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耳を澄ます言葉

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2021年下半期に東京国際芸術協会会報に連載していたエッセイ・評論「耳を澄ます言葉」
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#音楽レビュー

内なる多声の燦めき──寿明義和のラフマニノフ(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第6回)

内なる多声の燦めき──寿明義和のラフマニノフ(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第6回)

 この晩秋、長らく望んでいた、恩師である寿明義和先生の弾くラフマニノフを聴くことが叶った(11月25日、すみだトリフォニー小ホール)。演奏曲は、「ひそやかな夜のしじまのなかで」作品4-3(アール・ワイルド編曲)、ピアノ・ソナタ第2番、前奏曲作品23-4、5の4作品。
 全作品を通じて、ラフマニノフの錯綜したテクスチュアの中から、いくつもの歌が鮮やかに浮かび上がってくる様に驚いた。その歌たちが、暗い

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見えない檻──アレックス・オリエ演出、大野和士指揮のビゼー《カルメン》(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第5回)

見えない檻──アレックス・オリエ演出、大野和士指揮のビゼー《カルメン》(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第5回)

 昨年オンラインで視聴した、アレックス・オリエ演出、大野和士指揮によるプッチーニのオペラ《トゥーランドット》は、このオペラを荘重な悲劇へと変容させ、格差社会やマチズモ、犠牲を美化する思想への痛烈な批判を展開した、現代的で鮮烈なものだった。
 そのコンビによるビゼー《カルメン》が今年の7月に上演され、10月からオンライン配信が始まった。私はライヴに行くことが叶わなかったので、こちらも配信で視聴した。

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光と闇が融け合う──田部京子 ピアノ・リサイタル(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第2回

光と闇が融け合う──田部京子 ピアノ・リサイタル(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第2回

 6月27日に、師である田部京子先生のピアノ・リサイタルを聴いた(佐倉市民音楽ホール)。曲目は、シューベルトのソナタ第4番、ショパンのソナタ第2番「葬送」、そしてシューマンの《クライスレリアーナ》。
 シューマンの演奏前のトークで、先生は、《クライスレリアーナ》のロマンティシズムが「感傷的でない」ことを強調されていたが、その「感傷的でないロマンティシズム」は、先生の演奏自体にも言えることであろう。

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優しさが静かに満ちる──ペヌティエのシューベルト(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第1回)

優しさが静かに満ちる──ペヌティエのシューベルト(「Tiaa Style」連載「耳を澄ます言葉」より第1回)

 ピアニストのジャン=クロード・ペヌティエが2010年にリリースしたシューベルトのアルバム(ソナタ第18番「幻想」、同第20番)を、最近、ようやく聴いた。
 私は彼の大ファンだが、実はその割に、彼の録音はそれほど熱心には聴いていない。2019年の連載時にも書いたが、凡そペヌティエほど、ライヴこそを聴くべきだと感じる演奏家もいないからである。録音も素晴らしいことには違いないが、特にあの音の人の手のよ

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