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夜のバスケットボール

ボールがどむどむと弾むと、床が震えて体に響いた。ライブで聞くバスドラムの音に似ていた。
ボールがゴールに入るときの、ぱっ、という軽い音が心地よかった。

夫は真っ白なバスケットシューズを履いていた。かかとに金色のラインが入っていて、動くたびに天井の照明を反射してぴかぴか光った。

土曜日の夜7時、二人で体育館にいた。夫は趣味で週に二回、バスケットボールの練習をしている。一緒にやる?と誘われてついてきたのだった。

女子は6番のボールを使うといいよ、小さいから。そう言われてバスケットボールに触ったのは、高校以来だろうか。大きくて重くて、ドリブルをするだけで腕に衝撃が伝わった。すぐに腕が疲れそうだと思った。
私は運動が不得手だが、バスケットボールは好きだった。正確に言うと、試合やパス練習やドリブルではなく、ゴール下でシュート練習をするのだけが好きだった。無心になれる感覚と、ゲーム性がよかった。下手でも人に迷惑をかけないところも。
だから今日来られることは楽しみにしていた。

ゴール下に描かれた白い半円の前に立って、ボールを投げた。
びっくりするくらい入らなかった。高校の体育でやったときはもう少し上手かった気がする。入るのは10本に1,2本といったところだった。夫はゴール下なら百発百中で入った。運動センスと筋肉と、なにより練習量の違いだろう。

しばらく夫と一緒にシュート練習をして遊んだが、20分もすると私はバテてしまった。猛暑日の夜、体育館は30℃を超えていた。風の入る窓際にぺたりと座って、夫が練習するのを眺めた。

2年前からバスケをしている夫の動きは様になっていた。スリーポイントシュートも入るし、ドリブルをしながらコートを駆け抜けてシュートを決める様子はスラムダンクみたいだった。
スラムダンクといえば、スリーポイントの立ち位置に私も立ってみたのだが、冗談のようにゴールが遠くて笑ってしまった。私が力いっぱいボールを投げても、ゴールにかすりもしなかった。三井さんすごすぎるぜ、と思った。

夫の練習を30分くらい眺めて、帰ることになった。とにかく暑かったので、涼しい自宅のリビングが恋しかった。帰ったら、来る前に作った茄子とパプリカのカレーを食べるのだ。
どうせついていけないけど、また一緒にバスケをしにこよう。今度は頼まれていたパス練習に付き合おう。楽しみなお出かけ先が、ひとつ増えた。

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