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短編小説

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2021年8月の記事一覧

ひとりとふたり

ひとりとふたり

 とにかく誰ともあいたくなくとにかく誰の顔もみたくもなくだからずっとうちの中に引きこもっている。
 けれど直人だけにはあいたくだから週末だけは直人のうちにいった。
「やあ」
 突然いってもまるでおどろかずビクともしないで、やあと短い言葉で迎えてくれる。
「あついね」
 日曜日はほんとうに暑かった。車内温度が39度という異常な高熱になっていた。
「うん。あついね。けど……」
 午後の3時。お昼でもま

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ドライブ マイ カー

ドライブ マイ カー

「俺のほかにも……、」
 彼の目は真剣そのもので目を逸らすこともはぐらかすこともまるでできそうにもなかった。
 俺のほかにも。彼はそこでいったん言葉を切り、マルボロライトを取り出し何度目かの誕生日にわたしがプレゼントをしたビンテージのジッポで火をつけた。
 ジッポからは油の匂いがし、それはいつだって彼の匂いだということにわたしの頭の中には刷り込まれているのだ。まるで、俺のことを絶対に忘れないように

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マンネリ渦

マンネリ渦

 このご時世になってからというもの毎週といっても過言ではないないほど、修一さんとあっている。
『出歩くのもこわいし、飲みになんていく気にもならないし』
 が、もはやの口癖になっている。
 そうなると自動的に時間ができるとわたしにあえる? という連絡がくる。以前など一ヶ月もあえないときなどざらにあり、もっとあわなかった時期など半年という時期もあった(奥さんにバレたとき)
 あわない時期が長いほどあい

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疼くひと

疼くひと

 雨がずっと降り続いている。
 洗濯物はなかなか乾かないけれど、それとは比例して心と体はすっかり乾いている。
『渇いているの。助けて』
 祐希くんにLINEを打つ。
 別に既読にならなくてもいいしなんなら返事も期待などしてはいない。
『渇いているの。こんなにも雨が振っているのに』
 3分してからまたLINEを打つ。前回 LINEをしたのはもう20日も前だったんだとその日にちの間にびっくりする。
 

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『事故物件』

『事故物件』

(ブブブ)
 布団の上にあるスマホが震え、まだまるで覚醒をしていない頭でスマホに手を伸ばし画面に目を向ける。
 え? なんで? お盆なのに? 
『なにしてる?』
 修一さんからだった。
 直人不在の布団の中でおどろきながら返信を返す。
『寝てた』
 短くけれどほんとうのことを打つ。
『今実家。あえないか』
 ずるいとおもう。あえないなどどいえる訳がない。知っているくせに彼はわたしをときに試すことを

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グリーンのマキシワンピース

グリーンのマキシワンピース

「あすはどっかにいこうよ。うちにばかりいると酒ばかり呑んじゃうでしょ?」
 お盆休みの真っ只中。
 直人のうちにふいにいくと酒を呑んでソファーで舟を漕いでいたので、目が覚めたタイミングを見計らって提案をしてみる。
 眠たいし気だるそうに口を開く。目を細めて。とゆうか目が糸のようにもともと細い。
「……うん。そうだね」
 気もそぞろ。その単語がぴたりと当てはまるような口調でこたえた。
 気が向いたら

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ははがしんだ

ははがしんだ

『美保からさっき唐突に電話があって、それで、……、』
 別れた旦那からの唐突な電話だった。
 わたしはそのとき、JRに乗っていて窓の外の流れる景色をなんとなくぼんやりと眺めていた。 

 スマホがブーブーと震え【もと旦那】と表記された画面をみたとき、いやな予感がした。【もと旦那】からかれこれ電話がきたのが何年か前だったし、いたずらかというくらいメールをしてくる時期もあったりして、しょっぱなから電話

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眠れない夜に

眠れない夜に

 もう何十年も睡眠薬を飲んで眠っている。だからなのか『眠れない夜』ということはないけれど、無理やり眠っている感は半端なくだから人工的な眠りであってほんとうの眠りではないのだということはいったいわたしのほんきの眠りはいつ来るのだろうかとおもうことはもう諦めている。
 だってもともとが不眠症なのだから。
「絶対にさ、」
 直人と一緒に焼き肉を食べているときにそういった眠りの話題になり、いちぼをジュージ

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ロゴ入りTシャツ

「暑いな」
 暑いという単語をあってからもうかれこれ10回はいっている。
 修一さんはなぜか胸のあたりに『Orange』と赤い文字で書いてあるTシャツを着ていた。
 いつも、作業着なのでちょっとだけ新鮮さがあった。どことなく緊張感がなくなっている気がすし顔が弛緩をしている。
「暑いから着替えたんだよ」
 なんでTシャツなんだということを訊くとそうこたえが返ってきた。
「へー」
 午後3時。
 おも

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8月2日

8月2日

 あっという間に8月で、いきなりものすごく日中問わずおかまいなしにやぶれかぶれに太陽の光がふりそそいでいる。もはや
 暑い……、し。
 という言葉しか出ない状況下のなかからのマスクという息苦しい布きれ。
 こんなに暑いなか、いちばん元気なのは、ウイルスくんかもしれない。
 土曜日の夕方から直人のうちにいく。天然鮎を持って。鮎を釣るひとにいただいたのだ。
「あれれ、髪の毛切ったんだね。みじかいし」

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