつくり方も巧みで、いやこれは続きを読みたくなるに決まっている……! That's great! すごいなと思いました。素晴らしい。

トマーラ

ものすごくアホな世界観なはずなのに、浮ついた感を感じさせず、テンポよくぐいぐいと読者をけん引していく。登場人物たちの描写が素晴らしく、行動やセリフで関係性を示すだけでなく、掛け合いによって読者を引きこみ、物語をドライブさせている! 味覚を感じさせる描写も素晴らしいなと思いました。大好きです。

セイント

今年の逆噴射で僕が「絶対来るよな」と考えていた RTG さん、やはりすごい! 淡々として乾いていて、どこか聖性を帯びている文章。筆致に芯があり、一貫した雰囲気を保っている。細かいディティール、描写のリアリティの積み上げが巧みで、シンプルにかっこよいし、読者に対して「この物語には何かあるな」という期待感を抱かせることに成功している。素晴らしいなと思いました!

スペルバウンド

商業デビューが決まった、ライオンマスクさん改め獅子吼れお先生(おめでとうございます!) さすがすぎて度肝を抜かれた。めちゃくちゃよいなと思った。ツイートにも書いたけど、ゲームものは読者にルールを理解させなければならない。それが難しいし、読者を引きこむうえでのハードルになり得る。でも、この作品は展開の動きのなかでゲームのルール、主人公たちの関係性、置かれた立場などを詩情すら感じさせる情感を伴って描いている。ちゃんとドラマとして成立させている。これはすごい。タイトルもシンプルだけどかっこいい! 今年は獅子吼れお先生の年なのかもしれない……そんなことを思わされました。

【今回は以上です】

【おまけ】しゅげんじゃ氏の応募作

いずれライナーノーツを書かねば……。

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