見出し画像

BLドラマみたいな再会と、SNSで見た幸せな姿

大学時代、私はバイトやゲイ活動に注力しながらも、なんとか留年せずに卒業できるほど勉強に励んだ。

そして奇跡的に、「あの会社なら安心だね」と誰からも思われるような地元企業に就職することができた。

大学時代は居酒屋や喫茶店など飲食店のバイトばかりしていた。幼少期の小間使いや、中学時代の先輩達との関係などから学んだ「奉仕の精神」みたいなのが私の基本姿勢みたいなところに染みついてしまい、お客様に気持ち良く過ごしてもらうために働くって、楽しい!と本気で思っていたし、人よりうまくできるという自負もあった。

なので、新卒での就職先には小売業を選んだ。
配属されたのは紳士服担当。下着コーナーを担当するのが好きだった。残念ながらお客様は、旦那様用のものを購入するご婦人方ばかりだったけど。

オーダースーツも担当した。身体が大きすぎて既製品が入らないから、と注文されるお客様もいた。端正なお顔立ちながら、笑うと人なつっこい印象になる、引き締まったレスラー体系のお客様がいらっしゃって、個室で股下のサイズを測るときはドキドキした。メジャーを足下から股間まで伸ばすときに、当たってしまわないように自制していたな。大学から本格的に目覚めたゲイだという自覚、その欲求は、社会人になってから本領を発揮しだすのであった。

薄給だったが、スーツなど単価が高い商品を取り扱っていたこともあって、私の金銭感覚は麻痺していった。例えば、今日、ハンカチ忘れちゃった〜と言って、売場の1000円ほどする商品を購入する、みたいなのが月数回あるような感じ。自分はお客様と同じ生活レベルができる人間だと思っているかのようだった。世間知らず過ぎた。

職場から歩いて数分のところにゲイバーがあって、そこに足繁く通った。ゲイバーといっても、新宿二丁目のような雰囲気ではないような店だった。カラオケを歌って、褒められるのが嬉しかった。お金はなかったので、作ったばかりのカードで借金してまで通った。これが、15年ほど私を悩ませる借金問題に繋がってしまうのです。困ったやつだ。

就職して3年ほどしたある日、私の人生で2番目にドラマティックなことが起こった。中学時代、布団の中でプロレスごっこという名のペッティングをしていた先輩が、突然、売場に現れたのだ。

先輩とは2つ離れていたので、中学では1年間しか一緒に過ごせなかった。先輩が卒業してからは全く連絡はしていなかった(当時はケータイなどなかったので、気軽にコンタクトできなかったのだ)。つまり、8年弱?くらいの再会である。

「ここで働いているって聞いたから、会いに来た」と言われた。なんということでしょう。

先輩は相変わらず爽やかなイケメンで、色白で、優しい雰囲気で、中学のころのままだった。

当時は職場の近くに一人暮らしを始めていた私は、「よかったら今夜、私の部屋で飲みませんか?」と誘った。先輩はノリノリで「いいよ」と答えてくれた。嘘みたいな展開である。

仕事が終わって、職場の近くで待ち合わせて一緒に酒やつまみを買い出しし、10畳ワンルームの私の部屋に向かった。あまり家具を置いていないフローリングのその部屋は、新卒が住むには高スペックのように思えるが、家賃は4万円とリーズナブルだった。夕食にセロリを食べた後、水を飲んでうつ伏せになって満腹になったと思い込むようにしないといけなかったが。それくらい金欠だったのだ。

先輩との飲み会は盛り上がった。サシ飲みをするには充分すぎる広さがある部屋ながら、私と先輩は少しずつ距離が近くなっていった。

誰から始めたかは覚えてないが、2人は身体を触ったりしながら無邪気にじゃれ合い始めた。男子寮の、あのベッドの中に2人して戻ったような感覚を覚えた。いつのまにかキスをしていた。

「あのとき、おまえのこと好きだったんだ」
先輩は言ってくれた。マジか。ドラマみたいだな。
私は、味わったことのない喜びを感じていた。
そんなこんなで、先輩とつきあうことになった。マジか。

先輩は海外に留学中で、帰省中とのことだった。私はインターネット電話を部屋に導入し、夜な夜な先輩と長電話できる環境を整えた。毎晩の電話は楽しかった!

しかし、数ヶ月も経たないうちに、先輩からの電話は来なくなった。先輩が帰省してきたタイミングで、別れ話を告げられた。なんか違ったみたいだった。なんだろう、なんか違うって。私は落ち込むというよりも、あっけにとられてしまった。あのドラマみたいな夜はなんだったんだろう。

数年経って、先輩は身体の大きな人が好きなゲイ、いわゆるデブ専になったとSNSで知った。そこで見た写真に写る先輩は、自分の好みに合わせるように身体が大きくなっていた。そして、なんだか幸せそうに見えた。

恋愛では、なんだかよくわからない決断をすることがある。性自認や、嗜好を固めていく過程ではよくあることなんじゃないかと思う。その中で、優しさとか、自制心とかを学んで行く。BLみたいな少し幼稚な関係性の中で、私も、先輩も、どんな関係性が自分に合っているのか、自分は何を求めているのかを学べたんだと思う。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?