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芝居が大好き、芝居で生計が立てられればよいと理想は高いが現実は無理無理。でも、とにかく…

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芝居が大好き、芝居で生計が立てられればよいと理想は高いが現実は無理無理。でも、とにかく演じたいので、劇団やってます。脚本、小説、俳句、短歌、エッセイ、なんでも書きたいバァサンです。 仕事をしつつ、芝居をしつつ、一日一日が有意義に楽しく過ぎていけば最高です!

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月にむらくも 花にかぜ 前日譚 vol3

次の揺れはいきなり来た! あまりの激しさに立っていられない。よっちゃんと私はその場にしゃがみ込んだ。 逃げなきゃ! 分かっているが身体が岩になっている。 「何やってんだ!来い!」 誰かが二人の手を引いてくれた。 転がるように私らは外へ出た。 手を引いてくれたのは同じクラスの斉藤君だった。 痛いほど手を引かれ、私たちは外へ出た。 外の光は眩しく、それが私にはひどく嬉しかった。 良かった!外だ! 地震の怖さが薄らいでいくのがわかる。 もう揺れは来ないだろうと根拠のない自信も湧いて

    • 限界は越えて行こう!

       「さぁ、今日も行くか!」と 気合いを入れる。 週4回の仕事と週4回の芝居の稽古。 仕事は楽しい。 大好きな芝居の練習は言うまでもなく楽しい。 充実していると心から思う。 思うが、それはさておきである。 自分の歳を失念している。 体が悲鳴をあげるのだ。 不甲斐ない。 これが現実。 精神的で、体力を凌駕できないのだ。 いやいや、50代まではかなり凌駕 できていた。 60代になり、「?」 高齢者になり、「!」 認めるしかない。 私は年寄りだ。 若ぶっているがどうしようもなく

      • 月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日vol.7

         朝が来た。今日も空は暗い雲に覆われている。 大地震の日から空は晴れることがない。ずっともやがかかっていて遠くが見通せない。 ぐちゃぐちゃな世界は見たくないから、むしろ好都合だ。 ママたちにはいつ会えるのだろうか? 空と同じ暗い気持ちでもやもやが増えていく。 泣きたいけど涙はもう出てこない。 膝を抱えてうずくまり、ぼんやりとオレンジ色のバンドを見ていた。 「Uブロックか!」 深いため息をついていると、上気した顔の斉藤が、息せき切って転がり込んできた。 「すごいこと聞

        • 靴 [詩]

          玄関に二足の靴がある きちんと並べられていたり とっちらかったり 晴れの日は少し楽しそうに 雨の日は少し悲しそうに 玄関に二足の靴はある ある日その傍に小さな靴が加わる 手のひらに乗りそうな靴 玄関に三足の靴がある 寄り添ったり 重なりあったり 離れたり 小さな靴はだんだん大きくなる どんどん大きくなり どんどんどん大きくなり 小さかった靴は玄関を去る でもある日 玄関に溢れるほどの靴 ひしめきあって 押し合って 玄関には古びた二足の靴 それを囲む様

        • 固定された記事

        月にむらくも 花にかぜ 前日譚 vol3

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日 vol.6

           ワクチン接種から2日後、私たちにはバンドが配られた。薄オレンジ色のそれは表面がピコピコと光っている。柔らかくしなやかな素材で、それぞれの腕に吸い付くようになじんでいる。 よく見るとUと印字してある。 U? 「これはなんだろう?避難所の番号なのかな?」 よっちゃんが怪訝そうに言う。 ワクチン接種をした全員がこのバンドを付けねばならなかった。 老いも若きも。 「なんだよ。こんなんつけたかねーよ!」 斉藤は嫌がって切ろうしたが、簡単にハサミでは切れなかった。 「止めなよ!怒られる

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日 vol.6

          だましだましさ?熟年夫婦!

