花になる備忘
死神が見えると言っても、きっと誰も信じない。それは真夜中の天井にいる。三日月型の鎌は夜の色をしている。
きみはもうおしまいだよと笑う。きみは誰とも一緒に生きられないんだよと囁く。きみには僕しかいないんだよと手を引く。
幸せに生きたいと願ったあの日から、歯車がすこしずつ狂っていった。歪な音を立ててすこしずつ。幸せに生きたいと願ったところでそれが叶わない可能性を信じて疑わなかった、あの頃の私は非常にかわいらしかった。
入院しないと死にますよと言う医者の助言が脅迫に聞こえた。あなたは私の人生の責任をとってくれないだろうが、と言い放、つことができなくて、曖昧に笑って外に出て泣いた。道路に飛び込んで全部おわりにしたかった。もう全部どうだってよかった。
明日が来るのも明後日が来るのも絶望だった。静かに消えて花になりたかった。その花の名前を誰かが呼んでくれるならそれだけを望んでいたかった。
いたかったいたかったいたかった、
ずっと生きていたかった。
2022.2.5
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。