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頭足類文学

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読まないと後悔することになるでしょう。
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#少しSaltyで甘めな胸キュンTune

オニドリル

オニドリル

骨壺を抱きガソリンスタンドへ往く未亡人
中にはポケモンパン
清き線路に置き石をして天低し
ささやかだけどウェルビーイング
ズボンプレッサーでベーコン焼いて
庭の小屋であなた遠い目
献血で貰ったマグカップで殴る
小綺麗な小太りの小男の小走り
電車は二度と来ないのに
いろんな花を見ていた
どれもみんなキレイだね
ポケットにスライスチーズが入ってた
あのクリーニング屋のババア俺に惚れてる
税金はいくら払

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耳を盗まれる

耳を盗まれる

 朝目覚めると、右耳が盗まれていた。
 ベランダの掃き出し窓を開けたまま寝てしまったようで、そこから侵入されたのだろう。部屋の中に荒らされた形跡はなく、右耳だけが綺麗に盗まれていた。窓から流入してきたモノラルの初夏の風の音が右脳に抜けていく。何はともあれ盗まれたのだから、先ずは被害届を出すことにした。
 「それで」
 「はい」
 「なぜ盗まれた、とお思いですか」
 「いや、普通に、盗まれたからです

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イカ墨スパゲティを啜る女

イカ墨スパゲティを啜る女

 静謐の鱗粉が店内に満ちている。その粒子を鼻からふんだんに吸い込んでみると、安息感と倦怠感で肺臓がめのうのようになった。静謐なんて店からしたら決して有り難くないのだろうが、瘴気みたいな粒子が客の来店を阻んでいるようにも感じる。思いがけず魔法びんと化している店内に、午の陽がぬるぬると流入してきている。窓際の席には、女が座っていた。あまりの存在感のなさに入店してから今の今まで気づかなかった。テーブルの

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純喫茶 盗掘

純喫茶 盗掘

 クリームソーダの中に小さな人魚が泳いでいる。
 人魚は炭酸に翻弄されてへらへらとたゆたいながら、下半身の鮮やかな紅色の鱗を煌めかせている。上半身は人間の女性のそれとまるで同じだ。巻貝の内側のような質感のふくよかな体を揺らしている。なぜが口が縫い付けられているのが痛々しい。
 「さあさ、クリームと一緒に掬い上げてみなさい」
 店主は、桃色と橙色の間の光を放つ宝石を埋め込んだ右眼と生牡蠣のような左眼

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明朗の胎動

明朗の胎動

 こんな私なのに、プロポーズをしてくれて、本当にありがとう。
 こんな夢のような夜景の中で豪華すぎるくらい素敵な食事、今まで味わったことがないよ。それに、吸い込まれそうにすきとおる爛々とした指輪。そしてなにより、想いのたくさん詰まった言葉で告白してくれて、涙が止まらないよ。本当にありがとう。ごめん、本当に止まらないや。
 あなたがたくさん想いを伝えてくれたから、私からも告白したいことがあるの。びっ

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春霖を祈る

春霖を祈る

牧師を殴った感触は忘れない。
スウェーデン人から買ったタランチュラを、
咳止めシロップと一緒に飲み込んだ。
まったりした血。
まったりした血だね。
君は「なんて恥ずかしい」と歌うだろうか。
フライドチキンに催眠術をかける、
鋼でできた少年。
まったりした血。
まったりした血だね。
毎朝、散弾銃のマウスウォッシュが、
トムソンガゼルの群れを月に向かわせる。
私は製氷機だ。
まったりした血。
まったり

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イワシ

イワシ

イワシの巨群が目抜き通りを往く。
巨群は15階建てのビルと同じくらいの高さで、竜巻のように渦を巻きながら、割れた鏡のように光を乱反射させている。
ゆっくりと往きながら、通りのあらゆるものを呑み込んでいく。イワシの鳴き声なのか、それともイワシ同士が擦れ合う音なのか、ギャインギャインギャインギャインギャインギャインギャインギャインと奇怪な音を立てながら、猛烈な生臭さを撒き散らしている。
そして、光のせ

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健全なるパン、健全なるサーカス。

健全なるパン、健全なるサーカス。

「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」
という言葉がある。
ゆーてどうせ世を忍ぶ仮の姿だもんなあ、
なんてイクスキューズで肉体の管理を放擲、牛飲馬食の限りを尽くした結果。
以前はいわゆる細マッチョ、つうんですか昨今の若人は?みたいなエモい体型で、モテモテだったにも関わらず、
今や腹踊りに適した、見るものをして白痴ではなかろうかと思わしむるほど極めてファニーな体型に成り下がってしまっていた。
これはこ

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シロイルカ

シロイルカ

もうすっかり夏。
シロイルカの背中をペンペンしたい。
シロイルカには、マーラと名づけよう。本当はクルルって名前なんだけどね。
そう思い立ち、海水に入るためのパンツ、いわゆる海水パンツを着用して、玄関から躍り出た。
全て右足だけを駆使して階段をくだることに成功したので、これであの子の胸を揉むことができる権利を得たわけだったのだけど。
家の前には、警察署がある。門の前の長い棒を持った警官然とした警官が

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