ピアノを拭く人 第4章 (8)
気温は低いが風はなく、陽が注ぎ、寒凪という言葉が似つかわしい日だった。彩子は、フェルセンで透を乗せるために、駐車場に車を入れた。診察室でお腹が鳴らないよう、おにぎりをぱくつきながら運転してきたので、いつもより心に余裕が生まれていた。
昨夜、何を着るかと散々悩んだ。フェミニンを強調する服装では、華のある赤城の前では見劣りしそうだった。考えた末、明るい紺色のパンツスーツに、白いボウタイブラウスを合わせることにした。靴は、綺麗だと言われる脚が強調でき、かつ歩きやすい5センチヒ