モノ視点から顧客視点へ。発想を変えるための簡単なクイズ
突然ですが、クイズです。
ある登山道に、トイレがありました。
非常に汚く、登山客からクレームがたくさん来ていました。そこで、山の管理会社は、重い腰を上げてトイレを改修することにしました。
どうせ変えるならとことん最新式にしようと大奮発。温水洗浄便座機能はもちろん、自動開閉、抗菌仕様で、紙も完備。ぬくもり感じるヒノキ造りの、ピカピカなトイレができました。
ただし、1つだけ問題があります。それは、新しいトイレが山頂へ続く道から少し外れた場所にあること。
そこで、看板をたてて、案内文を一文書くことにしました。せっかく作った最高のトイレなので、一人でも多くの人に使ってもらいたい。
さて、どんな一文を書けば、多くの人に使ってもらえるでしょうか・・?
これは、私がブランディングのプロジェクトや発想力の研修などで、最初に考えてもらうクイズです。
3分程度考えた後に、発表して頂きます。
皆さんなら、どう書きますか?
よく出てくるのは、次のような一文です。
このような答えも、もちろん間違いではありません。
ここで、皆さんが山登りの途中に「最新式のトイレ、できました」という看板を目にしたシーンを想像してみてください。
もしトイレに行きたかったら、「おお、ちょうど良かった」と思うでしょう。
しかし、もしそうでなければ、「へぇ〜」とは思うかもしれませんが、そのまま素通りするのではないでしょうか。
では、次のような書き方はいかがでしょうか。
このような一文を目にした登山客は、次のように考えるかもしれません。
「山頂で急にトイレに行きたくなってきたら嫌だなぁ。ここまで戻ってくるのも大変だし、ちょっと寄っていくか。」
とりあえず寄ってみたトイレがあまりに綺麗でびっくり。「あの山のトイレは綺麗だよ」と口コミが広がり、評判になるかもしれません。
「最新式のトイレ、できました」
「山頂までで最後のトイレです」
どちらが正解ということはありませんが、「一人でも多くの人に使ってもらいたい」という視点で見ると、「山頂までで最後のトイレです」の方が多くの人に使ってもらえそうな気がしますよね。
モノ視点と顧客視点の違いとは
では、「山頂までで最後のトイレです」のような発想は、どこから生まれてくるのでしょうか。
それが、今回のテーマである「顧客視点」です。
「綺麗なトイレがあります」
「最新式のトイレ、できました」
これらの発想は、「モノ視点」です。
商品やサービスの特徴・スペックを伝え、ユーザーを振り向かせる方法です。
このような方法は、今まさに必要としている人(ここでは、トイレに行きたいと思っている人)には有効です。
しかし、まだ必要としていない人(ここでは、トイレに行きたいと思っていない人)を振り向かせることは難しい。
マーケティングでは、今まさに必要としている状態のことを「顕在ニーズ」、まだ必要としていない状態のことを「潜在ニーズ」と呼びます。
そして、潜在ニーズを見つけることが、より大きな市場を獲得するために大事だと言われています。
では、潜在ニーズを見つけるためには、どのような視点が重要でしょうか。
それが、「顧客視点」です。
先ほどの「モノ視点」は商品やサービスから考え始めましたが、「顧客視点」では顧客が何を求めているのか? から考えます。
今回のトイレの事例で考えてみましょう。
そもそも、人はトイレのために山を登っているわけではありません(あたりまえです)。では、何を求めて山に登っているのか?
それは、山頂の景色を楽しむためだ、と仮定します(他にもあるかもしれませんが)。
次に、「山頂の景色を楽しむ」という目的のために、トイレがどう役に立てるのか? という視点で考えます。それは、山頂で急にトイレに行きたくなるという悲惨な状況を回避することです。
ということは、看板に書くべき言葉は、早めにトイレに行ってもらうための一言、つまり、「山頂までで最後のトイレです」となります。
このように、顧客視点で考えることで、メッセージは全く違うものになるのです。
顧客視点は、顧客の要望に答えることではない
ところで、「顧客視点」というと、顧客の要望に合わせることだ、という誤解があります。
「トイレが汚い」というクレームに対応した「綺麗なトイレがあります」という一文は、一見すると「顧客視点」だと思ってしまうかもしれません。
しかし、本当の顧客視点は、なんでも顧客の言うことをきくことではありません。顧客の声が一番大事だということでもありません。
顧客が何を求めているのか?から考え始めること、それが本当の顧客視点です。
その結果生まれるメッセージは、必ずしも顧客の声に直接応えるものでなくても問題ありません。
「山頂まで最後かどうか、教えて欲しい」という顧客の声はありませんが、伝えてあげると「助かった」と言われる。そんなメッセージを生み出すことが、多くの顧客を振り向かせるのです。
顧客視点で考えることは、現在のように環境変化が激しい時代にこそ重要だと言われています。
しかし、作り手である企業の担当者は、自分たちの商品やサービスに愛着があるので、ついモノ語りをしてしまいたくなります。
商品やサービスは一旦横に置いておき、「そもそも、人は何がしたいのか?」というフラットな視点で考えてみる。
変化の激しい時代だからこそ、そんな「顧客視点」を忘れないことが大事ではないでしょうか。
※noteで記事にする前に、Twitterで投稿しています。
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