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集英社文庫の公式アカウントです。 書籍紹介やコラム、裏話、連載小説などを発信していきます。 読書の秋!新連載ぞくぞくスタート! 集英社文庫公式サイト:https://bunko.shueisha.co.jp/

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  • 海路歴程/花村萬月

    精力的に執筆を続ける著者があたためていた構想がついに実を結ぶ! 水運国家としてのこの国の歴史をひもとく大河ロマン。

  • 【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った

    5月21日に集英社文庫から岩井三四二さんの『鶴は戦火の空を舞った』が発売されます。 近代を舞台にした歴史時代小説の新地平! この日本の戦闘機パイロットの最初期を描いた、胸が熱くなる書き下ろし小説を期間限定特別先行公開。 全七章のうち第四章までを平日毎日更新でお届けしますのでお楽しみに!

  • おかえり ~虹の橋からきた犬~/新堂冬樹

    飼い主の女性を守るため生まれ変わる一途な犬との物語。感動長編!

  • 雌鶏/楡 周平

    昭和29年、ナイトクラブ「ニュー・サボイ」で働く貴美子は、上客の鬼頭から京都で占い師として生計を立てないかとスカウトを受ける。服役の過去を持つ貴美子は、そこを足掛かりに次々と成り上がり……。昭和の政治と金を描く大長編。

  • 彼女たちはヤバい/加藤元

    “女たらし”、”金なし”、”嘘だらけ”の中年男性・ケンに、執着する女性たち。 彼を自分だけのものにしようと、彼女たちは互いにけん制するものの、同じ男性に引っかかってしまっている分、妙な部分で気が合ってしまい……。

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読書の秋。新連載ぞくぞくスタート!

まだまだ残暑が厳しい……というより猛暑まっただなかですが、暦の上ではもう秋。 そう、読書の秋です! というわけで、集英社文庫noteでは小説・エッセイの新連載をぞくぞ…

集英社文庫
8か月前
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海路歴程 第九回<下>/花村萬月

.    *  明けない夜はない。  だが、あたりが薄明るくなっても日輪は昇らなかった。灰色の雲が洋上の彼方で水平線と溶けあって、どこまでが海でどこからが雲か判然…

集英社文庫
1時間前
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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 3/岩井三四二

(第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ) 三  英彦は、高度二千メートルで東に向かっていた。  乗機のヴォワザンV型機の前席にはクーディエ中尉を乗せている。  晴れて…

集英社文庫
1時間前
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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 2/岩井三四二

(第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ) 二  翌朝は小雨が降り風も強かった。飛行できるかどうか、ぎりぎりの天候だと思いつつ、英彦は飛行服を着て天幕に入り、機体の点…

集英社文庫
1時間前
3

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 1/岩井三四二

第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ 一  ポーの飛行学校で試験に合格した英彦は、その日のうちに免許状と、操縦士をあらわす星と羽の襟章をもらった。  数日後にはV18飛…

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 5/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 五  入隊の指示がきたのは一週間後だった。  いそいそと陸軍省に出向くと、まずは伍長として歩兵隊にはいる、同時に陸軍飛行学校へ入校…

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おかえり ~虹の橋からきた犬~ 最終話/新堂冬樹

【前回】   診察台に横たわる小武蔵が涙に滲んだ。  西沢獣医師が、小武蔵の後ろ足の付け根の内側に、人差し指、中指、薬指を当てていた。  小武蔵を助けて……。  …

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 4/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 四  マルセイユに上陸した英彦は、つづいて夜汽車にのり、パリに向かった。  翌朝パリのリヨン駅に着くと、小雪がちらつく寒風の中で、…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 3/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 三  雲の多い空の下、薩摩丸はゆっくりとマルセイユ港に向かっている。  ──着いたか。長かったな。  英彦は、船窓から港の景色を眺…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 2/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 二  初夏の日射しに灼かれながら、英彦は演習場を見渡していた。  遠景には、蒼くそびえる富士山。頂上には白いものが見える。  裾野…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 1/岩井三四二

