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雌鶏/楡 周平

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昭和29年、ナイトクラブ「ニュー・サボイ」で働く貴美子は、上客の鬼頭から京都で占い師として生計を立てないかとスカウトを受ける。服役の過去を持つ貴美子は、そこを足掛かりに次々と成り…
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雌鶏 終章 2 最終回/楡 周平

【前回】     4 「先生、そろそろ誠一(せいいち)を日本に戻して政策秘書にしようと思うのですが」  小早川(こばやかわ)が電話口でそう切り出したのは、旅客機をめぐる贈収賄事件から二年半ほど経(た)ったある日のことだった。  新内閣の誕生と同時に通産大臣を一年半務めた小早川は、清彦(きよひこ)から提供される資金を使い党内基盤を盤石なものとし、ついに与党幹事長の地位を手にしていた。  金は権力者の下に集まる。勢いがあればなおさらのことで、通産大臣に就任するや、献金の提供を

雌鶏 終章/楡 周平

【前回】    1  繁雄(しげお)は始業時刻よりも一時間早い、午前八時前後に出社するのを常としている。  日中は会議や来客への対応、書類の決済に追われるし、夕刻からは会食の席が設けられることが多く、雑務をこなす時間がなかなか取れない。そこで、出社後の一時間で報告書や売上日報などに目を通し、余った時間を新聞や経済雑誌を読む時間に当てていた。  ただ、会社宛に送られてくる郵便物には、ほとんど目を通すことはない。  日頃付き合いのある人間ならば、私信は自宅宛に送ってくるはずだ

雌鶏 第七章 2/楡 周平

【前回】     3  二度目の公聴会の中継画像に見入りながら、アメリカは面白い国だと貴美子(きみこ)は思った。  アメリカには、CIA(中央情報局)やNSA(アメリカ国家安全保障局)、DIA(アメリカ国防情報局)等々、国家が運営する諜報機関がいくつもある。いずれも情報収集に励む一方で、中でもCIAは合法、非合法の如何に拘(かかわ)らず、隠密裏に工作活動を行っているとされている。  時には敵対国の体制転覆を図ったり、暗殺も厭(いと)わないと聞くから、ある意味犯罪国家とも言

雌鶏 第七章/楡 周平

【前回】    1  貴美子(きみこ)から計画を聞かされた小早川(こばやかわ)は素早く動いた。  誠一(せいいち)の修士論文に目処(めど)がついた時点で、指導教授のマクレインに、「帰国後は現職の衆議院議員である父親の後継者となるべく秘書になることを決意した。日米は今後より一層固い絆(きずな)で結ばれることになるであろうから、アメリカの政治の場に身を置いて研鑽(けんさん)を積みながら人脈を築きたい。ついては上院でも下院でも構わない。私を受け入れてくれる現職議員を紹介してくれ

雌鶏 第六章 3/楡 周平

【前回】      5  電話から三週間後。小早川(こばやかわ)が森沢(もりさわ)を伴って貴美子(きみこ)の元を訪ねてきた。 「失礼致します……」  小早川の押し殺した声が聞こえ、襖(ふすま)が引き開けられた。 「先生、ご無理をお聞き届けいただき恐縮でございます」  小早川は丁重に頭を下げ、部屋に入ると振り返り、「本日は息子の縁談について相談したく、先方のお父様を同行させていただきました。こちらは、ヨドの森沢社長です」  背後に立つ繁雄(しげお)を紹介する。  一目見た瞬

雌鶏 第六章 2/楡 周平

【前回】    4  小早川(こばやかわ)の告白を聞いて、貴美子(きみこ)は動揺した。  誕生の時期といい、手放してから養子にもらわれていくまでの経緯といい、鴨上(かもうえ)から聞かされていた話と酷似している。  だが、もしその子供が勝彦(かつひこ)であったなら……。  止(や)むに止まれぬ状況下にあったとはいえ、我が子を手放さざるを得なかった母親の心情は鴨上にも理解できるはずだ。鴨上にしても、空襲で亡くなった妻子のことを語ったのは一度きり。その後一切触れずにきたのも、今

雌鶏 第六章/楡 周平

【前回】    1  「ところで先生、ついでと言ってはなんですが、プライベートなことで一つご相談したいことがございまして……」  世間話に終始していた小早川(こばやかわ)が、改まった口調で切り出してきたのは、昭和五十年夏の夕刻のことだった。  初の来訪から四年。この間何度か卦(け)を立ててもらいにきたとはいえ、鴨上(かもうえ)を通さなければならないのは相変わらずだ。  突然現れた小早川は、「京都に用事がありまして、近くまで参りましたので、ご挨拶にあがりました」と、ふいに思

雌鶏 第五章 2/楡 周平

【前回】    3  応接室に入ってきた男の姿を見て、鴨上(かもうえ)はギョッとした。  暴漢に硫酸を浴びせられ、深手を負ったことは聞いていた。  しかし、その痕跡の生々しさは想像以上だ。  頭髪が抜け落ちた部分を隠すために鬘(かつら)を着用しているのだろうが、素材の質感や光沢が不自然で、違和感を覚えること甚だしい。右側の顔面に残るケロイド状に引き攣(つ)った皮膚。目にも損傷を受けたのか、濃いサングラスをかけており、それがまた外見の異様さに拍車をかける。 「お初にお目にか

雌鶏 第五章/楡 周平

【前回】    1   淀(よど)興業を『ヨド』に改めて以来、事業規模はますます拡大の一途を辿(たど)った。  支店はほぼ全国を網羅。それも人口規模によって、複数の支店を置く都市もある。業績もまた鰻(うなぎ)登りなら、業態の呼称も古くから用いられてきた『街金』に加え、七〇年代に入ると『サラリーマン金融』、略して『サラ金』が使われるようになった。  手形金融の業績も殊(こと)の外順調に推移した。  最大の追い風となったのは、東京オリンピックの翌年、昭和四十年九月に開催が決定

雌鶏 第四章 2/楡 周平

【前回】   3  「坂道を転げ落ちるように」とは、凋落(ちょうらく)の速さを比喩する言葉だが、逆の場合にも言えるのだと清彦(きよひこ)は思った。  手形金融に続いて清彦が始めた主婦金融は、予想を超える大商いとなった。  まずは、尼崎(あまがさき)の大手製鉄会社の社宅の郵便受けに「担保不要、審査ナシ、電話一本で即融資」と謳(うた)った広告チラシを入れたところ、ちょうど夏の賞与を翌々月に控えていたこともあったのだろう。半月も経(た)たぬうちに、融資を申し込む電話が引きも切ら

noteにて連載スタート!「雌鶏」第一章~第四章はこちらから

皆さんこんにちは。 web集英社文庫にて連載しておりました楡 周平さん「雌鶏」が noteにお引越し! バックナンバーは以前のページでお読みいただけます。 以下のリンクからご覧ください! 【第一章】 【第一章2】 【第一章3】 【第二章】 【第二章2】 【第三章】 【第三章2】 【第三章3】 【第四章】 今後の更新もお楽しみに!