人口流出をくいとめる方法は、優秀な人材が戻ってくるサイクルをつくること
静岡特化型移住転職エージェントであるTurnX酒井社長と弊社代表の河原崎の対談です。
若者が静岡を離れていってしまう理由や企業と行政が一丸となる方法についてディスカッションを行いました。
▼前回の記事はこちら▼
なぜ若者は県外に出ていってしまうのか?
——静岡県では人口減少が叫ばれて久しいですよね。人口減少を抑制する方法や、「そもそもなぜ静岡から若い人たちが県外に出ていってしまうのか?」などについて、考えをお聞かせください。
酒井社長:
まず、魅力的な企業があるのに、それがしっかり周知できていないというのはあります。とくに学生たちが地元の企業を知らない。だから就職のタイミングで県外に人が流れていってしまうと。
河原崎:
ええ、まさに僕たちも同じ課題意識があって、静岡みんなの広報を始めました。
▼静岡みんなの広報を始めた理由についてはこちら▼
酒井社長:
ですよね。とはいえ、キャリアという視点で見た時、首都圏に比べると静岡で選べる仕事が少ないというのは事実です。自分が歩みたいキャリアが実現できないとか、仕事に見合った給料が稼げないといった課題があります。
とくに「女性の転出者が多い」というのが地方のあるあるです。なぜかと言えば、やはり働き方の観点で首都圏のほうが選択肢が多く、自分らしい生活ができるというふうに考えることもできます。
県外に出ていくのも悪いことばかりではない
酒井社長:
だからと言って、1、2年のうちに一気に転出者が少なくなるような施策が仮にできたとしても、それはそれで、静岡にとってよくないと思います。
残念ながら、今の静岡がビジネス的な情報や事業で潤ってるかというと、そうではありません。優秀な企業、優秀な人材が足りていない状態で転出者を減らしたとしても、内側に残った人々を育てることができず、ますます衰えていってしまうと考えます。
むしろ、最初は県外に出て行ってもいいんじゃないでしょうか。
大切なのはその後、首都圏で情報やスキルを身につけ、優秀な人材となって戻ってくるサイクルをつくることだと思います。海外留学でグローバルな視野を持って日本に戻ってくるのとまったく同じですよ。
——首都圏で身につけたスキルを持ち帰ることが、静岡の発展に繋がるというお考えですね。
▼酒井社長が静岡県の人口減少について書いた記事はこちら▼
河原崎:
僕も酒井社長と似た考えです。静岡みんなの広報を通して、"外"での経験を取り入れる必要性をより強く感じるようになりました。
たとえば以前、フジ物産さんを取材させていただきました。Ath-up(アサップ)というアスリートキャリア支援事業は、山本さんが東京で磨いたスキルが活かされた例だと考えます。
▼フジ物産山本さんの記事はこちら▼
同じように、シャフトの久保田社長も静岡県の掛川市で生まれて、東京のアニメ制作会社に勤めて、地元にアニメの制作スタジオをつくる動きになりましたね。
▼シャフト久保田社長の記事はこちら▼
酒井さんがおっしゃっていたのは、このようなサイクルですよね。だから、短期的に見ると転出者が増えているのは問題だけど、サイクルさえ確立していれば、中長期的に見たら悪いことではないんじゃないかと思います。
——問題は戻りやすい環境、戻ってくるサイクルがつくれていないことですね。
河原崎:
また、大学のキャリア教育の先生が、「課題意識を持った学生のほうが県外に行きやすい」みたいなことを言っていたのも印象に残っています。
酒井社長:
たしかに、目的や課題意識を持たずに地元にいても、人も企業も発展しにくい。
——かと言って、「君たち、今すぐ課題意識を持ちなさい!」というのも難しいですね……。
「地元に戻ってくる」だけが正解ではない
——では、一度外に出ていってしまった人たちを呼び戻すための施策や、サイクルをつくる有効な手段はあるのでしょうか?