第三章 フランスの青い空 一  大正四(一九一五)年の正月元日に、陸軍臨時飛行隊は所沢へ凱旋した。  町は祝勝ムード一色で、隊員の乗る汽車が駅につくと盛大に花…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 4/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 四  十月十三日、午前六時。  飛行隊の電話が鳴った。 「了解。すぐ出撃します」  乱暴に受話器をおくと徳川大尉は、 「貴様ら、三機とも…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 3/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 三  二十七日の日本軍の攻勢によって、ドイツ軍は前進基地をうち捨て、要塞の中へ立てこもった。  といっても算を乱して敗走したわけではな…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 2/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 二  日本の西南にあり、黄海と渤海を隔てるように、大陸から東に向かってくちばしのごとく突き出しているのが山東半島である。  青島という…

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【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 1/岩井三四二

第二章 青島空中戦 一  大正三(一九一四)年九月下旬──。  けたたましく電話が鳴った。  中華民国山東省の一角、即墨という地に設けられた飛行場の、格納庫が…

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海路歴程 第九回<上>/花村萬月

.    *  どーん!  爆裂音が轟いた。  あわてて目をひらく。  ばらばらと派手に雨が降りかかった。  舌先で濡れた唇まわりをなぞる。潮だ。この塩辛さは間違い…

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読書の秋。新連載ぞくぞくスタート!

まだまだ残暑が厳しい……というより猛暑まっただなかですが、暦の上ではもう秋。 そう、読書の秋です! というわけで、集英社文庫noteでは小説・エッセイの新連載をぞくぞくスタート! 先行して連載を開始したのは、骨太なサスペンスを数多く生み出してきた福田和代さんのサイエンス×忍者小説『梟の胎動』。令和の忍者のスリリングな活躍をご覧ください! そして、血液のがんと闘いながら、長年あたためてきた構想をついに小説化した花村萬月さんの『海路歴程』。読み手をとらえて離さない中毒性の高い

海路歴程 第九回<下>/花村萬月

.    *  明けない夜はない。  だが、あたりが薄明るくなっても日輪は昇らなかった。灰色の雲が洋上の彼方で水平線と溶けあって、どこまでが海でどこからが雲か判然としない。超巨大な無彩色の椀をかぶせられているかのような閉塞感がある。  おずおずと親司が具申した。 「船頭、髻を切ろう」  神仏に祈り、すがるしかないというのだ。船頭が受ける。 「莫迦野郎、俺はな、雷様に焼かれちまって切る髷がねえんだよ」  貞親は吹きだしそうになり、ぎこちなく横を向いた。こんな状況であっても、緊

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 3/岩井三四二

(第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ) 三  英彦は、高度二千メートルで東に向かっていた。  乗機のヴォワザンV型機の前席にはクーディエ中尉を乗せている。  晴れてはいるが、白い綿雲があちこちに浮いている。いまのところ風は穏やか。危険な積乱雲もない。 「ムーズ川を越える。気をつけろ」  クーディエ中尉がふり返って怒鳴り、手で地上を指さす。背後の発動機──ヴォワザンV型機は機首に偵察・爆撃員席があり、そこに回転式の機関銃を備えている。英彦がすわる操縦者席は後方にあって、さら

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 2/岩井三四二

(第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ) 二  翌朝は小雨が降り風も強かった。飛行できるかどうか、ぎりぎりの天候だと思いつつ、英彦は飛行服を着て天幕に入り、機体の点検にかかった。  クーディエ中尉は、ぱんぱんに張った背囊を重そうにもって、ヴォワザンV型機が格納してある天幕にやってきた。 「おあつらえ向きの天気だな」  とにやにやしながら言うと、背囊を機首の偵察員席にどさりとおいた。それも安全ベルトやロープなどで固定せず、おいただけだ。その前面に下手な似顔絵を描いた紙を紐でし

