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大人も学びを止めない 期待膨らむ「ふくまち大学」

* 2022年8月28日に福井新聞「ふくい日曜エッセー」に寄稿した文章です。https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1622938


 学びを止めない。この言葉は、子ども達(たち)の学びの保障に向け、コロナ禍におけるキーワードの一つとなった。遠隔・オンライン教育の活用も含め、子ども達の生きる力をはぐくむことを目指す学校教育の現場において、模索の日々が続いている。子ども達の大事な学びを、社会として保障することの重要性については論をまたない。一方で、学びを止めてはいけないのは、決して子ども達ばかりではない。私たち大人も同様である。

 人生100年時代の概念を提唱したロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンは、日本のこれまでの一般的なライフステージは、教育↓仕事↓引退の3ステージであったと論じる。簡略化すると、20年学び、40年働き、20年余生を過ごすという人生設計であり、学びは人生の第1ステージにおける営みであるという意識が日本では強い。しかし、変化の大きなこれからの時代においては、多様なステージを経験することになるため、人生の前半期だけでなく、人生100年を通じて学び続けることが欠かせない。大人になっても学びを止めないことこそが重要であると投げかけてくれる。

 改めて、教育(Education)という言葉の語源に立ち戻ると、その一つが「エデュカーレ」であることに、はっとする。ラテン語で“引き出す”という意味だ。一人ひとりの可能性を引き出すことこそが教育・学びの本質であるとすれば、その営みは生きることを通じて生涯続く。片や、人生の第1ステージであるこれまでの教育において、一人ひとりの大事なことを引き出すという観点よりも知識を詰め込むという側面が大きいことは否めず、ここで学びを止めてしまっては、なんとももったいない。国の新学習指導要領に基づき、教育の目的を生きる力をはぐくむことと据えるのであれば、生きることと学ぶことは生涯切っても切り離せない営みであると考えるのが自然であろう。

 それではどうやったら、私たちは学びを続けることができるのか? そのことにヒントを与えてくれる自己決定理論と呼ばれる一つの学びの理論がある。人は報酬をもらうなどの外発的な動機をもとに学ぶとその報酬がなくなると学びを止めてしまう傾向がある。しかし、自分自身の価値観や好奇心に沿って内発的な動機を持つことができれば、自(おの)ずと学びを続けることができる、というものである。そのためには、自律性・関係性・有能感と呼ばれる三つの欲求が満たされ支えられることが大事だとされる。心をひらき自分事として取り組むことのできる自律性。人との出会いや社会的つながりが生まれる関係性。小さくても実践してできたと実感することのできる有能感。この三つが重要なのだ。

 先日、福井市のまちなかを舞台にした「ふくまち大学」が開学した。正規の大学ではなく、老若男女の誰しもが参加できる市民大学である。福井県、福井市、福井商工会議所などで構成される県都にぎわい創生協議会が策定する長期構想「県都グランドデザイン」に位置づけられる学びの場づくり事業だ。私も、まちの学長というお役目をいただき、学び続けられる三つの要因である自律性・関係性・有能感を“ひらく。つながる。できる。”とシンプルなひらがなに置き換え、まちの学び場の校訓・コンセプトとすることにした。同時に、この三つの要素は、人の幸せをはぐくむ決定要因でもあり、学びを起点にした幸せをはぐくむ地域づくりとしてのふくまち大学に期待を込めた。一人ひとりの“ひらく。つながる。できる。”が引き出される学びの場となり、まちなかから大人が楽しく学ぶ姿が拡(ひろ)がってくれればとおもう。子ども達ばかりでなく、大人も“学びを止めない。”

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