見出し画像

別れ日記③

ベランダは、真夏なだけあって涼しかった。私は彼女を追ってベランダへ行った。さっきまで号泣していたはずの彼女は、驚くほど冷たい目をして遠くを見つめていた。タバコの煙が臭い。「あ、実はここから東京タワーが見えるんですよ〜。」私は部屋に入った時に気づいたが、知らないふりをした。彼女はベランダを走り出した。「こっちにきてください!はやく!」私も彼女を追って走る。「ほら!あそこ!」窓越しでみる東京タワーより、赤赤と輝いている。「ほんとだ。この部屋からだと小さく見えますね。」何も言わずに彼女はタバコを吸っている。しばらく私は黙って東京タワーを見つめた。さっきの話をぶり返すべきだろうか。いや、黙って様子をみるか。何か話したほうがいいかな。東京タワーの話、、、ない。

彼女は私をよけて部屋に戻った。私も彼女の後を追う。彼女はまたグラスに酒を注いでいた。私はもといた椅子に座り直した。「次は何聞きたいですか?次はあなたが聞きたい曲でいいですよ〜。」疲れたのかな。少し元気がなくなった彼女を伺いながら、曲を考える。彼女が好きな曲を流そう。竹内まりやで、、。「じゃあ、プラスチック・ラブでお願いします。」「OK〜。」彼女のネイティブの英語をたまに聞くのが好きだった。プラスチック・ラブ。本物ではない。合成物の愛。人間が作り出した、自然ではないもの。彼女は曲が流れ出すと、少しずつ音に合わせて歌い出す。徐々に声が大きくなる。「I'm just playing games. I know that's plastic love.」彼女は歌は上手くなかったが、一生懸命歌う人だった。

「なんか、外明るくなってませんか?」もう夜が明けようとしていた。「うそ!そんなに話してたんですね!うわー!ちょっと寝ますか?」私はもう少し話したいと思ってた。彼女ともっとじっくり。「そうですね。ちょっと休みましょう。」「ちょっと待っててください!寝巻き持ってきますね!」彼女は、赤と黄色のド派手なシャツとパンツを用意してくれた。「これ、勝手に着ちゃってください!寝室はここね!じゃ、Good night~!!」彼女は急に姿を消した。かなり疲れてたのかもな。忘れてたけど、これってバイトの後だし。私は彼女に言われた寝室に入った。真っ白なダブルベットに、シックな木のテーブル。これはご両親の寝室だろうか。こんなところで、私が休んでいいものか。。迷いながら充電器をさし、ベッドに腰掛けると、私は死んだように眠った。

ガチャッ。この音で目が覚めた。彼女が出ていったのだろうか。ベッドから起き上がると、慎重に扉の方まで出ていった。何かがさごそ音がする。「ねえ〜〇〇いるの〜??」第三者の声だ。彼女を探している様子だ。どうしよう。声的に若い。お姉さんだろうか。部屋の中で私はじっとすることにした。玄関に靴を置いているから、その人も彼女以外に人がいることはわかっているだろう。彼女に声をかけたい。「うるさいよ〜。お姉ちゃん〜。」彼女が起きたようだ。何か話している。私はどうしようか。すると、誰かが私の部屋に近づいてくることがわかった。私はベッドまで戻り、今起きた風を装った。「おはようございます!お姉ちゃんが帰ってきちゃいました!もう起きてたら、出てきてください!」「わかりました。」私は人見知りだ。こんな寝起きで、人様の家で、早速何回か会ったことがあるだけの人のお姉さんに挨拶することになるとは。少しでも愛想良くしようと、にこにこ明る声で挨拶をした。「おはようございます!!お邪魔させていただいてます!!」お姉さんは、眉毛がなかった。少しきまづそうな笑みを浮かべて、軽く会釈すると、部屋の奥に入っていった。私、あんまり快く思われてないかもしれない。無理もないか。勝手に部屋に入って寝室まで借りて、昼まで寝てるんだもんな。もう昼の12時だった。「お腹空いてませんか?近くにおいっしいパン屋があるので、一緒に買いに行きましょう!」彼女は洗面所に私を案内した。「顔洗って準備できたら、すぐ行きましょう!」

「あなたのその服、お姉ちゃんのなんですよ!あはははは!」嘘だろ。先に言ってくれ。「だからあんな怪訝な顔してだんですか!うそー、謝りたいです。。」「いいですよ!あの人そんなこと気にしないんで!」私は気にするが。二人でパンを調達して部屋に戻ると、そこにはもうお姉さんはいなかった。「お姉ちゃんは最近ここから引越したんで、荷物取りに来ただけなんですよ!いやでも今日来るとは思ってなかったですね!あははは!」彼女はご機嫌だった。「お姉ちゃんとは今度ゆっくり三人で会いましょう!ずっと会わせたかったのにこんな形になるとは!!」「今度はちゃんと謝罪します。」「あははははは!!」彼女の笑い方は、あはははは!と強く、のびのびしている。その笑い声を聞いていると元気になるな。パンは私が日頃食べるお惣菜パンとは違い、ハード系で、オリーブやピスタチオが入ったオシャレなものだった。彼女が大好きだと言うこれらのパンだったが、私は家の近所のしらすパンの方がすきだと感じた。

パンを彼女はすぐに平らげた。私は残って味わっていると、彼女は消えた。私はゆっくりパンを食べながら、これから帰るのか、彼女とまた出かけるのかどっちなのか考えていた。できれば彼女と1日出かけたいけど、向こうはせっかくのオフだし会いたい人がいるかもな。様子を伺うか。ドタドタと足音が聞こえる。「一緒にお風呂入りませんか!!」彼女はニッコニコの笑顔で目を輝かせながら戻ってきた。


ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?