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背伸びせずに、アートを楽しむために。

前回のpostでファッションへの苦手意識について触れたのだが、アートについても似たような感覚を持つ人は少なくないのではないだろうか。教科書に載っているような絵画や彫刻の名作を前にして、純粋に凄いとは思うものの、それ以上の言葉を持ち得ずに、その魅力を本当に味わい尽くせているのか今ひとつ確信がないというような、そんな感覚。「小難しく考え過ぎずに、素直に良いと思える作品を楽しめば、それでいいんだよ」と言われても、心のどこかで「本当の意味では、芸術を理解できていない」といったある種の後ろめたさが拭えない。そういう意識というのは、実際にはさほど特別なのものではなく、誰もが胸の内にちょっと忍ばせているようなものなのかもしれないと、個人的には思ったりする。現代においてはアートも本当に多様化しているが、やはり伝統的な芸術となると、その格調の高さ故に、観る側もただ無垢でいさせてもらえないようなある種の緊張感があるものだ。勿論、それがアートの魅力そのものでもあるのだけれど。

こうした課題認識はおそらく芸術家や批評家といったアートの専門家の間でも共有されており、昨今ではアートをより気軽に楽しんでもらうための入門書も非常に多く出版されている。新書のような一般向けのフォーマットで、キャッチーな装丁画とタイトルで注目を集めている著作も結構見かける。

私自身も過去に幾つかそうした書籍を手に取ってきたが、多くの類書の中でも本書は特に読みやすく、非常にお勧めだ。冒頭には32点のアート作品がカラーで掲載されており、これらをテーマとしながら、西洋美術史の大きな潮流をざっと概観できる構成になっている。古代からルネサンス、バロックと続いて、更には写実主義、モダニズム、印象派、そしてキュビズムと抽象芸術までが全6章、わずか100ページ程度に凝縮されていて、これ以上ない程にコンパクトながらも充実のコンテンツだ。各時代を代表する絵画をより深く楽しむための基本的なポイントについても、観点を最大限に絞り込むことで感覚的にすっと受け止めやすい整理がされていて、一切の小難しさがない。必要以上に構え過ぎずに、素直な感性でアートを楽しみたいという自然な欲求を全く邪魔せずに、アートをより身近に感じさせてくれる1冊だ。

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