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第四章 1/岩井三四二

第四章 ヴェルダンの吸血ポンプ 一  ポーの飛行学校で試験に合格した英彦は、その日のうちに免許状と、操縦士をあらわす星と羽の襟章をもらった。  数日後にはV18飛行中隊──ヴォワザンV型機を六機そなえ、敵陣の偵察と爆撃を任務とする──に配属が決まり、パリ東方二百キロほどにある、ヴェルダン要塞後方の飛行場に行くよう指示された。最前線でさっそく戦闘に加われというのだ。  一昨年九月、マルヌの会戦で敗れたドイツ軍が後退したあと、両軍は長い塹壕陣地を築いてにらみ合っていた。敵陣

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 5/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 五  入隊の指示がきたのは一週間後だった。  いそいそと陸軍省に出向くと、まずは伍長として歩兵隊にはいる、同時に陸軍飛行学校へ入校し、免許取得にはげむ。無事に陸軍の飛行免許を取得したら、少尉として飛行隊に配属される、との話だった。 「ムッシュー・ニシキオリは日本の将校ですし、フランス語が話せますから、飛行免許さえとればこちらでも将校として遇します。ただし、すぐには日本での階級だった中尉にはできませんがね」  と担当官は言う。もちろん英彦に異

おかえり ~虹の橋からきた犬~ 最終話/新堂冬樹

【前回】   診察台に横たわる小武蔵が涙に滲んだ。  西沢獣医師が、小武蔵の後ろ足の付け根の内側に、人差し指、中指、薬指を当てていた。  小武蔵を助けて……。  まさか、このまま虹の橋に連れて行ったりしないよね?  いいえ、あなたが小武蔵なんでしょう!?  こんなに早くいなくなったら……戻ってきてくれた意味がないじゃない……。  菜々子は胸の前で手を合わせ、茶々丸に祈った。 「体が衰弱しているのに、無理をしたせいで倒れたようです。脈拍も弱くなっているので、強心剤を打って

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 4/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 四  マルセイユに上陸した英彦は、つづいて夜汽車にのり、パリに向かった。  翌朝パリのリヨン駅に着くと、小雪がちらつく寒風の中で、大きなトランクを抱えて駅前広場を右往左往したのち、タクシーに乗った。フランス語が通じるかどうか心配だったが、タクシーの運転手は英彦の言葉を聞き返すこともなく、すぐに運転をはじめた。  宿は船中の評判を頼りに、日本人が多く寄宿しているというセーヌ川左岸にあるトゥーリエ街の下宿屋に決めていた。  到着した下宿屋でもち

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 3/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 三  雲の多い空の下、薩摩丸はゆっくりとマルセイユ港に向かっている。  ──着いたか。長かったな。  英彦は、船窓から港の景色を眺めた。  横浜からフランスのマルセイユまでは、日本郵船の定期便が二週に一便の割で出ている。ほぼ一カ月半の航海である。  一万トンを超える大きな貨客船はゆれも少なく、当初は快適な船旅だったが、さすがにインド洋を渡る際の暑さには閉口した。白くそびえるブリッジから船尾へとつづく客室のうち、一階の一室が二等船客である英彦

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 2/岩井三四二

(第三章 フランスの青い空) 二  初夏の日射しに灼かれながら、英彦は演習場を見渡していた。  遠景には、蒼くそびえる富士山。頂上には白いものが見える。  裾野には暗緑色の樹海がひろがり、目先一キロほどまでつづいている。そこから足許まで、黒い土に岩と草がまじる原野になっていた。 「中尉どの!」  兵のひとりが駆け寄ってきて報告する。 「第二区画の掘り方が終わりました。検分を願います」 「おう」  カーキ色の軍服に制帽、膝から下を革ゲートルでかためた英彦は、兵の案内で作業

