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20年愛用している、WATERMAN(ウォーターマン)のボールペン ~物書きとして、私のお守りみたいなもの

 ペン1本で生きていく。
 そんな決意をかためたのは、30代のときでした。
 文章を書く仕事は、大学時代からしていました。在学中からフリーライターとして、月刊誌に連載記事を書いていたのです。卒業と同時にその出版社に入社して編集者となり、編集長をしたのちに、20代の後半で独立しました(そのときは既婚でした)。
 それから間もなく離婚して、バツイチ独身のフリーライター・エディターとして30代を迎えました。

 20代のときは、もちろん仕事は一生懸命していたけれど、結婚後や離婚後の人生について、はっきりイメージしてはいませんでした。
 たとえば20代の半ばで結婚したとき、周囲から「子どもはまだ?」みたいな言葉が当たり前のように降ってきて、「あれ、私は結婚後も仕事を続けるつもりだったけど、もし子どもができたらどうなっちゃうんだろう?」と戸惑ったり。なにしろ25年以上も前です。社会の価値観は、いまよりずっと古い時代でした。
 そんな時代に、女性がバツイチで、30代になるのに独身で、フリーランスの物書きとして生計を立てていく、という、いま思えばけっこう勇気のある選択をしたものだな、と我ながら驚きます。

 幸い人脈に助けられて、フリーになりたてのときから、仕事をいただくことができました。
 はじめは充実感がありました。でも30代になると、「このままでいいのかな」という思いがよぎりました。フリーランスのままでは、生活は不安定です。安定を考えれば、就職したほうがいいんじゃないか、何か資格を取って副業を……それより再婚したいかも、と、迷いがありました。

 ほんとうの気持ちとしては「文筆で食べていく」一択で迷いはなかったのです。でも現実面を考えると「厳しいよなあ」と、悩みました。
 とはいえ、物を書いていないと(もっと言えば書く仕事をしていないと)、私が私でなくなってしまいます。
 そこで、心を決めました。
 私はペン1本で食べていく。30代になってあらためて、そう決意をかためたのです。覚悟といったほうがいいかもしれません。
 当時は札幌で仕事をしていましたから、より具体的に言えば、「私はペン1本で、東京の出版界へ行く。そこで通用する仕事をする」という覚悟です。
 私の場合は、商業媒体の仕事のほかに、小説などの創作物も書いていました。そちらでも、もっと頑張りたい、もっとレベルアップしていきたい、という気持ちがありました。
 物書きとしての自分を、格上げしていこうと思いました。

 その気持ちを形で残すために、ちょっといい筆記具を買うことにしました。ショップへ足を運び、ラピスラズリのような色が気に入って、見出しの写真にあるWATERMAN(ウォーターマン)のボールペンを購入しました。同じ色の万年筆も、一緒にそろえました。
 以降、万年筆は手紙や挨拶状を書くときに、ボールペンは打ち合わせや取材のメモをとるときなどに、持ち歩いてがんがん使いました。

 それから、20年が経ちました。
 結果として、30代の後半から仕事の場を東京の出版界に移すことができ、いまはWEB業界に世界を広げて文章に携わる仕事をしています。あのときの決意のおかげです。

 万年筆はこわれてしまいましたが、ボールペンはいまも健在。
 最近は重さが負担に感じるので、メモ用には軽いシャープペンシルを使い、このボールペンは大事な契約書にサインするときなどに使っています。

 今日、仕事机に置いて写真を撮ってみたら、けっこう傷やへこみがありました。

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 私の人生の、激動の30代~40代を一緒にくぐり抜けてきたんだものなあ、と、感慨にひたりました。大げさに言えば、傷やへこみのひとつひとつが、私の人生の軌跡ですね。

 このペンを買ったとき、いつか私の手になじんで、いい感じに使いこまれていたらいいな、と思っていました。すでに20年が経ち、それが現実となっていることに、びっくりしつつ喜びを感じます。
 長い年月、ずっと仕事の伴走者だったこのペンは、いまや物書きとしての私のお守りのようなもの。

 近年はデジタル化やペーパーレス化が進み、筆記具を使う機会はかなり少なくなりました。現代のとくに若い人たちは、ペンよりPCやスマホに触れている時間のほうが圧倒的に長いでしょう。
 それでも、未来の自分のために、愛用のペンを1本持っておく。そういう遊び心は、素敵だと思います。

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