マガジンのカバー画像

読書記録

16
運営しているクリエイター

記事一覧

吉本ばなな『はーばーらいと』・極私的感想

吉本ばなな『はーばーらいと』・極私的感想

少し前にこの本の存在を知り、これは読まねば…!と思い、即買い、すぐに読み終えた。
よかった。
わたしのために書かれたんじゃないかと妄想してしまうくらい、よかった。

装丁もすごくすてき。
プロローグ的な二十数ページのあとに、「はーばーらいと 吉本ばなな」と書かれた中表紙が現れるのだが、ここでまず泣きそうになった。
映画みたいで。
あと、裏表紙の裏に貼られた紙がつるつるすべすべの紙で、読んでいるとき

もっとみる
『いなくなっていない父』金川晋吾

『いなくなっていない父』金川晋吾

失踪癖のある父親を被写体にした写真集『father』の作者・金川晋吾による、『father』ができる過程とその後をつづった本。

『father』はパラパラとめくったことがある程度だけれど、「失踪癖のある父親をずっと写真に撮っているひと」ということで、金川晋吾という名前はずっと気になっていた。
他の本を探しているときに偶然本屋で見かけ、衝動買い。
読み始めたら、おもしろくてびっくりした。

パラパ

もっとみる

赤坂真理×倉田めば「表現の中で安全に壊れること」抜き書き

雑誌『精神看護』2022年9月号 巻頭特集
「表現の中で安全に壊れること 回復に殺されないために――」
赤坂真理×倉田めば

切実な、とてもいい記事だった。これから何度も読み直すと思う。

読みながら、上記の部分を思い出したりもした。身体にとっては、ある必然があって、生きようとしてやったこと。

この特集を受けてのオンラインのトークイベントが9月末にあり、それにも参加した。キッチンで、実家に持って

もっとみる

『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』抜き書き

『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』
アナベル・ゴンザレス 著  大河原美以 監訳  日本評論社

図書館で借りて読み、「これは手元に置いておきたい!」と思い、結局購入した本。去年の10月にノートに手書きで抜き書きしたものを、さらにこちらに転記(何をしているんだろう…)。

ここのところ、気持ちが落ち込んでいる。

もともと気持ちの浮き沈みは激しいほうだが、その分浮上も早く、眠れないことはほと

もっとみる

『なぜ、親は「正しさ」を押しつけてしまうのか?』抜き書き

雑誌『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』128号巻頭特集の熊谷晋一郎と山田真の対談より。

(熊谷晋一郎)母はいま72歳で、私がインタビューしたときは67歳だったと思うのですが、最近、年老いてくれてほんとうによかったと思うことがあります。若いころは、涙して愚痴をいったり、こどもに詫びたりすることはなかったのですが、ようやくここ10年ぐらい、そういうことが起きるようになりました。自分のことで精一杯

もっとみる

花丘ちぐさ『その生きづらさ、発達性トラウマ? ポリヴェーガル理論で考える解放のヒント』抜き書き

 不適切養育は、「虐待」とは少し違います。虐待といえば、身体に傷がつくような暴力が行われる身体的虐待、暴言などを繰り返す心理的虐待、ご飯を食べさせないなどのネグレクトや、あるいは性的な加害行為をする性的虐待などがあります。
 私のところにいらっしゃる、生きづらさを感じているクライアントの多くは、「虐待は受けていない」と言います。身体に傷がつくような殴られ方をしたこともないし、食事はちゃんと出しても

もっとみる
読書記録『お母さんの当事者研究』

読書記録『お母さんの当事者研究』

『お母さんの当事者研究 本心を聞く・語るレッスン』熊谷晋一郎・当事者(お母さんたち)著(ちいさい・おおきい・よわい・つよい127)

ソフトカバーの単行本のような体裁だけど、『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』という子育て系雑誌の第127号。毎号ワンテーマの大特集があって、この号の「お母さんの当事者研究」という特集も128ページが割かれている。

