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短編小説

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2019年12月の記事一覧

ケーキ・ショック

ケーキ・ショック

 26日になるとクリスマスケーキが半額で売られる。結婚もそうだよね。25歳が適齢期で26歳になると半分の価値になっちゃうもん。女友達が26日に毎年いっていたまじでウゼー言葉を思い出す。その渦中の本人は三十路になった今でも独身実家彼氏なしでバリバリと看護師として働いている。
 本当は生クリームが大好きだしふわふしたスポンジだってその上で寝たいほど好きだしなんならワンホールを食べたいしなんならそれを動

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Merry Xmas

Merry Xmas

「うれしい」
 しゅうちゃんの助手席に乗ったせつなすぐに口にした。
「うれしい?」
 語尾を上げ、どうして? そんな顔をしながら同じ言葉をくりかえす。うん、だって、だってね、そこで言葉を切る。夕暮れ時。5時45分。おもてはまだ少しだけ橙色を残しつつ夜を迎え入れる準備をしている。橙色はまるで干し柿のようだ。
「だって? なに?」
 ハッとした顔をしゅうちゃんに向け、ううん、なんでもないわ、と首をよこ

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ねむる

ねむる

 なおちゃんはまだ起きていて、部屋に入ったせつな、やあ、と挨拶をし、寒かったろ? と訊いてきた。ううん。特に。本当にあまり寒くなったので首を横にふる。へー、といったのと時間を確認したのがほぼ同じで、もう23時を過ぎていたけれどなおちゃんはなにもいわないしたずねない。
「あれ? 今日もまたゴルフだったの。また」ゴルフウェアを着ていたからだったから訊いた。
 また、を2度繰り返していったのは先週も先々

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ゆるす

ゆるす

 ときどきといっても月に一度の頻度で、一人暮らしの母親から電話がある。『おねえちゃん、元気?』と。いつも思うのだけれど、母親はあたしのことを『おねえちゃん』と呼ぶ。いやいやあたしあなたの姉じゃないんだけれどね。あたしはしかし『うん。なんとか生きてるよ』とこたえる。『お母さんもなんとか生きてるよ』母親も同じようなことをいいながらクスクスと笑う。見えないけれどきっと肩をすくめている。母親は軽度の痴呆症

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駅

 毎週金曜日。22時3分発の快速電車で一緒になる男の子がいる。歳のこうは12歳くらいだろうか。丸坊主で黒縁メガネをかけており、背はあたしよりも低く(あたしは150㎝くらい)ひょろっと痩せていてその身体にはまるで似つかないほどの大きな真っ黒くてくたびれたリュックを背負っている。
 毎週、毎週あうものだから大人のあたしからしたら子どもの君のことはおのずといやでも憶えてしまう。こんな時間にこんな満員電車

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12月3日 いち・に・さん

12月3日 いち・に・さん

「また、土曜日出張だから……」
 土曜日。なおちゃんに『ヨルイクネ』と中国語じゃないけれどカタカナでメールをすると『今夜は飲み会で泊まり』そう返事が来てほとんど涙が出そうになった。
 と、泊まりって……。一体全体どうゆうことなの? 今までなおちゃんの週末など気にしたことなどはなくかといって気にされたこともなくて会いたいときに気ままに会っていたしいけば会えるとわかっているからそうゆう安心感もあってな

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