高野翔/Sho Takano

福井県立大学 地域経済研究所 准教授/まちづくり愛好家/地域のウェルビーイングの研究と…

高野翔/Sho Takano

福井県立大学 地域経済研究所 准教授/まちづくり愛好家/地域のウェルビーイングの研究と実践をいったりきたり/サウナというよりも水風呂が好きなんだと最近気付く

最近の記事

場づくりの挑戦 まちの記憶をつくれるか

 福井商工会議所・福井県・福井市が手を取り合い議論を進めてきた県都グランドデザインが完成した。2024年春の北陸新幹線延伸に向け、福井まちなかにおける“場づくり”の推進を明確に打ち出す形となっている。  場づくりの「場・場所」というのは、ただの空間ではない。場・場所というのは、経験を通じて、意味や感覚を獲得し、愛着のような人間の感情を生み出す空間を意味する。空間における人間の主体性を重んじる人文主義地理学では、“スペース(空間)からプレイス(場所・場)へ”と呼び、人口減少時

    • 居場所と舞台 幸せ実感できる社会の礎

       幸せな生活において、ほっと安心できる居場所と自分を表現できる舞台が欠かせない。今回は、居場所と舞台という二つの場所の重要性について綴ってみたい。  人の幸せを学問するウェルビーイング研究の系譜を辿ると、幸せとは何かを哲学的アプローチにより問うことからはじまった。古代ギリシャに生きたアリストテレスは、幸せを最高善と呼ぶ。幸せとは、誰しもがそうなりたいと願い、人が生きる上での最上の目的であるとした。以後も多くの哲学者がこの問いを繰り返してきており、社会的動物である私たち人は、

      • 大人も学びを止めない 期待膨らむ「ふくまち大学」

         学びを止めない。この言葉は、子ども達(たち)の学びの保障に向け、コロナ禍におけるキーワードの一つとなった。遠隔・オンライン教育の活用も含め、子ども達の生きる力をはぐくむことを目指す学校教育の現場において、模索の日々が続いている。子ども達の大事な学びを、社会として保障することの重要性については論をまたない。一方で、学びを止めてはいけないのは、決して子ども達ばかりではない。私たち大人も同様である。  人生100年時代の概念を提唱したロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グ

        • 緒方貞子さんのメッセージ 尊厳守り可能性の開花を

           人は人生を通じてたくさんの師に出会う。親にはじまり、学校の先生、職場の上司や友人など。私も多くの師に恵まれ、もらった言葉を大事にしながら、なんとかなんとか人生の歩を進めてきた。特に、ウクライナ情勢により難民・国内避難民が1億人を超えるという今日においては、緒方貞子さんの顔が心に浮かぶようになった。緒方さんは、私が社会人生活を始めたJICA(国際協力機構)の当時の理事長だった。緒方さんから訓示をもらい、仕事を始めることができたのは幸運としかいいようがない。今回は、心の師であり

        場づくりの挑戦 まちの記憶をつくれるか

          民主主義を考える 終わりなき人の営み

           民主主義とは何か? 世界がコロナ禍と戦禍をともに経験する中、民主主義の在り方が根本から問われる時代を私たちは生きている。今回は、民主主義という言葉を聞くといつも脳裏に浮かぶスイスの小さなまちでの思い出話をお届けできればと思う。  スイス東部に位置するアッペンツェル。直接民主主義が息づくまちだ。毎年4月に3千人ほどの住民が広場に一堂に会し「青空住民議会」が開催される。議会のはじめには行政から昨年度の会計報告があり、その後、様々な議題に関して、住民が右手をあげるかどうかでまち

          民主主義を考える 終わりなき人の営み

          ウェルビーイング つながりが幸せの源に

          “ウェルビーイング(Well―being)”という、幸福・健康・福祉などを含み「身体的・精神的・社会的によい状態」を表す概念に、世界中で注目が集まっている。心身の健康の重要性はこれまでもよく言われてきた。それだけでなく、人の幸せには、社会的に良好な状態、すなわち“社会的つながり”が重要であることをメッセージとして持つのが、このウェルビーイングという概念の大きなポイントだ。今回は、このウェルビーイングに纏(まつ)わるコロナ禍での小話をお届けできればと思う。  つながりが幸せに

          ウェルビーイング つながりが幸せの源に

          ビジョンガイドブック 「ととのうまち永平寺町」

          福井県立大学と永平寺町が連携し開講する「永平寺町学」。 永平寺町というフィールドを舞台に、一年生の学生たちが地域に飛び込み、地域の人々から学び、地域の課題解決に挑む、15回(1単位)の授業です。 2021年度後期は、地域の暮らしの価値の見える化と発信に挑戦。注目したのは、永平寺町に暮らす人々の幸せ・ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に幸せな状態)です。 永平寺町の幸せ・ウェルビーイングとは何か?と考えたときに、浮き上がってきたのが「ととのう」という1つのキーワード

          ビジョンガイドブック 「ととのうまち永平寺町」

          学びの都「学都」を福井に出現させよ。

          【 追加記載: 1/22-23の「XSESSIONS」の開催は延期し、新しい日程は、3/5-6となります。】 福井に小さな学びの教室を生んできた福井市事業・X SCHOOL。今年の2日間(3/5-6)の新企画である『X SESSIONS』に、プログラムディレクターとして参画させてもらうご縁をいただきました。 『X SESSIONS』は、福井のまちなかに学びの場を拓き、JR福井駅周辺の3会場を舞台に、2日間に渡りくりひろげられるトークセッションの交響体です。さまざまなゲスト

