森葉

大学生。

森葉

大学生。

最近の記事

別れ日記 11 。

風が止んだ。夏の夜。あたりは静まりかえっていて、生き物の気配はない。時間が止まっているかのようだ。私たちの笑い声も闇に飲まれていく。ふと、私たちは沈黙した。夜の空気に圧倒されていく。山奥で空一面に輝く星をみたかのように。海の中で太陽の光のはしごをみたかのように。ベランダは無風なのに心地良い。彼女と私は、しばらくベランダで夜を味わった。 「そろそろ寝ますか。」私はこの雰囲気を壊したくないと思いつつ、彼女から壊されるのも嫌で、自分から切り出した。「そうですね!もう眠くてたまらな

    • 別れ日記⑩。

      彼女は勢いに任せて感情を吐露したかと思えば、突然沈黙した。目から涙がゆっくりと溢れる。綺麗だと感じた。しかし私は、彼女の告白を再度認識するように努めた。彼女の「どうでもいい」という言葉に対して感じた私の怒りはもうそのときには消えていた。それよりも私の頭は、彼女が珍しく打ち明けてくれた心情を整理することに忙しかった。彼女ほどの学歴を持ってして、一般企業に就職しなかったことは、私もずっと疑問に感じていたことだった。それは、彼女がお金やキャリアに縛られて生きることに拒否感を感じたと

      • 別れ日記⑨。

        静まり返った高円寺の街中。夏とは思えないほど涼しい夜。車も、人も、あたりには何もない。電柱の灯りも濁っていて、月明かりの方がよっぽど私たちを照らした。ショートヘアの彼女の毛先が頬をくすぐる。私は動けなくなって立ちすくんでいた。目だけを泳がせて月を見つめる。満月の日の月光の威力はまるで、舞台の上の俳優を照らす照明のよう。私は今、舞台上で女優にキスされているかのように感じた。 少しの間がたっただろうか、彼女は私の耳元から顔を離したかと思うと、すぐに私の顔を両手で包み込んだ。「親

        • 別れ日記⑧

          渋谷の薄暗い路地を通り抜けると、突然地下に繋がる階段が現れた。彼女に連れられてその階段を降りていくと、金色の扉が現れる。扉の前にはニット帽を深く被った男が立っており、私たちを中へと引き入れた。 大きな音。店内は音に合わせて色が転々と変わる。地下の小さなクラブには、人がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、熱気がすごかった。私は彼女を見失わないように必死でついていく。彼女はカウンターにつくと、馴染みの友人にお酒を注文し、私に渡した。「どうぞ!!!お口に合うかわかりませんが、飲んでく

        別れ日記 11 。

          雪の日は6歳の私と。

          スプーンからこぼれ落ちたかき氷みたい。 私は窓の外を見て唖然とした。東京に雪が降っている。 | | | 「あぁーーーーーーーん」私は小さな氷の粒を口の中に迎え入れる。「つっめたぁーーい!!」私は兄の方を見てにんまり笑った。「お兄ちゃん!つめたいよ!でもなんか、あんまり味しないや。」友人の家からの帰り道、雪が降り始めた。「明日積もるかなぁ」「積もったら学校休みかな」「朝イチで起きて雪だるまつくろ!!」小学校のころの私は、よく兄と朝早く起きて何かしようと約束した。たいていいつ

          雪の日は6歳の私と。

          別れ日記⑦

          「お疲れ様ですー。」バイト先の彼女はまるで一緒に自転車で走り回った日を忘れているかのようだった。あの頃の私はまだ今ほど大人になれていなかった。だから、彼女のそっけない挨拶が気味悪かった。なんだか、忘れられているみたいだ。彼女にデートのことを聞こうとしていたが、バツが悪くてやめた。プライベートで仲良くなるのとは裏腹に、バイト先での彼女はどんどんそっけなくなっていった。バイト中、以前までは私にべったりだった彼女は、徐々に他のスタッフと仲良くなっていく。私が一人で作業をしていると、

          別れ日記⑦

          別れ日記⑥。

          河川敷を二人で並走する。時をかける少女のラストシーンを想像しながら、私は彼女の後ろを追いかける。もし私たちが二人乗りだったら、まんま時をかける少女だな。あれ。そういえば、あのラストシーンって千秋は真琴に告白したんだっけ。でも真琴は泣いていたような。高校時代に戻った気がしていたが、高校で初めて見た映画の記憶は失くなっていた。時をかける少女、初めて見た時は衝撃だったな。でも大事なシーンを忘れているなんて。河川敷で二人乗りをしている千秋と真琴の絵だけが私の脳裏に焼き付いていた。

          別れ日記⑥。

          別れ日記⑤。

          One Night Stand。一夜限りの関係、、か。私はまた鎧を被った。「一夜限りの関係なんて、何が楽しいんでしょうね。むなしいだけじゃないですか。」私はイライラしていた。聞いたことのない洋楽が流れている。彼女は次に流す音楽を選曲していた。「私は何度も経験ありますよ!人と付き合うとか面倒くさいじゃないですか!何年も同じ人と付き合ってる人なんて信じられないですよっ!」「何が楽しいんですか?そんなの、都合のいい女性じゃないですか。」私はイライラしていた。彼女は選曲する手を止め、

