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ノンフィクションとスポーツ全般、特にラグビーをこよなく愛する40代です。短期間ですが、一時期オンライン書評も書いていました。2018年より東京大学ラグビー部コーチ。本棚はこちらで。 https://booklog.jp/users/sfukatsu

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  • shinfukatsu bookreview

    ノンフィクションを中心に、お勧め本の紹介を。

  • Rugby Club Flair

    ラグビーボールを通じて子どもと大人が一緒に楽しめる場所、Rugby Club Flairの活動報告です。月に1回、町田を中心に活動しています。

最近の記事

『アンビシャス』胸を熱くさせる人間達の物語

私は日頃ノンフィクションを読む際には、透明フィルムの付箋を常備するようにしていて、心に留まった箇所に次々と、結構大量に貼って記憶に残していくのだけれど、本書には1つも付箋を貼ることがなかった。付箋のためにページを繰る手を止めることさえ躊躇われるほどに、本書に心を奪われたからだ。最近ちょっと涙脆くなってきたのかもしれないが、圧倒的なビジョンと熱意をもって疾走する人間達が繰り広げるドラマの連続に、幾度となく目頭を熱くさせられてしまった。なので、いつものように読後感を胸に付箋を1つ

    • 誰もが笑顔でつながるラグビーを。

      2022年12月。ちょっと変わったラグビークラブを始めました。 日本中に興奮の渦を巻き起こした2019年のラグビーW杯日本大会を機に、全国各地で新たなラグビースクールが立ち上がってきて、日本でも子ども達がラグビーに触れられる場所は徐々に増えてきています。一方、プロフェッショナルの世界に目を向けると、今年から国内最高峰リーグである”JAPAN RUGBY LEAGUE ONE"がスタートして、競技レベルも飛躍的に高まってきています。 その一方で、競技力の向上だけでない部分で

      • 『黒い海』第58寿和丸沈没の真相

        2008年6月23日、午後1時過ぎ。房総半島の最東端に位置する犬吠埼から東へ350kmほどの千葉県銚子市沖洋上で、1隻の漁船が突如として転覆した。パラ泊と呼ばれる安全性の高いやり方で洋上に漂泊していたのは、福島県いわき市の漁業会社「酢屋商店」が所有する第58寿和丸。その船上に乗り込んでいた漁師たちが右舷前方から突然「ドスン」という衝撃を感じると、直後に今度は「バキッ」という異様な音が起こる。そして、それから時間にしてわずか1~2分で全長38メートル、重さ135トンを誇る第58

        • 『ボーダー』の向こう側を強制された移民・難民たちの物語

          日本が移民や難民の受け入れに積極的でないという認識は、当然ながら持っていた。ダイバーシティの重要性が叫ばれる昨今においてさえ、本質的な部分でオープンマインドを取り切れない日本社会の閉塞性に、個人的には若干辟易している部分もあった。でも、私の理解は全然甘かった。今この瞬間にも起きている眼前の問題は、想像以上に深刻なものであり、その深刻さをきちんと知ることなく過ごしてきたことを、日本人の1人して心から恥ずかしく思わざるを得なかった。そういう強烈な気づきを与えてくれたのが、佐々涼子

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        記事

          『紙つなげ!』という感動の奇跡。たとえそれが未曽有の悲劇によって生まれたものだとしても。

          本を読んで涙したのはいつ以来だろう。 心を打つ珠玉のノンフィクションは少なくないが、通勤電車でページを繰るのを躊躇してしまうほど涙腺に響く作品は久しぶりだ。 本には、人それぞれ出会うタイミングというものがある。HONZでレビュアーとして活動していた頃、『エンジェルフライト』に感銘を受けた私は、本書のことは刊行当初から認識していたし、きっと素晴らしい作品なのだということは読む前から分かっていた。でも、なぜか当時は書店の棚を前にする度に本書が目に留まりながらも、手を伸ばすことが

          『紙つなげ!』という感動の奇跡。たとえそれが未曽有の悲劇によって生まれたものだとしても。

          背伸びせずに、アートを楽しむために。

          前回のpostでファッションへの苦手意識について触れたのだが、アートについても似たような感覚を持つ人は少なくないのではないだろうか。教科書に載っているような絵画や彫刻の名作を前にして、純粋に凄いとは思うものの、それ以上の言葉を持ち得ずに、その魅力を本当に味わい尽くせているのか今ひとつ確信がないというような、そんな感覚。「小難しく考え過ぎずに、素直に良いと思える作品を楽しめば、それでいいんだよ」と言われても、心のどこかで「本当の意味では、芸術を理解できていない」といったある種の