          学びの都「学都」を福井に出現させよ。

          Well-being元年の年越し

          今年2021年もあとわずか。コロナ禍の行く先はまだまだ見通すことが難しい。そのような中、幸せやWell-beingを研究する身としては嬉しいこともあった。 重要な政府方針となる「骨太の方針」や「成長戦略実行計画案」においてWell-beingを推進する文言が見られたのだ。 国際的には様々な国々で経済社会発展アプローチにおけるWell-being重視の動きはこれまでにも見られたが、そのような動きが加速した背景の一つにコロナ禍の影響もあったのではないかと推察する。 Well

          Well-being元年の年越し

          社会距離は、はじまりの距離だった。

          アメリカの文化人類学者であるエドワード・T・ホールは、人と人のコミュニケーションの距離は4つに整理できるという。 密接距離(0-45cm) :強い感情をやりとりする距離。 個体距離(45cm-1.2m):家族友人とのふれあいの距離。 社会距離(1.2m-3.7m) :雑談などのなにげない情報を交換できる距離。 公共距離(3.7m以上) :形式的で一方的なコミュニケーションの距離。 コロナ禍において、コミュニケーション距離について感じたことは人によって異なるだ

          社会距離は、はじまりの距離だった。

          斜に構えない、という黄金ルール

          有難いことに、地域づくりやまちづくりに関するご相談やご意見を受けることがある。 どうせ福井駅前っていい感じにならないでしょ、どうせ利用もされない空間が増えるだけでしょ、どうせまちに賑わいなんて生まれないでしょ、どうせ福井にプロスポーツの文化って根付かないでしょ、等々。 このような心境にいたる実例があったりするので、気持ちはわかるのです。 が、斜に構えていて世の中や街をよくする方法を私は知らないので、とりあえず、斜に構えない、という自前の黄金ルールを持ち出してみる。 斜

          斜に構えない、という黄金ルール

          地域ビジョン論の振り返り(2021年前期)

          2021年前期に開講した「地域ビジョン論」は、今日が最終授業でした。ということで、振り返りを簡単にですが記しておこうとおもいます。 「地域ビジョン論」は、地域にビジョン(まちの未来像)がない、と言われて久しい中、自分の生まれた街の地域資源や行政計画を調べ、他地域の地域ビジョンのグッドプラクティスも学び、自分オリジナルの地域ビジョン名をつくって発表しあう授業です。 授業を始めるときに設定した目標 授業を設計するときに参加する学生のみんなにこのことは得てほしいな、と3つの授業

          地域ビジョン論の振り返り(2021年前期)

          地域における、サッカーの価値。

          先週末、福井ユナイテッドFCの開幕戦でした!雨が激しく降る中の試合となりましたが、新加入の選手の活躍もあり、5-0で開幕戦を白星スタート。 試合のハイライトやインタビューをまとめた動画がyoutubeでアップされていますので共有しますね! 私は、地元の福井ユナイテッドFCを応援しているのですが、スポーツの価値というのは人と人との競争だけでなく、人と人との交歓を地域につくってくれることにあるな、とおもっています。スポーツを通じた共生社会づくり、ですね。そこに私自身、すごくす

          地域における、サッカーの価値。

          福業を一人ひとりが持てる社会に。

          3月20日、福井県主催で『地方兼業』の成果を共有するオンラインセミナーがあり、コメンテーター(?)として参加させてもらいました! 福井県では、都道府県としてはじめての試みとして、兼業・副業の外部人材を募集。4名が福井県の長期ビジョン策定に関する広報担当として活躍されました。募集時にはなんと400人以上の応募があったとのこと!地方兼業のニーズの高さが伺えますね。 私は、自分の好きなことが社会の力にもなる”福業”と言えるようなことを、一人ひとりが持っているのではないかとおもっ

          福業を一人ひとりが持てる社会に。

          生きる豊かさの新概念GDWをよろしくね!

          ブータンを起源とする国際幸福デー(3月20日)を受けて、福井新聞さんにご取材いただきました。福井新聞さんには記事毎にいつも大きな宿題とエールを頂いている気持ちです。ありがとうございます!今回は、研究生活で注目してきた”GDW”について。量的な経済指標であるGDP(Gross Domestic Product / 国内総生産)の「P」を、Well-being(ウェルビーイング)の頭文字「W」へと質的転換し産声をあげたのが、”GDW”(Gross Domestic Well-be

          生きる豊かさの新概念GDWをよろしくね!

          「世界文化」なるものに対して

          ウェルビーイング・幸せの研究を通じて、日本が培ってきた文化や価値観はどのように世界に貢献しうるのか。興味がある。 * ウェルビーイングとは、イタリア語のbenessere(ベネッセレ)が語源となり、「よく在る」という意味。Well-beingの記載のとおり、よい(well)状態(being)を指し示し、人の幸福、健康、福祉なども包含する広範な概念。 海外に禅思想を発信した鈴木大拙の『東洋的な見方』の冒頭には以下のような記載がある。 本書で「東洋的」という文字をよく使った

          「世界文化」なるものに対して