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【出演者インタビューVol.1】フォルテピアノ奏者 平井千絵さん~運命の出会い~

『時代を巡る3種の鍵盤』にご出演いただく、フォルテピアノ奏者平井千絵さん。5月3日の公演に先駆けて、楽器や楽曲についてはもちろん、プライベートなことについてもお話を伺いました。
第1弾は、平井さんとフォルテピアノとの出会いと、今回ご使用いただく楽器についてお届けいたします!


―平井さま本日はどうぞよろしくお願いいたします!

よろしくお願いします。
皆さん丁寧に接してくださって「平井さま」と呼んでくださるんですけど、「平井さん」と呼んでもらえると嬉しいですね。ぜひ今日も「平井さん」と呼んでください!

―では、平井さんと呼ばせていただきます!
早速お話を伺っていきます。
今回の『時代を巡る3種の鍵盤』にフォルテピアノでご出演されますが、平井さんは何がきっかけでフォルテピアノと出会いましたか?

私の場合、音楽高校ではモダンピアノを専攻していました。中・高の時には外国人のフォルテピアニストの演奏会を聴きに行ったこともありますが、学生席だったので舞台から席が遠くて…もちろん、楽器の美しさや現代(モダン)ピアノとはまったく異なる音色をいいなと思ったんですが、正直遠くでぼんやりしている印象で、うーんという感じでした。(笑)
ところが、大学3年生の時に最前列でチェロとフォルテピアノのデュオを聴く機会があり、その時に、「えっっ!」って。ヴィヴィットで、生き生きとしていて、勢いがあって、軽やかで、2人ともが対等に演奏している様子が素敵でした。ちなみにその時のピアニストが、後に私が師事することになる小島芳子先生です。

その後は、追っかけのように小島先生の公演に行き続けました。そして音楽大学卒業後、ついにフォルテピアノに触る機会があり、その瞬間すぐに「これは自分がやるべき楽器だ!」と感じました。

(平井さん(奥)初めてのフォルテピアノコンサート。師匠 小島芳子先生と共に)

それまでモダンピアノを3歳から習ってきて様々な曲を弾いてきましたが、バロックや古典派、初期ロマン派には、何か違和感がありました。自分自身にとっても、音楽そのものに対してもオーバースペックのような気がして…。大ホールで演奏すればその違和感はなくなるんですが、小さい会場や練習室で一人練習していると、やはり違和感を覚えることがありました。
でもフォルテピアノに出会い、室内で演奏するのに丁度いい音量と音質の楽器に出会えて、今まで悩んでいたことが、ピタっと無くなった感じがしました。これが最初のきっかけです。

―演奏会に何度も行く中で、最前列で聴くチャンスを得たり偶然が重なり、フォルテピアノと出会うことになったのですね。

あきらめなかったですね。一回聴いて「やめた!」ではなく、違うけど何かが気になる。だから、もう一回もう一回と繰り返し聴きにいきました。

―理想の音を、音楽を奏でようとする中で探究し続けたからこそ、運命的にフォルテピアノと出会い、今にもつながるわけですね。
さて、今回の『時代を巡る3種の鍵盤』は、鍵盤愛に溢れるアートマネジメントコース3年の澤田が企画しました。今回の企画内容やオファーを受けたとき、どのように感じましたか?

私が音大生だった当時にアートマネジメントを学べる大学は、あまり無かった中で、今では10代の時から目標を定めて勉強しているのは、本当にすごいなと思います。私がオランダで大学院に進学したとき、演奏学科でもマネジメントを学ぶ授業があり、実践的な1年間の授業は、社会に出る前の私にとって大変勉強になりました。将来、演奏家を目指す人も学ぶべきことだし、自分の通う大学にアートマネジメントを学ぶコースがあって密接に関わっているのは、すごく羨ましいなと思います!(笑)
アーティストは、それをサポートしてくれる人がいないと出来ないわけで、サポートする人も演奏家と関わることで、さらにアイディアが湧いてくると思うんです。今回の、澤田さんの企画も色々な学生さんや先生方と関わる中で生まれたんだろうなと考えると、素敵だなと思います。

―昭和音楽大学はコース数が多いですからね。私たちのようなアートマネジメントコースや、照明、音響などを学ぶ舞台スタッフコースから、器楽、声楽、ミュージカル、バレエ、さらには音楽療法など多岐にわたるコースと関わることができます。
また私たちは、何かしらの楽器を副科で履修しているからこそ、その経験を活かし、スタッフとして共に感動を届けたいとも思えます。さらにはこの授業を通して、第一線で活躍されている演奏家の方と一緒にコンサートを作り上げることができる経験は、大変貴重であり光栄だなとお話を聞いていて感じました。

ありがとうございます!こちらこそです!

