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エッセイ・評論など

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音楽、その他の芸術や社会問題についての評論やエッセイなど。力を入れて書いたものから、気軽に一気に書いたものまで。とりとめのない雑感も。
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#シューベルト

シューベルトの実存に肉薄する──プレガルディエンとゲースのシューベルト・アーベント

シューベルトの実存に肉薄する──プレガルディエンとゲースのシューベルト・アーベント

 テノールのクリストフ・プレガルディエンとピアノのミヒャエル・ゲースによるリサイタルを聴いた(五月二十二日、トッパンホール)。曲目はすべてシューベルトで、「別れ そして 旅立ち」というテーマのもと、前半と後半それぞれ十二曲ずつ、《冬の旅》と同じ曲数の二十四曲が、独自の選曲と配列でひとつの歌曲集のように集められた。彼らは過去にまったく同じプログラムを録音しており、私は聴いていないが十年前の同じトッパ

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〈世界〉に拒絶された者が、世界に救われるまで──プレガルディエンとゲースのシューベルト《水車屋の美しき娘》

〈世界〉に拒絶された者が、世界に救われるまで──プレガルディエンとゲースのシューベルト《水車屋の美しき娘》

 少々時間が経ってしまったが、10月の初めにトッパンホールで開かれた、テノールのクリストフ・プレガルディエンとピアノのミヒャエル・ゲースによる、「シューベルト3大歌曲チクルス」の第2夜《水車屋の美しき娘》を聴いた(10月3日)。このデュオの実演を聴くのは4年ぶりである。プレガルディエンは多くの曲を長2度下げて歌っており、前回よりさらにバリトンに近づいたことを感じさせたが、テクストを深く読み込み、音

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「自分の物語」はどこに?――砂田直規と木村徹のシューベルト『冬の旅』

「自分の物語」はどこに?――砂田直規と木村徹のシューベルト『冬の旅』

 人間は、世界や自分の人生を、物語の形式で理解している。自分の人生を、誕生から今日に至るまで記述すれば、それは必然的に物語の形式を採ることになる。
 しかし、それは本当に「自分の物語」なのだろうか? 私の好きな映画監督はクリストファー・ノーランなのだが、彼の映画『メメント』と『インセプション』は、規模は異なるが、どちらもその物語への懐疑を描いている。「自分の物語」は、他者や周囲の影響によって変質し

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