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ジャムおじさんが教えてくれた「正義」

今から13年前のこと。

僕がイギリスで日本語教師をしていた時に、ロンドンのゲストハウスで、不思議なおじさんと出逢いました。

ゲストハウスでの最終日、共同キッチンへ向かった時に、

「おはようございます!おにぎりは、どうですか?」

自分の為に用意されていたおにぎりを、初対面の僕に差し出してくれた人がいたのです。

あまりにもびっくりして、戸惑っていると、

「さぁ、召し上がれ!アツアツで、美味しいですよ」

真っ白なお皿には、美味しそうなおにぎりが二つ、ちょんとのっていました。

「では、ありがたくいただきます!でも……
一つずつにしましょう!あなたと一緒に食べたいです」

そう言って、たった15分ほどの“あたたかい時間”を共に過ごしました。

「また会いましょうね」

そう約束して、連絡先を交換した時、なんと、その人が、かの有名な声優の「増岡弘(ますおかひろし)」さんだったと知りました。

増岡さんは、長年、日本国民から愛され続けた声優で、サザエさんのマスオさんやアンパンマンのジャムおじさんを担当し、親しまれてきました。

ごく自然に「自らのものを差し出す姿」そして、そこにあった「与える喜びの姿」、それは、まさにアンパンマンそのもので、アンパンマンを作り出すジャムおじさんは、やはり普段の在り方からしてジャムおじさんなんだなって思い知りました。

ロンドンで別れてからは、毎月、毎月、文通を通して、たくさん大切なことを教えて下さいました。

そんな増岡さんが、2020年の春、亡くなりました。

悲しみにふける中で、これまでの教えを見返していると、「正義」について書かれているものが出てきました。

増岡さんに出会う迄は、僕にとっての正義とは、悪を退治し、排除し、勝つものでした。

しかし、増岡さんが教えてくれたのは、誰かが飢えていたり、元気がない時に、そっと自分を後回しにできる人。

普通に弱いけれど、溺れている人を見つけたら死ぬ気で飛び込んでしまうような、やらなきゃイケナイ時に勇気を出せる人。

つまり、カッコいいものではなく、自分も深く傷つく覚悟があることでした。

勝ち負けにこだわっている時点で、そこに本当の「正義」は無いのですね。

増岡さんからいただいた教えは、今ではファイル3冊にもなっていますが、どの言葉も、今でも、僕の心に火を点けてくれています。

大切な師を喪って、今でも寂しさが込み上げてきますが、師から教えてもらった「教え」を、今度は僕が大切な人たちへシェアしていきたいなって思っています。

読んでくれて、ありがとうございます。

僕はいま、自身が困難から学んだことを、他の人の人生に生かしてもらう活動をしています。よろしければ「サポート」をお願いします。いただいたサポートは、作家としての活動費に使わせていただきます。