―コンサートで使用する楽器は製作家の太田垣至さんが作られたものということですが、楽器の魅力について教えていただけますか?

埼玉県に工房をお持ちの太田垣至さんが去年完成させた、アントン・ワルターのレプリカを使用します。ワルターは、モーツァルトやベートーヴェンと同時代に生きたウィーンの最高峰の楽器製作家です。そのワルターが1795年に製作したと言われているオリジナルはドイツの博物館に展示されているんですが、太田垣さんはそれを忠実に複製されました。
今回演奏するベートーヴェンの「月光」にはピッタリの時代様式の楽器です。去年生まれたばっかりで、何回か私も演奏したことがあるんですけど、弾く度にどんどんパワーアップしていきます。先週も演奏してきましたが、1か月前、2か月前ともう鳴りが変わっていますね。

(太田垣至さんが去年完成させたワルター)

―時間を置くことで、楽器も慣れていくということですか。

私の経験上、4~5年経過してゆっくり変化する楽器もあれば、今の太田垣さんの楽器のように刻々と変わっていくのを感じられる楽器もありますし様々なんですよね。なんでなんですかね…(笑)。論理的、科学的だけにとどまらないというか、演奏者や製作者など、同様のことをおっしゃる方が多いです。

今回の楽器は鍵盤の数が63鍵。現代のピアノは88鍵なので、だいぶ少なくて、鍵盤の色もチェンバロと同様、黒白反転しています。また、足で踏むペダルがないんです。その代わり、膝レバーが2つ付いています。1つは右の方の膝で操作するもので、現代でいう右足のダンパーペダルと同じ機能です。左の膝レバーはモデレーターと呼ばれる仕掛けで、押し上げると、弦とハンマーの間に布が差し込まれて、布越しにハンマーが打つようになり、くぐもった幻想的でモヤのかかったような音がでます。

また弦を打つハンマーヘッドは、鹿皮がまかれています。現代のピアノはフェルトなので素材も違いますね。さらには弦の素材も違います。見てすぐわかるのは現代ピアノに比べてとても細い弦が平行に張られていることです。音色の特徴としては、モダンピアノのコンセプトが「なるべく均等に」「全ての音域に渡ってムラなく美しく大きな音で鳴るように」だとすると、
フォルテピアノのコンセプトは「音域帯で個性を変えよう」「積極的に違う音色にしよう」かなと。フォルテピアノの時代は「違えば違うほど面白いじゃないか!」「一つの楽器の中に色んな楽器の魅力を詰め込みたいよね!」ぐらいのことを製作者も考えていて、多彩な音色を求めた結果としてこうなったと思います。
またチェンバロとの比較ですが、さすが王侯貴族の楽器という感じで、びっくりするぐらいにバリっとした音じゃないですか。それに対してフォルテピアノは、弱音が出せる点が一番の魅力であり新しい点なんですよね。チェンバロは全音域ブリリアントに輝かしく鳴るところが長所でしたが、次の時代の楽器というのは、本当に聴こえないくらいの音まで出すことができた。人々の興味が大きな音ではなく、小さな音であった時代があるので、そこを聴いていただけると嬉しいですね。

―早く演奏を聴きたくなりました。楽器の歴史を知ることで、このように音色が変化したのかと理解することができました。またフォルテピアノに関しては、この楽器の魅力が平井さんによってどう引き出されていくのか気になりますね。


次回、第2弾は演奏していただく楽曲についてのインタビューをお届けします。メインで演奏していただくベートーヴェンの月光や、聴き比べコーナーで演奏していただく楽曲まで、平井さんがどのように考えているのか、たっぷりとお届けします!

〈公演概要〉
「時代を巡る3種の鍵盤~あなたの知らない変遷がここに~」
2024年5月3日(金・祝)
開場 15:30 開演16:00
会場 昭和音楽大学 南校舎5階 ユリホール

〈チケット〉
一般:3,000円 ゆりフレンズ:2,700円 学生:1,500円
チケット購入先:https://www.tosei-showa-music.ac.jp/concert/ticket.html

〈自主企画公式HP〉
https://sites.google.com/view/artmanagement-hp?usp=sharing


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