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シャフト静岡スタジオAOIへの想い | 株式会社シャフト 久保田社長インタビュー

アニメーションづくりに参加したい人、絵を描く仕事をやっていきたい人たちが多いのは事実です。では、その方たちの能力をどのように育てていくかというのが目下の課題です。

——そう語るのは、「魔法少女まどか☆マギカ」、〈物語〉シリーズ、「3月のライオン」など、数々の名作アニメを世に送り出してきた株式会社シャフト久保田光俊社長です。

2022年6月、同社は静岡市葵区に「シャフト静岡スタジオAOI」を開設しました。アニメーション制作会社が静岡市に進出するのは初めてであり、業界への就職を志す市内の人々から期待と歓迎の声が上がっています。

静岡みんなの広報は、久保田社長の静岡への想いとアニメ制作への姿勢を伺いました。

なぜ静岡にスタジオを?

弊社はアニメーションの制作・企画や制作著作物の管理・販売等を中心に行なっている会社です。この度新設した静岡スタジオAOIには、研究・開発、作画、CGアニメーションを担当する部署があります。

そこで皆さん興味を持たれるのは、「なぜ静岡にスタジオをつくろうと思ったのか?」です。

シャフト静岡スタジオAOIのエントランス

大きな理由としてコロナ禍があります。

世の中の流れで、僕らもテレワークやネットツールを使わざるを得なくなりました。実際にやってみると、たしかに支障はなかった。デジタル化は業界全体でも進んでいたので環境さえ整っていれば絵は描けるし、スタッフ同士のやりとりもオンラインで済んでしまいます。

わざわざスタジオに集まらなくても仕事が進み、非常に便利です。ただ、「このままでいいのかな?」とも思っていました。

僕たちは個人で創作をしている作家ではありません。チームで一つの作品をつくっています。やっぱりエンターテイメントをつくる、アニメーションをつくるというところで、チーム本来の力を出すためにはスタッフ同士の交流がないといけない

スタッフが集まって気軽なコミュニケーションを取ったり、時には意見をぶつけ合ったりすることが良いアニメづくりには必要です。

シャフト静岡スタジオAOIの様子

こうして、みんなで集まってつくることの大事さを再確認すると同時に、テレワークやオンライン作業をうまく活用できれば、さらに良い作品をつくることができるんじゃないかと考えるようになりました。

現在、アニメ制作の第一線は東京です。ただ、首都圏以外の場所にもアニメに関わりたい人はたくさんいます。僕自身もそうでした。中には自分たちが生まれ育った土地を離れたくないと思う人だっているはずです。

だったら一つ行動を起こしてみようと、僕の出身である静岡県でヒアリングをしてみました。

静岡市の学校の方々にもご協力いただき、アニメーション制作に興味のある子たちが静岡にも大勢いるとわかったので、「よし、トライしてみるか!」と今に至るわけです。

静岡は東京と物理的距離も近いので、リアルでの交流もしやすいでしょう。東京、静岡間でスキルや知識を共有し、作品のさらなるクオリティアップを目指していきたいです。

“静岡で”働きたい人を増やす

東京のスタジオに応募してくれた人たちの中にも静岡出身の方がいて、その方も静岡のスタジオを希望してくれました。海外からの希望者も静岡のスタジオに興味を持ってくれていますし、すでにいろんな効果が出ていますね。

静岡にスタジオを設けたことでの成果はこれから出てくるとして、やはり静岡は首都圏と比べて住居環境に関しては有利だと思います

山も海も近くて、食べ物が美味しい。静岡に住んでいる人たちは気づきにくいかもしれませんが、東京からこちらに来たスタッフは「いいところだな」と喜んでいるようです。スタジオからも毎日のように富士山が見えて気持ちがいいですよ。

静岡スタジオAOIから見える富士山

今後、アニメーション制作に参加してくれる人たちが、「“静岡で”働きたい」と言ってくれるような、魅力あるスタジオを目指しています。

日本らしいアニメーションとは?