酒井社長:
静岡にある企業を魅力的にしていくと同時に、首都圏にある企業を静岡に誘致していくとか、スタートアップ企業のサテライトオフィスを静岡につくるとか、さまざまな手段が考えられます。
そんな中で、私がとくに力を入れていくべきだと考えているのは学生へのキャリア教育。
私は学生と話す機会もありますが、首都圏の大学に比べて、静岡の学生へのキャリア教育は今一歩及ばない印象があります。
だから、もっとキャリア教育を力を入れていかないといけないし、その延長線上で、静岡の会社を知ってもらう機会を増やしていくべきだと考えています。
学生のうちに静岡のこと、地場産業のことを知っていれば、将来的にどんな道を歩むか想像しやすいし、どこかのタイミングで「静岡に貢献したいな」と考える人も増えると思うんですよね。
河原崎:
一つの考え方として、「無理に地元に戻ってくる必要はないのでは」というのもありじゃないでしょうか。
うちのエンジニアである杉田くんだって山梨に住んでいるし、石川さん(TurnX広報担当)だって静岡を愛しているけど、神奈川に住んでらっしゃいますよね。
だから、別に戻ってくるだけが正解ではなく、想いのある人たちが静岡の企業や地域の課題に、各々が身につけたスキルを役立てたいと思えるような環境づくり、あるいは情報発信をしていくことが重要なんじゃないでしょうか。
たとえば静岡みんなの広報で言うと、「江﨑グループがARTIE(アルティエ)という新しいアミューズメント施設をつくりました」となった時、「私たちのパフォーマンススキルを活かしてステージでイベントをしたいな!」というふうに考えてくれる人が増えたらいいなって。
▼江﨑グループ江﨑社長の記事はこちら▼
——「静岡の関係人口を増やす」という考えですね。静岡にいなくても、静岡に関心を持ってくれる人を増やしたいと。
河原崎:
最近は、「静岡という狭い括りだけで考えなくてもいいのかな」と思うようになりました。
結局、人口って取り合いじゃないですか。「静岡の人口が一人増えました。嬉しい。でも、東京の人口が一人減りました。残念」みたいなやりとりは、日本全体で見た時、あまり意味がないように感じます。
どこに住んでいるかは関係なく、企業や地域の困り事が可視化されやすく、また、可視化された困り事に対してアクセスしやすい環境づくりが大事ではないのかと、僕は考えます。
石川さん(TurnX広報):
横槍を入れるようで恐縮なのですが、私のお話をさせてください。「関係人口を増やす」のお話は自信に繋がりました。ありがとうございます。
というのも、私は地元の静岡県富士市が大好きで、神奈川に住みながら、富士市の企業さんに関わらせてもらったり、ボランティアに参加したりしているんですね。
ただ心の片隅で、「自分は片足突っ込んでいるだけじゃないか?」とか「中途半端な姿勢は、むしろ地元に住みつつ頑張っている人たちに失礼なんじゃないか」と考えていました。
だけど、実際に静岡で活躍されてる河原崎さんのような方が、「戻らなくても、関わりたい、貢献したいと思ってくれる人が増えればいい」とおっしゃってくれて、とても救われました。
河原崎:
こんなすぐに共感の声が返ってきて、なんか嬉しいです(笑)
▼石川さんの地元愛の理由はこちら▼
自治体と企業が一枚岩になるになるためには?
