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澪標 [完結]

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「ピアノを拭く人」の番外編です。彩子の同期 鈴木澪が主人公で、コロナ禍の恋愛も描いています。
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#新型コロナウイルス対策

澪標(みおつくし)   プロローグ

澪標(みおつくし)   プロローグ

 スクリーン越しに、同期の彩子と透さんの笑顔がはじける。彩子は白無垢から純白のウエディングドレス、透さんは紋付羽織袴からタキシードにお色直しして画面に現れた。長身の2人には、和装も洋装も映える。

 透さんの右腕と左腕には、白豆柴犬の胡桃と、茶白猫の柚子が、安心しきった眼差しでそれぞれ収まっている。彩子が2匹の頭を撫でながら、注意を画面に向けようとする。子供を持たないと決めた2人が、保護団体から迎

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澪標 14

澪標 14

 ニュース番組で、都内の今日の新型コロナウイルス感染者数が報じられていた。感染者、重症者、死者の数は毎日報道され、感染者の延べ人数は日々増加していった。

 ダイヤモンド・プリンセス号内で発生した新型コロナウイルスの集団感染が報じられた頃は、自分たちとは遠い場所で起こっている出来事だった。だが、国内の感染者数が増え、濃厚接触者、手洗い、マスク、三密、ソーシャル・ディスタンスなどの言葉が、連日メディ

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澪標 15

澪標 15

 スクリーンの向こうのあなたは、無防備に疲れをさらしていた。目の下の隈が痛々しく、無精ひげが目立ち、身なりを整える余裕を欠いていることが伺えた。朝のミーティングでは、辛うじて身なりを整えていたことを思うと、日中にいろいろあったことが読み取れた。

「妻がますます悪くなっているんです。コロナ感染への不安だけではなく、僕が自分を捨てるんじゃないか、両親が死んでしまうのではないか、息子がコロナにかかるの

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澪標 16

澪標 16

 彩子がZoomで話したいと連絡してきたのは、木々が色づいた晩秋だった。 

「すーちゃん、久しぶり!」

 画面の向こうの彩子は、しばらく会わないうちに、かなり髪が伸び、ますます綺麗になっていた。

「久しぶりだね、彩子! 元気だった?」

「元気、元気。本社はずっとテレワークなんだよね?」

「そう。通勤しなくなってから、太らないように、週2-3回はウォーキングしてるよ。ところで、話したいこと

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澪標 エピローグ

澪標 エピローグ

 Zoom画面の向こうで、少々お疲れ気味の彩子が手を振っている。背景に映るアンティークな掛け時計は、ただ同然で購入したという古民家の部屋に気持ちよく調和している。

「すーちゃん、今日は本当にありがとうね」

「こちらこそ、2人らしい素敵な結婚式に参列させてくれてありがとう。幸せパワーをたくさん分けてもらったよ。いま、透さんは?」

「店で明日の仕込みを手伝ってる。また、ゆっくり紹介するね。コロナ

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