          背伸びせずに、アートを楽しむために。

          ファッションが苦手な大人達のために

          私はつい最近転職をしたばかりなのだけれど、新しい勤め先は服装に関する規定が殆どなく、多くの社員がカジュアルな格好でオフィスを訪れている。前職も決してドレスコードが厳しかった訳ではなく、お客様応対を除くインターナル・ワークではジーンズでも全く問題ないレベルではあったのだが、今の方がより自由度が高い感覚だ。ビジネスカジュアルというよりも、ごく日常的なカジュアルスタイルで、皆がそれぞれの服装を楽しんでいる。 ただ、服装の自由度が高いことで逆に色々と悩んでしまう人も少なくないのでは

          ファッションが苦手な大人達のために

          本質に還ることの意味と意義

          ベンチャー起業家でもあり、投資家。そして、スタートアップと投資家とを繋ぐSNS、”AngelList”のファウンダーでもあるナヴァル・ラヴィカント。本書がその表題をもって「シリコンバレー最重要思想家」と言い切る人間が、これまでに語り、紡いできた言葉が体系化された1冊となっている。とはいえ、ナヴァル・ラヴィカントの名前は一般的にはさほど知られていない気がするので、書店に平積みされた本書の装丁を目に留めて、若干首を傾げる人も少なくないだろう。逆に言えば、そのギャップ故に興味を掻き

          本質に還ることの意味と意義

          いわさきちひろの素顔

          私の両親はどちらも絵画が好きで、日頃の会話でも絵の話題になることが比較的多かった。建築設計士だった父は自分でも絵を描く人で、一方の母は純粋に絵画鑑賞を趣味とする人で。週末になるといつも2人でNHKの「日曜美術館」を見ては、感想を話していた気がする。父が事務所としていた自宅の一室には、様々な画家の画集や展覧会の図録などが多々置かれていた。今になってみれば、実家で過ごした18年間の間に、そうした良質の作品にもっと触れておけば良かったと思うのだけれど。 いわさきちひろは、そんな両

          いわさきちひろの素顔

          日本の文化でもあるテキヤのことを。

          私の生まれ育った愛知県豊橋市には、毎年夏になると行われる「納涼まつり(夜店)」という一大イベントがあり、数多くの露店が豊橋公園周辺のエリアに軒を連ねて賑わうのが恒例だ。昨年は残念ながら中止だったようだが、大正時代から続く夏の風物詩に、豊橋の子ども達は誰もが心を躍らせてきたものだ。私も小学生の頃などは、この夜店にどうしても行きたくて、両親にいつも連れて行ってくれとお願いしていたのを、今でも懐かしく思い出す。 金魚すくいやバナナチョコ、ヨーヨーや射的といったお決まりの露店が並ぶ

          日本の文化でもあるテキヤのことを。

          渇望こそ成長の原動力

          昨年12月28日をもって37年間の歴史に幕を下ろしたフレンチレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフである三國清三さんの自伝。なかなかに挑発的な表紙のモノクロ写真を書店の棚で見かける度に、いつも気になっていたのだけれど、週末に購入して一気読みしてしまった。非常に刺激的で面白く、読み終えた人間の心に何かを残してくれる著作だと思う。 北海道の増毛町から単身東京へと渡り、帝国ホテルでの働く機会をなんとか掴み取ると、その後はジュネーブへ渡り当時の駐スイス大使の料理人として

          渇望こそ成長の原動力

          What I read defines me.

          ここ暫くは思うようなペースで読書ができない日々が続いていたのだけれど、2023年は心機一転、読むことをより大切にしていきたい。なんとか年間100冊を目標で。とはいえ、私にとっての読書は基本的に娯楽なので、効率も効能も気にせず、純粋に愉しみのために読むつもりだ。 そういえば、東大ラグビー部のプレーヤーが以前にリレー日記の中で紹介していた『バットマン・ビギンズ』の台詞に"What I do defines me."というものがあって、シンプルかつ本質的なQuoteだと常々感じて

          What I read defines me.