一口にアニメーション制作といっても様々な部署があります。制作、作画、仕上、美術、撮影、3DCGなどですね。弊社はこういったアニメーション制作に関わるほとんどのセクションを持っています。

設立は1975年、本社は東京の井荻ですが、制作スタジオが荻窪にあり、ほとんどのスタッフはこちらに集中しています。従業員数は100名程度、男女構成は半々くらいです。

アニメーション制作会社としてのシャフトが始まって、もう45年ほど経ちます。

皆さんご存知ないかもしれませんが、昔は「セル」と呼ばれる専用のフィルムを使ってアニメを撮影していました。紙に描かれたイラストをカーボン紙でセルにコピーして絵の具で色を塗る。それを何枚も何枚も手作業でしていくような、本当にアナログな作業を中心にしていました。

それが2000年頃から、作画、彩色、撮影などの工程のデジタル化が進んでいきました。

ツールの進化はものすごい速度で、タブレットを使った作画であったりパソコンでの彩色が今は主流です。こういった作画机は滅多に使わなくなりました。

また、ここ10年くらいで3DCGを使ったアニメーションの表現も進んでいます。

新入社員にアナログの作画作業を伝えるためにある作画台

海外ではもうCGアニメが主流になっていますが、日本は少し違って、手描きの絵とCGのハイブリット作品が現在も多く見られます。このあたりが日本のアニメらしいところと言えますね。

ですので、まだまだ手描きの作画ができる人は必要です。

漫画の週刊連載を想像してもらえればわかりやすいかもしれませんが、毎週締め切りに合わせて納品していくのは、非常に大変なことです。

デジタル化されたと言っても、アニメを1話つくるのに3ヶ月以上かかりますし、本当に多くの人たちの力が必要です。また、1タイトルだけを集中してつくっているわけではなく、つねに数本のプロジェクトが同時に進行しています。

弊社に関しては、基本は正社員という形で採用させてもらっています。固定給に加え、関わったお仕事分をインセンティブとしてお渡ししておりますが、業界全体を見た時、まだまだ能力のあるフリーランスの方に頼っているのが現状です。

人を育て、良い作品をつくり続ける

静岡スタジオでやっていきたいこととして「人材の育成」が挙げられます。

僕がアニメ制作に関わり始めた80、90年代は、アニメの本数が少なく、予算をそれほど確保できずにいました。こちらの業界にはバブルの影響はなかったですね。制作スタジオはどこも苦労していたと思います。

昔はアニメの絵一枚一枚が手描きでしたからね。一つの作品をつくるために大勢の人とたくさんの時間が必要でした。だから作業効率も悪く、必然的に資金繰りの苦しい会社も多かったです。

出来高制で、「一枚描いたら○○円」ということが多くて、そうなると、動画や仕上げはたくさん描かなければ収入にならないので、長時間に渡り仕事をする必要がありました。

社員といっても個人事業主が多かったから、保険や福利厚生といったサポートも得られず、どうしても離職率も高くなってしまう。そうするといつまでも人が育たず、人手不足でさらに一人の負担が増え、耐えられなくなった人が辞めていく——といった負のサイクルに業界全体が嵌まっていました。

ただ、僕が代表をやり始めた2000年代くらいからはアニメ制作全般のデジタル化が進み、制作環境はどんどん変わっていきました。ワークフローにおいては、全体の制作工程を一つの会社内で完結させられるようになりました。

昨今では深夜アニメも増えてきて、世界中で非常に多くの作品がつくられるようになり、アニメコンテンツの評価向上やロイヤリティ制度の成熟とともに、労働環境も徐々に改善されてきた印象です。

アニメーションの制作風景

「良い作品をつくるためにものすごく長時間働かないといけない」ということは、アニメ業界全体でも変わりつつあると感じています。

配信のプラットフォームが増えて海外の人たちにも届くようになり、アニメの需要は年々増えてきています。ただ、つくれる人が少なければ、どうしても一人の負担が大きくなってしまいます。

それに「多くの人たちに認めてもらえるエンターテイメントをつくりたい」となると、個人として、スタジオとして、どうしても妥協ができません。演出に凝りたい! もっと作画に力を入れたい! とやっていると、なかなか「スケジュール通りに終わらせて次のセクションへ」とはいかなくて……。

だからといって時間は増えないのでマンパワーが必要になります。それも特殊なスキルを持った人が求められる業界で、誰かが人材を育てなければいけません。

シャフトとして、日本のアニメ業界として、良い作品をつくり続けるために人材の育成に力を入れていきたいです。静岡のスタジオがその第一歩になればいいなと考えています。

「仕事の可能性」の多さは街の魅力

アニメ事業は非常にクローズドな環境で、普段関わるのは主に、テレビ局やパッケージのメーカーです。

ですが静岡では、地元の皆さんにアニメーションをより身近に感じてもらえるような機会を増やしていきたいです。

そうやって、「静岡でアニメ制作をしています」ということを、少しでも外部に伝えられたら地域の活性化にも繋がるかもしれませんし、アニメに限らず、仕事の選択肢が増えることは街の魅力にもなると信じています。


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