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エッセイ・評論など

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音楽、その他の芸術や社会問題についての評論やエッセイなど。力を入れて書いたものから、気軽に一気に書いたものまで。とりとめのない雑感も。
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2019年12月の記事一覧

自画像

このエッセイは、2016年にSNSに書いたものを一部加筆修正したものです。

 画家は、なぜ自画像を描くのだろうか。
 上野の東京都美術館で開催された「ゴッホとゴーギャン展」で、それぞれの自画像を観ていて、ふとそう思った(2016年)。それぞれに孤独を湛え、自分の美しさも醜さも、包み隠さず描いているように感じられた。ふつう、自分の顔はあまりまじまじと見つめたくない。それを自分自身の手で描くというの

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未来を拓く音――寺内詩織のバッハ

未来を拓く音――寺内詩織のバッハ

 ロビーの中央に、誰でもない裸の男が立ち尽くしている。エレベーターホールを挟むかたちで、反対側のロビーにも、直線上に逆を向いた同じ男が立ち尽くしている。そこで、彼だけが時間を止めてしまったかのように。
 多くの人は、彼の存在をほとんど気にも留めずに、あるいは一瞥をくれるだけで通り過ぎてゆく。中には立ち止まって彼を眺める人もいるが、ものの数秒である。気にはしているが、避けたという人もいるかもしれない

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破壊のあとに残った美――アファナシエフのリサイタル

破壊のあとに残った美――アファナシエフのリサイタル

 ヴァレリー・アファナシエフの演奏は、好むと好まざるとに関わらず、聴き手のなかに大きな問いとなって残る。11月25日のリサイタル(紀尾井ホール)を聴いた。
 最初のハイドンのソナタ第20番ハ短調が弾き出された瞬間から、悲しみを歌うためだけに存在しているかのような音に引き込まれた。ペダリングやテンポ感をはじめ、一般に想像される古典的な演奏とはやはり全く違うが、音に透明で冷たい艶を纏わせ、ハイドンの音

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