酒井社長:
私たちの役割として、やっぱり、移住というところで終わってはいけないなと常々思っています。
先ほどもお話ししたように、静岡にはキャリアの課題もありますし、職種に関しても、デザインやマーケティング、ブランディングを専門にするような都内で人気の職種というのは圧倒的に少ない。
もっと移住者が増えれば、そういった職業の選択肢も増やせるでしょうし、遠方から静岡に関わりたいと思ってくれる人たちも増えていくと思います。「静岡の課題を解決したい」と思える人が増えていくのは、その次のステップになるかなと。
河原崎:
移住者を増やすと同時に、受け皿としての仕事を増やすってことですね。
酒井社長:
もう一つ私が感じている課題として、人口流出に対して静岡の自治体や企業が一枚岩になれていないというものがあります。自治体、企業、第三セクターが一丸となってやっている地方もある中で、静岡は一部の優良企業が一箇所で完結させようとしているというか……。
企業と自治体が連携していけば、もっと大きな動きがつくれるんじゃないかと思うことがあります。
河原崎:
ちなみに、酒井さんの考える「自治体や企業の連携がうまい地方」はどこですか?
酒井社長:
たとえば、長野県塩尻市ですね。自治体と企業、地元の団体が本当に一緒になっているし、東京とも協力関係にあります。あとは福岡市。ICTの導入など、高島市長が先陣を切って進めていました。
河原崎:
LINEでのマイナンバーカード申請をいち早く取り入れたことで話題になりましたよね。
石川さん:
「一枚岩になろう!」と自治体や企業が同じ目標を掲げたときに、「TurnXとして、こんな関わり方ができるんじゃないか」みたいな考えはありますか?
酒井社長:
「繋ぎ役」っていうところが大事だと、私は思います。
たとえば、どこの企業も「地方創生部」みたいなのがあるわけですよ。どこの会社も地元を盛り上げたいという方向性は一緒。やりたいことも一緒。だったら、一緒にやっていきましょうよ、と。
ただやり方として、各々の会社が別々にやるんじゃなくて、その企業の強みを活かして、できるところに注力するのがいい。
たとえば、銀行だったら網羅的に企業と繋がっているし、新聞社は個人との繋がりが強いし、もっと枝葉を伸ばして、広告会社だったらここ、保険会社だったらここみたない感じで一つの木、一つの目標を形づくっていけばいいのではないかと考えています。
その繋ぎ役として、TurnXが活躍できる場があるのではないか思いますね。
石川さん:
TurnXとしては企業間を繋ぐ“ハブ”になる感じですね。
——LEAPHとしては、自治体と企業の「一枚岩」にどのように関わっていきますか?
河原崎:
うちはメディアやっているので、ハブとしての関わり方ができます。実際、「ここの企業さんと繋いでほしい」みたいな相談を受けることもちょくちょくありますし。
同時に、「LEAPH自体が大きく成長する」という関わり方もありだと思っています。
静岡鉄道の川井社長が「強い点をつくる」という話をしてくれました。一枚岩になることももちろん大切ですけど、まずは静岡の企業がそれぞれ成長して強い点となることも必要です。その点が繋がっていけば、静岡自体が自然と強い面になっていくんじゃないかと思っています。
株式会社って、営利を追って競争しあっているイメージがありますが、その根源には、「誰かの生活を便利にしたい」「人のためになることをしたい」という動機があるわけで、だから、会社として大きくなるということは、それだけ社会をよくしているということだと、僕は考えています。
みんながそれぞれ「人のためになることをやろう」と動いていけば、そのうちまち全体がよくなるはずです。LEAPHとしては、実力をつけていき、社会により求められる会社になっていきたいです。
会社・静岡の展望について
——最後に今後の展望や「静岡がこうなったらいいんじゃないかな」みないなことをお聞かせください。
酒井社長:
今後はもっと、「ここで働きたい!」と思える静岡の会社を増やしていきたいですね。もちろん、TurnXも含めて。
そして会社としても成長するとともに、LEAPHさんのように一緒に協力してくれる会社や団体、個人を巻き込みつつ、静岡に移住転職のムーブメントを起こしていきたいと考えています。
河原崎:
LEAPHはこれからも、身近の困ってる人や目の前の問題を着実に解決していきたいと思っています。
静岡に対してできることとしては、メディアを通して「静岡はいいまちなんだ!」っていうことを発信しつつ、自分たちが強い点になっていくことですね。まだまだ成長の余地ありです。
——本日はありがとうございました!
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