          別れ日記⑤。

          現実逃避とファンタジー

          私は現在、就職活動に明け暮れている。すると、なぜだろうか。ここのところジブリや漫画を見る機会が以前にも増して増えている。今回は、そうした、「現実が苦しい時、なぜ漫画やアニメを見てしまうのか。」現象について考えてみたい。 私は、大学に入学してからというもの、漫画やアニメとは縁の遠い生活をしていた。それよりも、学術書を読んだり、新聞を読んだり、NPO活動に参加したり、人に会ったりと、それなりに有意義な生活をしていた。もちろん、漫画やアニメが有意義ではないというつもりはさらさらな

          現実逃避とファンタジー

          別れ日記。④

          「一緒にお風呂入りませんか。」脳内で同じ言葉を繰り返す。どうしよう。嫌だ。これが私の率直な感想だった。しかし私は反動で「いいですよ。」と答えていた。「ほんとうですか!私準備してきますね!うちのお風呂広めなので安心してください!!」彼女は目を輝かせながらお風呂場へ戻っていった。 ああ。なぜ「いいですよ。」なんて言ってしまったのか。実は私にはお風呂関連で嫌な記憶があった。それは、高校時代に、お風呂場で盗撮の被害にあったのだ。夏の合宿で部活動全員で宿に泊まったとき、私のお風呂場の

          別れ日記。④

          別れ日記③

          ベランダは、真夏なだけあって涼しかった。私は彼女を追ってベランダへ行った。さっきまで号泣していたはずの彼女は、驚くほど冷たい目をして遠くを見つめていた。タバコの煙が臭い。「あ、実はここから東京タワーが見えるんですよ〜。」私は部屋に入った時に気づいたが、知らないふりをした。彼女はベランダを走り出した。「こっちにきてください!はやく!」私も彼女を追って走る。「ほら!あそこ!」窓越しでみる東京タワーより、赤赤と輝いている。「ほんとだ。この部屋からだと小さく見えますね。」何も言わずに

          別れ日記③

          どんな「大人」になっていたい?

          今日は、私が10年後にどんな「大人」になっていたいかを書いてみたいと思う。なんとも気恥ずかしい試みだが、私はこれでもまだ21歳で、意外と夢と希望を胸に抱いている人間だ。今日、偶然見かけた記事で、10年後、あなたはどんな大人になっていたいかという質問をみた。面白い。ぜひとも考えてみたいと思ったので、思ったことを書いてみたい。 結論から言うと、私は「10年後”も”当事者意識を持って生きていたい。」というのが答えである。当事者意識というのは、この世で起きているあらゆる出来事にもっ

          どんな「大人」になっていたい?

          ジブリを振り返る。

          今日はジブリについて語りたい。私は、地球に生まれてきてよかった理由は何かと問われれば、まず間違いなく「ジブリに出会えたから。」だと答える。おそらく、そんなちっぽけなことが理由なのかと驚く人もいるかもしれない。しかし、私からすると、莫大な富を築くことも、誰もが振り返る美を得ることもちっぽけである。私にとっては、ジブリによって私の心の中に形作られた「優しさ」が何よりも尊く、愛おしいと思う。人の価値観とはまことに多様であり、興味深いもんです。 さて、今回私は、ジブリを振り返ってみ

          ジブリを振り返る。

          2024年を見つめる。

          私はあまり、年初めに目標を決めるタイプではない。というのも、人の気は移りゆくもので、決めた目標というのも環境によって変化していくものだと考えるからだ。例えば、高校三年時に決めた目標は、大学に入って荒波に揉まれると180°変化するだろう。前よりさらに大きな目標を持つようになる者もいれば、現実を知って自分なりの目標を設定し直す人もいる。人と沢山会って、色々な人の変化を見てきたからこそ、目標なんて決めるもんじゃないと思っていた。しかし、なんだろう。今年は何か目標を決めてみたい気がす

          2024年を見つめる。

          別れ日記②。

          彼女とは、アルバイトの時間中は隙間を見つけて笑い合った。彼女は冗談ばかり言っている陽気な人で、私はいつも笑わされていた。彼女に会いたいがために、授業よりもバイトを優先させた。おかげで毎月潤っていた。そのお金で、バイトの後は彼女とよく飲みにいった。 彼女は二人で飲みに行くことを他のバイト先の人に見られることを快く思っていないのか、飲みに行く時はお店集合だった。2回目に飲みにいった時、バイトが終わってから渋谷で飲むことになった。お店は彼女の行きつけの居酒屋。渋谷で飲むこと自体初

          別れ日記②。

          別れ日記。

          人生において、別れはつきものだと感じる今日この頃。ふと、今までの別れを思い出して日記をつけてみたいと感じた。記念すべき第一弾は、自身の人生で最大の別れについて書きたい。それは昨年の夏の出来事だった。 彼女との出会いは、バイト先だった。今でも初めて彼女を見た日のことを覚えている。私は先輩に連れられて、職場のテーブルに案内された。その時に目の前に座っていたのが彼女だった。コロナ禍だったこともあり、彼女はマスクをしていた。なのに彼女の大きくて、鋭い目は強烈で、私の心の内まで見透か

          別れ日記。