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第三章 1/岩井三四二

第三章 フランスの青い空 一  大正四(一九一五)年の正月元日に、陸軍臨時飛行隊は所沢へ凱旋した。  町は祝勝ムード一色で、隊員の乗る汽車が駅につくと盛大に花火があがった。隊員たちは小学生の音楽隊に先導され、沿道の家々に提灯が灯される中を飛行場まで行進した。飛行場で町長の祝辞に隊長が答辞を返すあいだにも、旗行列が町を練り歩くという、まさにお祭り騒ぎだった。 「いくさに勝つってのは、いいもんだな」  と隊員たちは言い合ったものだった。  そののち休暇をもらって羽根を休

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 4/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 四  十月十三日、午前六時。  飛行隊の電話が鳴った。 「了解。すぐ出撃します」  乱暴に受話器をおくと徳川大尉は、 「貴様ら、三機とも出撃だ。ルンプラーがくるぞ」  と隊員たちに怒鳴った。  すでに手はずは聞かされていた。英彦たちは滑走路に駆け出した。  英彦は武田少尉とともにモーリス・ファルマン機に乗った。後席の武田少尉はルイス式軽機関銃を抱えている。ニューポール機には機関銃が据え付けられているし、もう一機のモーリス・ファルマン機は機関銃

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 3/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 三  二十七日の日本軍の攻勢によって、ドイツ軍は前進基地をうち捨て、要塞の中へ立てこもった。  といっても算を乱して敗走したわけではなく、ドイツ軍としては予定どおりの行動と見えた。強固な要塞を頼りに、人的損耗をできるだけ避けるつもりだろう。  日本軍は、敵軍の退却をニューポール機の偵察によって知った。  そこで孤山と浮山という、青島要塞の防御戦から五、六キロほど北東にある山をむすぶ線まで兵をすすめた。二十八日のことである。そして司令部をその背

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 2/岩井三四二

(第二章 青島空中戦) 二  日本の西南にあり、黄海と渤海を隔てるように、大陸から東に向かってくちばしのごとく突き出しているのが山東半島である。  青島という地はそのくちばしの付け根近くの南側にあり、東に労山湾、西に膠州湾を抱える。内湖のような膠州湾が良好な港になるのに着目して、ドイツは清国よりこの地を租借し、東洋艦隊の根拠地にしていた。  青島の市街と要塞は、膠州湾に向かって突き出した半島状の地形の先端にある。そうした地形が、日露戦争の激戦地となった旅順要塞とそっく

【刊行直前特別連載!】鶴は戦火の空を舞った 第二章 1/岩井三四二

第二章 青島空中戦 一  大正三(一九一四)年九月下旬──。  けたたましく電話が鳴った。  中華民国山東省の一角、即墨という地に設けられた飛行場の、格納庫がわりに張られた天幕の中である。  当番兵が出ると、軍司令部からだった。徳川大尉がかわった。 「いやな予感がするな」  と武田少尉が言い、小さめの鼻をうごめかせた。天幕の中では、英彦たち飛行隊員が運ばれてきた荷を片付けつつ、徳川大尉の応答に耳をそばだてていた。  徳川大尉は二度、三度とうなずき、「了解、直ちに対処

海路歴程 第九回<上>/花村萬月

.    *  どーん!  爆裂音が轟いた。  あわてて目をひらく。  ばらばらと派手に雨が降りかかった。  舌先で濡れた唇まわりをなぞる。潮だ。この塩辛さは間違いなく海の水だ。  薄闇のなか、皆はてんでんばらばらに転がって、眠り呆けている。  貞親は忙しなく目をこすった。ただ一人、酒を呑んでいなかったから、すぐに意識がもどったが、先ほどの大音響がなんであったのかは判断がつかない。  雑魚寝している水夫たちを踏まぬよう気配りしたが、なにぶん冥いので幾人かの足や手を踏んだ。け