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【ミカタをつくる広報の力学】 #40 タグラインについて考える

前回は検索ワードについて書きましたが、今回も言葉の話。
「タグライン」について書きたいと思います。
広報・PRに携わる人なら一度は聞いたことがある言葉だと思いますが、その実態がいまいち分かりにくいですよね。
キャッチコピーとの違いやタグラインの使い方についても書いていきます。


※初めての方は、「#00 イントロダクション」をお読みいただくと、コンセプトがわかりやすいかと思います。


タグラインとキャッチコピーは何が違う?

PRではしばしば「タグライン」という言葉が出てきます。
ネットで調べてみると「スローガンやキャッチコピーのようなもの」と書かれたサイトが多いので、大まかな意味としては「ターゲットに何かを訴求するためのフレーズ」なのだろうと思います。

「Tagline」を英和辞典で調べると、「キャッチフレーズ」「ジョークの落ち」という意味が出てきます。
「Tag」で調べると、「タグ付けする」「識別する」といった意味が出てきます。

これらのことから考えると、「認識を促すための決め台詞」という解釈ができそうです。やっぱりキャッチコピーに似ていますね(笑)

ではキャッチコピーとタグラインは何が違うのか。

私はコピーライターでもあるので、コピーという観点から違いを考えてみましょう。

コピーにも、キャッチコピーの他にボディコピーやリードコピーなど様々な種類があるのですが、実はタグラインに最も近いコピーは「ショルダーコピー」ではないかと思います。

「ロゴ上」と言ったりもしますが、企業ロゴや商品ロゴの上に置かれるコピーのことです。テレビ番組の提供読み上げのときにも、ブランド名の前に読み上げるアレです。

つまり、企業や商品といったブランド自体を表現する言葉で、広告というよりはブランディングに近い考え方になります。
企業スローガンや商品コンセプトをショルダーコピーにする場合もあります。

ちなみに私はかつて、映画見放題のサブスクサービスに「毎日、シネまくり」というショルダーコピーを付けました。

一方でキャッチコピーは、ターゲットをキャッチする=惹きつける言葉なので、広告を見た人が「この広告は自分に対して訴求している」と認識するのが第一目的です。
なので、ブランドのスペックや自己紹介というよりは、商品の使用感やイメージといった「ユーザーベネフィット」に寄り添った訴求が多くなります。


なぜPRにタグラインが必要なのか

上で書いたように、ザックリ言うと、キャッチコピーはユーザー側の視点から、タグラインはブランド側の視点から、メッセージを発信しています。

PRでは広告と違って、イメージ戦略に頼らずファクトのみを発信するため、クリエイティブ要素が少ないと思われがちですが、ファクトのみだからこそ必要になるクリエイティブもあります。それが「リアリティのための言葉づくり」です。

この場合の「リアリティ」とは、理解から納得にいたる説得力のことを指します。

「ファクト」は「事実」なので、実際にあった出来事をそのまま伝えるわけですが、「モノ・コトの在り様」を伝えるのが難しいことは、PR経験者なら誰でも感じていることでしょう。

例えば、「コロナの感染抑止には、密閉された空間での滞在、近距離に密集する行為、人との密接な接触を避けましょう」と言っても憶えられないため、「3密」という言葉をつくって「密閉・密集・密接の『3密』を避けましょう」と言い換えます。

つまり「事実」の理解を促すために「説得力のある言葉」を補うことで、
実感しやすかったり、共感しやすかったり、記憶しやすかったりして、人の意識に定着させることができるわけです。

企業や商品といったブランドの場合は、他ブランドとの差別化が重要になってきます。

ブランドを一言で表現するのは、コピーライターでも至難の業。
「○○といえば、このブランド」というところまで持っていくのは、とてもハードルが高いです。

よく使われるのが「業界ナンバーワン」的なもの。
PRの教科書でも、「日本初」とか「業界1位」は話題になると教えていますよね。

「初」も「1位」も一つしか無いですから、オンリーワンのブランディングができることになりますが、計測範囲と期間を絞れば、「初」も「1位」もたくさん生まれてしまうので、使い方には注意が必要です。


タグラインを活用しよう

PRにおいては、「絶対オンリーワンでなければ」ということはなく、見た人の意識に留められれば良いので、まずは「へぇそうなんだ」と感じて、「誰かに教えたい」と思ったときに、「何を伝えるか」が明確に分かれば良いわけです。

「情報の伝言ゲームで伝達されるキーワード」=「タグライン」になります。

「3密」の例で言うなら、細かいことは憶えていなくても「コロナ予防=3密回避」ということだけ伝達できれば、詳細はググれば出てくるわけですから、「3密」というキーワードの重要さは歴然としています。
「密がダメらしいよ」の一言で十分拡散されていくはずです。

では、どうやってタグラインをつくるか。

基本に立ち返って「5W1H(6W2H)」からつくるのがセオリー。中でも重要なのは「Why=目的」です。

企業活動も、商品開発も、コミュニケーションも、何かしらの行動をしているのには「目的」があるはずです。
「誰のため」、「何のため」といった目的からその他の要素に展開して、「誰のための何」というように考えていきます。

したがって、コーポレートPRであれば企業理念から、プロダクトPRであれば開発コンセプトから考えていくのが常套手段。
そのうえで、戦略的なクリエイティブとして、共感を得られる言葉「タグライン」をつくるのが効果的ではないでしょうか。

「3密」の場合は、「コロナ感染予防」という目的に対して、マスク着用などの「すること」ではなく、まずは「しないこと」を提言しました。
パンデミックなどの恐怖訴求に関しては、積極的な「行動」よりも消極的な「禁止」を促す方が効果があるからでしょうか。
こうした戦略的なコミュニケーション設計があるなら、「禁止行動」に「3密」という名前を付けたのも納得できます。

一方で、同じ国策でも「マイナンバーカード」の浸透がゆっくりなのは、
あれもこれもとメリットをたくさん謳いすぎて、タグラインを明確にできていないからかもしれません。


おわりに

今回はタグラインについて書きましたが、「パーパス」なども企業を表現するタグラインとして機能しています。
PRにおいて「言葉」はとても重要な武器になりますので、今後も機会があれば書いていきたいと思います。

コラムの特性上、公共施策のみを事例として使ったため、少し分かりにくかったかもしれませんが、私のセミナーでは民間企業の具体的な事例も出していますので、ご興味のある方はお問合せください。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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ではまた次回お会いしましょう。



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