           今日もよっこらせと階段を登る。 昨夜録画したドラマを観るためだ。韓流ドラマの続きも気になる。 我が家の2階には1階と全く同じTVとブルーレイのセットが置いてある。 ちなみに我が家は旦那さんと2人家族。 なんともったいない事をと、おしかりの方々と、なるほどなとうなづいていただける方々がいらっしゃることと思う。 今うなづいてくださったあなた! そう! その通り! これはリタイア夫婦円満の秘密兵器?なのだ。  3年前、旦那さんは長い社会人生活に終止符を打った。 結婚して40年以

          だましだましさ?熟年夫婦!

          月にむらくも花にかぜ 前日譚vol.5

          誰?何度も何度もベルを鳴らされさすがに私も頭にきた。 「いい加減にしてください。」 勢いよくドアを開けたら斉藤がいた。 「良かった。ユリいたんだ。」 「なんか用なの?」 「ユリ帰っちゃったから。あの後、学校が避難所指定になっているから帰らないようにと言われたんだ。それを知らせたくて。行こう!学校に!」 「行かないよ。家族が帰ってくるじゃん。私はここにいなきゃ。」 「いつ家族が帰れるか分かかるもんか。電車もバスも止まってるから学校で待つ方がいい!また揺れが来たらここは危険だ。」

          月にむらくも花にかぜ 前日譚vol.5

          死闘!ピロリ菌よさらば!

           「この腹の肉がなぁ。」歳のせいでもあるが、高齢者になると腹の肉はなかなか落ちない。 実はこの腹の肉はピロリ菌との死闘を勝利した名誉の証なのだ。 7年前、かなり前から私は常に胃の調子が優れなかった。 もたれる。とにかくもたれる。 昼食を食べたら、たとえそれがうどんであろうと夕食までもたれている。痛みもある。 流石にこれはまずいだろうと、胃カメラを飲む覚悟を決めた。 今は眠ったまま胃カメラが出来るそうじゃないか。 なんと医学は進歩したもんだ。 むかーし胃カメラを飲んだ時は吐き気

          死闘!ピロリ菌よさらば!

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日 vol.4

           咄嗟に両手で顔をおおった。 心の準備ができていない。 もし、家が潰れていたら? 潰れることはなくても窓ガラスが割れてるとか、何かしらの被害はあるかもしれない。 ついさっき車の事故を見たばかりだ。覚悟を決めなければ。 大丈夫だ。ママとパパは仕事でいない。弟は保育園だ。 最悪な事態にはならない。 良かった。 みんなが留守であることに感謝だ。 でも大切にしている推しのアクスタは壊れているかもしれないが、大したことでは無い。 おおった指の隙間からおずおずと家を見た。 潰れたりしてな

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日 vol.4

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日vol.2

           この音は怖い。髪の毛の一本一本まで沁み渡る怖さだ。 足が動かない。Jアラートは鳴り続ける。 どうしよう! どうしよう! 教室に帰らなきゃ! よっちゃんが待ってる! 先生が待ってる! みんなが待ってる! 行かなくちゃ! 動け足!動け!動け! 「ユリちゃんこっち」 よっちゃんが私の手をグッと引いてくれた。 すると、 床に張り付いていた私の足はふわりと嘘のように軽く動いた。 よっちゃんに促されて近くの教室の机の下に二人でもぐった。 数秒の時間が長く長く感じる。 「先生が言ってたよ

          月にむらくも花にかぜ 前日譚 あの日vol.2

          月にむらくも花にかぜ前日譚 あの日

          今朝は朝からよく晴れていた。 少し寝坊した私は歯磨きも早々にランドセルを背負った。 玄関のドアを開けようとするとママの声が追いかけてきた。「ヨーグルトだけでも食べていきなさい!」 だから、そんな暇はないんだってと言う代わりに乱暴にドアを閉めた。 「ごめん、寝坊しちゃったよ!」 約束していたよっちゃんに心の中で詫びた。今日の算数のテストの勉強を授業の前に一緒にやろうと約束していたのに。きっとよっちゃんは私を待っているはず。そう思うと足は知らず知らず小走りになっていた。  急ぎす

          月にむらくも花にかぜ前日譚 あの日