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#19 ショートショートらしきもの「マッチングアプリ」


「あ。いた!ミクさんですか?」



「・・・・はい。タカユキさん?」



プロフィール写真よりも、目鼻立ちがハッキリとした自分好みのイケメンが目の前に現れ、かなり驚いた。印象がほとんど違ったが、良い方に違うのは大歓迎だ。



「あーよかったー。ミクさん来てくれなかったらどうしようかと思いました。」



「ドタキャンされたことあるんですか?」



「ぼくはミクさんが初めてなんで無いですけど、友達がけっこうみんなやられてて。」



「アプリだとそういう人も多いんですね。」



私たちは流行りのマッチングアプリを使って数週間メッセージを送り合っている。最近無言電話来るのを友人に相談したら、彼氏を作って男の存在をアピールした方がいいと言われて、なんとなく始めてみた。彼とはメッセージや電話のやり取りもやる仲だが、会うのは初めて。お互いに仕事が忙しく、緊急事態宣言も重なり、なかなか会えなかった。


「ミクさんはドタキャンされたこと無いんですか?」


「私もタカユキさんが初めてなので無いです。」



「え!じゃあお互い初めてなのにこんなに仲良くなれたって奇跡ですね!」



勇気を出してアプリを始めて良かったと思った。
正直私はタカユキさんと付き合いたいと思っている。会うのは初めてだが、電話やメッセージのやりとりが、かなり気が合う。
好きな食べ物から好きな映画、嫌いなものまでほぼ同じだ。さすがに合わずに付き合うのはよく無いので、今日は会ってみての最終確認。
なにか危ない気配は会ってみてから本能的に分かるだろう。でも今のところめっちゃ好き。


「ここすごいですね。ワインの種類がたくさんあって迷っちゃいます。」


「ミクさんがワイン好きって言ってたので、ここ予約したんですよ。」


「ワイン好きなのなんで分かったんですか?」


「前に言ってたじゃないですか。あとここはグラスにすれば全部500円で飲めるのでお財布にも優しいです。すみません。ちょっとお手洗いに。」


いつだかに言ったワイン好きの話も覚えててくれた。これはもう相手も好意があるって事でOK?楽しくて何杯飲んだか分からなくなってきた。


「デザートも予約してあるんですけど、まだ食べれますか?」


「もちろんです!あ。でも私、イチゴが苦手なんです。ちゃんと検査してないからアレルギーかどうかは分からないんですけど、食べるとノドが痒くなっちゃって。」


「大丈夫ですよ。」


「え?」


「イチゴは抜いといてもらいましたから。あとキウイも。」


「あれ?私、話したことありましたっけ?キウイも。」


「あれ?言ってたと思うんですけど。」


いくら楽しいとはいえ、初対面なのにお酒を飲みすぎている自分に引いた。数時間前に話してた内容も忘れるなんて。
タカユキさんも相当飲んでるはずだが、顔には出ていない。それにしてもなんて気が利く人なんだろう。気が利く発言や行動ができない自分が、浮き彫りになってる気がする。


「そういえば昨日、なんの映画観てたんですか?」


「え?昨日?昨日は、配信でアニメ映画を観てました。倉沢和樹作品の新作がもうすぐ公開するんで、一つ前のやつ観ておこうかなって。」


「観たいって言ってましたもんね。公開されたら一緒にどうですか?


「ぜひ!一緒に行ってください。」


次の約束もしてもらった。さすがに今日告白はされないかな。私的には全然OKなんだけど、告白は相手からしてもらいたいという欲が出てる。


「あ。終電大丈夫ですか?あと30分くらいには出たいですよね。デザート出してもらいましょう。」


「え?あ。ほんとだ。すみません気を使わせちゃって。私、全然時間気にしてなかったです。」


楽しすぎて時計を見るのを忘れてた。終電の時間を気にしてくれて、紳士的な対応だし、ヤリモクではないことに安心した。


・・・・さん。・・・・ミクさん!



「え?タカユキさん?」


「あー。よかった。駅前で解散しようとしたら急に寝ちゃうんだもん。ビックリしましたよ。」


「え!私寝てたんですか?すみません!」


「いやいや。大丈夫ですよ。とにかく怪我もなさそうでよかったです。すみません。ワイン飲ませすぎちゃって。」


「いやいやいや!私が飲み過ぎたのが行けないんです!すみません!」


ちょっと飲み過ぎたかなとは思っていたけど、ここまでになるなんて大人なのにとても恥ずかしい。男性に家まで担ぎ込まれたかと思うと、目も当てられない。


「ぼく嬉しかったんです。飲ませ過ぎちゃったのは良くなかったんですけど、ここまで気を許してくれたのが。こんなタイミングですけど、ぼくミクさんのことが好きなんで、お付き合いして欲しいです!」


「え!ぜひ!初デートでこんなことになっちゃう私でよければ!」


思わぬタイミングで告白されて、驚きと嬉しさがいっきに押し寄せてきた。泥酔女に引くどころか、好意的に考えてくれるなんて、優しい人だ。


「よかったー。電話する時いつも素っ気ないから不安でした。」


「え?そんな感じに思ってたならすみません。きっと私緊張しててうまく話せてなかったのかも。」


「いつも『なんなんだよ。』とか『ふざけんな。』しか言ってくれないから。」


「え?どういうことですか?」


「ほぼ毎日電話してるじゃないですか。ミクさんが家に着いた時と、お風呂から出た時に。」


「え?ちょっと待って。タカユキさんの言ってる意味が分からないです。」


「そのタカユキさんって呼び方辞めませんか?ぼくカズヒコなんで。」


え。なにこれ。言ってる意味が本当にわからない。お酒で頭が回らないし、情報処理が追いつかない。


ーーーピロン

『ミクさん今日はすみませんでした。仕事でトラブルが起きて、どうしても抜けれなくなってしまって。既読つかないってことは怒ってますよね。もしよろしければ、美味しいお店をご馳走させてください!来週以降空いてる日にちありますか?』


「・・・・タカユキさん?」


「タカユキってやつから連絡ですか?すぐに削除して下さい。ぼくたち付き合ってるんですから。」


「あなた誰?」


「カズヒコって言ってるじゃないですか。毎日電話してるでしょ。まあぼくからは話しかけないんですけどね。」


「ちょっと待って!カズヒコって誰!タカユキさんは?」


「苦労しましたよ。ミクさん急にマッチングアプリ始めるんだもん。ぼくではミクさんとマッチング出来なくて悩みました。
でもそのタカユキってやつのアカウント見つけて、そいつになれば良いんだって。服装と髪型まではなんとかなるんですけど、顔がね。整形しても元々が違いすぎて、なかなか似せれないんですよね。
まあ元の顔より何倍もイケメンになれたんで良かったですけど。フリーターにはキツイですよ。整形費用出すの。でもこれだけお金掛けた甲斐がありました。ミクさんはぼくのものになったんだから。」


「お願い!助けて!お金なら渡すから!」


「顔が違くてもバレないもんなんですね。マッチングアプリは気をつけないと。あ。でもぼくがいるからもう安心か。これからずっと一緒にいれるね。」


〜おわり〜

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