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一方そのころ、残りの1/2は

 七階のヴィレヴァンに行くために乗ったエレベーターの操作パネルに「HELL」と書かれたボタン一つしか無いことに気づいた瞬間、榎本はすぐさま外に飛び出ようとしたが一瞬遅く、無情な勢いで閉じた扉に挟まれて胴の真ん中からまっぷたつにされた。それと同時に押してもいないのにHELLボタンが薄オレンジの光を灯し、エレベーターが降下し始めた。俺は切断面からはらわたと血をぶちまけた元榎本1/2と共になすすべなく地獄へ落ちていった。
 天国に行けるとは思っていなかったが、これはあんまりだろ。そう思っていると、足下から「これはあんまりだよな」という声が聞こえた。驚いて下を見ると、床に転がった元榎本1/2……いや、話ができるなら元じゃなくて今でも榎本だ……が尻のあたりから声を出していた。
「榎本! お前それで生きてるのかよ!」
「ケツ穴で話せることの方に驚けよ」
「榎本! お前ケツ穴で話せるのかよ!」
「おおよ。驚いたか」
 実際驚いた。榎本とのつき合いは結構長いが今までケツ穴で話せるとは知らなかった。
「そういや悪かったな、お前置いて逃げようとして」
「それはいいよ。俺だって先に気づいたらそうしたよ」
 話しているうちにエレベーターの速度は落ち、やがて止まった。軽快な音と共に扉が開く。外に出ると案内板があり、右向きの矢印には「地獄門」と、前を向いた矢印には「Village Vanguard地獄一号店 この先3km」と書いてある。
「マジかよ! 地獄にヴィレヴァンあるのかよ!」
「マジかよ! じゃ行くか、限定品あるかもしれないし」
 榎本の財布はケツポケに入ったままなので買い物には問題ない。身を起こすのに手を貸すと、榎本は案外器用に立ち上がりバランスをとって歩き始めた。断面がむき出しでは不安で、ハンカチをかけてやる。そこであることに気づいた。
「ていうか榎本、お前、話してるのはケツ穴として、どこで聞いてるんだ?」

【続く】

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