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東京でOLをしながら小説を書いていた頃

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だいすきでだいきらいだった東京。
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#小説

ひと

人が好きだと思う、私のことを好きだと言ってくれる人、道端ですれ違ったいい匂いのする人、Twitterでしか話したことのない素敵な感性の人、会おうと言ってくれる人、会いたいと言ってくれる人、会いたいと思わせてくれる人、みんなみんな好きだと思う。みんなみんな幸せで生きてほしいと思う。

人はわからない、人はこわい、人は裏切る、人は離れていく、人とはひとつになれない、人とはわかりあえない、でも人をわかろ

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花になる備忘

死神が見えると言っても、きっと誰も信じない。それは真夜中の天井にいる。三日月型の鎌は夜の色をしている。

きみはもうおしまいだよと笑う。きみは誰とも一緒に生きられないんだよと囁く。きみには僕しかいないんだよと手を引く。

幸せに生きたいと願ったあの日から、歯車がすこしずつ狂っていった。歪な音を立ててすこしずつ。幸せに生きたいと願ったところでそれが叶わない可能性を信じて疑わなかった、あの頃の私は非常

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深夜タクシー処女未遂

深夜、家を飛び出した。おかしくなりそうだったから、先におかしくなっておきたかった。

電車の音は既に途絶え、黒になりきれない空に星は光らない。

ひたすらに走った、走って走って走って逃げた、絶望に追いつかれないように、呑み込まれないように。走って走って走って走り、遠くへ遠くへ遠くへ逃げた。

誰もいない誰もいない誰もいない誰もいない誰もいない、こんなにひとがいるのに誰もいない、何もない何もない何も

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コリドー街

コリドー街という概念は、上司から教えてもらった。

「ここはナンパスポットなんだよ、女の子なら立ってるだけで食事代には困らない」

今度連れてきてあげようか、という誘いを笑って誤魔化しながら、私はそこを、愛憎渦巻く欲望の掃き溜めと名付けた。

東京に来るまで、港区女子なんて概念だと思っていた。実在することを知った時、いつも見ていたドラマの舞台裏を覗いてしまった気がした。

彼女は恋人Aの年収100

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小説なんて書いている場合ではないのはわかっていた。

会社を辞めたいと伝えて2日、次の働き口を探すための準備も住処探しも退去手続きも役所手続きも保険程度の通院も全部何とかしなければならないのに、小説なんて書いている場合ではない。でも同時に、小説を書かなければ生き延びることなど不可能な気がした。

TOHOシネマのレイトショーをいつまでも予約できない。まだ夜の東京タワーを見ていない。この絶望の正体が

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OL小説家の休日日記 2

OL小説家の休日日記 2

休日は狂ったように、文章を書いていた。
書けなくなるかもしれない、と怯えて何も書けなくなっていた、平日の分を取り戻すように。

「あなたのやっていることなんて社会の役に立たない、全部無駄」という考えに触れても、「結局大事な人に何も伝わらないのなら、伝えようとすることは無意味」だと思い絶望しても、「書きたい」が消えなかったことに救われた。よかった、と安堵した。私には、大切なものを大切にできる強さがち

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cinderella未遂

cinderella未遂

泣き出しそうな金曜日

部長に「体調が悪いので早めに帰ります」と言う前に「ごはん連れてってあげる」と言われ断れなかった
きっと美味しいはずなのに味のしないラーメンを「美味しいです」と精一杯の笑顔で啜った

「目腫れてるけどどうしたの」と聞かれたので「昨日逃げ恥を一気見しちゃって」と嘘をついた
本当は深夜3時まで泣いていた
だから頭ががんがんするし店内が水槽越しのように揺らいで見えるなんて言えなかっ

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