公募で募ったという6人の参加者が、熊谷晋一郎をフ

もっとみる

鳥羽和久『親子の手帖』抜き書き

著者は、福岡で学習塾を営んでいるひとだという。
全く知らなかったが、書籍も扱っているような無印良品の大きめな店舗でたまたま見かけ、帯の植本一子の言葉(私たちは子どもたちのためにもう一度「大人」になる必要がある)にひかれた。
植本一子は、著書の中で時折母親との確執にふれている。
そこが自分と少し重なり、彼女のすすめる親子関係の本なら読んでみたいと思った。

著者が出会ってきた子どもと親のエピソードが

もっとみる

津村記久子『くよくよマネジメント』抜き書き

 心と体は、まったく性質の違うものですが、心についても、ときどきは体と同じように扱ったほうがよいのではないかと、最近よく感じています。つまり、わたしに関して言えば、心配する癖を自然な状態として放っておくことは、心を自傷しているのと同じだ、と解釈するような具合です。だから、立ち上がるたびに、自分の腿にぶつかり続けるデスクの位置を変えるように、指先をいじくるのをやめて絆創膏を貼るように、心配することか

もっとみる

阿古真理『料理は女の義務ですか』抜き書き

 日本では現在、世界各国の食材が手に入り、料理法が伝えられるがゆえの選択肢の多さが、人を悩ませてもいる。何をつくったらいいのか選べないのだ。料理技術の低下も著しい。レパートリーも少ない、基本技術も怪しいまま、台所に立つ人は珍しくない。さらに忙しさが料理を困難にする。食材を調達したり、つくる時間もままならない。食べ損なった食材やつくった常備菜が冷蔵庫の中で腐り、つくる気が萎える。子育てと家事の両立に

もっとみる

鷲田清一・山極寿一『都市と野生の思考』抜き書き

鷲田 コミュニケーション教育の重要性が大学でも言われていますけれど、コミュニケーション能力=ディベートで勝つことと勘違いされているフシがある。コミュニケーション教育で教えるべきはディベートではなく、ダイアログです。平田オリザさんが、ディベートとダイアログの違いを教えてくれたのですが、ディベートでは、議論の最初と最後で自分の考えが変わっていたら負けです。議論に勝つことだけが目的だから、自分の考えを一

もっとみる

ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』抜き書き① 階級について

 わたしの同僚もやはり下層英語を喋る娘だった。ミドルクラスの家庭の子どもたちが多く通う保育園なので、本人はできるだけゆっくり喋るようにしたり、難しげな単語を使うように努力していたが、医師や弁護士といった高学歴のお母さんたちからは緩やかに、だが完全に無視されていた。夕方、お迎えに来たお母さんたちに「○○ちゃん、今日はランチを全部食べましたよ」みたいなことを話しかけても、お母さんたちは微笑して彼女を一

もっとみる

ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』抜き書き② 子どもたち、保育士たち

 アートテーブルの向こう側には他の子どもたちにまとわりつかれながらヴィッキーが立っていた。立とうとしたのにまた蹴りを入れられて床に転んだケリーは、丸く目を見開いて無言で姉の顔を見ていた。ケリーは姉が助けにきてくれるのを待っていた。が、ヴィッキーは部屋の反対側からわたしのほうをじっとみている。
 それも見覚えのある場面だった。わたしも自分の息子が託児所で別の子どもに暴力を振るわれたとき、何もできずに

もっとみる

ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』抜き書き③ 英国のことなど

 この冬、日本に滞在したときにジャーナリストの猪熊弘子さんから世田谷区の保育園を5カ所案内していただいた。それでわたしが驚いたのが保育士の配置基準だった。日本の保育園は、0歳児で保育士1対子ども3、1歳児、2歳児で1対6、3歳児で1対20、4歳児、5歳児は1対30と定められているそうだが、これは英国で保育士として働くわたしにはかなり衝撃的な数字だった。英国の配置基準は、0歳児と1歳児で1対3、2歳

もっとみる