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ケーキ・ショック

 26日になるとクリスマスケーキが半額で売られる。結婚もそうだよね。25歳が適齢期で26歳になると半分の価値になっちゃうもん。女友達が26日に毎年いっていたまじでウゼー言葉を思い出す。その渦中の本人は三十路になった今でも独身実家彼氏なしでバリバリと看護師として働いている。
 本当は生クリームが大好きだしふわふしたスポンジだってその上で寝たいほど好きだしなんならワンホールを食べたいしなんならそれを動画に撮ってYouTubeで流してもいいとさえ思う。
「あたしね、生クリームがダメなんだ。あっ、スポンジもね。軽くたまごアレルギーだもん。レアチーズなら食べれるけどね。うん。あれならなんとかいけるよ」
 彼がクリスマスに買ってきたイチゴのショートケーキはそのわけのわからない発言によって食べることなく2個とも彼の胃に収まった。なんだ。それなら最初から訊けばよかったね。彼は口の端しに生クリームのお弁当をつけてやんわりと笑った。ごめんね。あたしは彼の好意を無駄にしたことをあやまる。けれど、きっともっと違う意味であやまっている部分もある。
 あたしはだって食べたら吐いてしまうカショオの人なのだ。

 ケーキは半額の750円で売られていた。他にチキンにコーラたらこスパに半額の菓子パン。だいたいカショオをする人は見切り品を買う。どうせ吐いてしまうのに高価なものを買う必要がないからだ。目の前に並んだ色とりどりの食べ物を片っ端から無心に食べてゆく。咀嚼音しか聞こえないしその時だけ無我夢中になれるしどことなくストレスを発散しているふうに思うしああ、なんて美味しいんだろうなんて思考よりああ、なんでこんなにたくさんのものが胃に入るのだろう。もはや味などはどうでもよくて素早く食べなくてはならないのだ。カショオは速さの問題で先に土台といって吐きやすいよう先に軽くキャベツなどの野菜を食べておく。キャベツは消化が悪いので嘔吐の最後にキャベツが出てきたら、ああ、やっとお終いか。という目安になる。
 ケーキはあまりカショオはしないけれど26日だけは大いにすることにしている。最初の一口二口だけしか美味しいと感じなくなる。あとは機械的に口に淡々と運ぶだけ。なんでこんなことをしているのだろう。どうしてうまく食事が出来ないのだろう。だいたい人と食事をするのが苦手で未だに誰かの前で何かを食べるのにも抵抗があって食べたとしてもサンドイッチくらいだしけれど、あ、ちょっとお手洗いになんていいながらトイレで吐いたりもする。
 食べる吐くを一日二回は繰り返す。思い切り吐いて思い切り出す。出したあとはとても清々しい気分になるけれどその後に必ずおとずれる絶望ったらない。
 もし、こんなに食べて吐かなければ今は相撲取りのようデブになっているに違いない。39キロを超えると死にたくなるようになっている。食べても栄養にならないうちに吐くから体重こそは増えないけれど体力と気力は徐々にすり減り誰かがたくさん食べる動画を見て優越感に浸る。もっと食え。もっと食え。と呪いをかける魔女のようにあたしはひどくやつれきった女になってニタリと口角を上げる。
 いつからだろう。こんなになってしまったのは。
「もっと太ってもいいんじゃない?」
 彼はいつもそういってあたしを困らす。なので、だって太れないんだもんといい甘えた声を出す。骨と皮しかないあたしの身体を抱く彼はもしかして薄気味悪いのかもしれない。生理もない。身体の張りもない。覇気もない。結果何もない。
 あたしはただの環境汚染をしている生きていても仕方のない生き物だ。プランクトンの方が生きている価値がある。
 それでもやめることが出来ない。ストレスがぁー。とストレスのせいにして食べ吐きをし環境汚染を施して彼には依存をしもう死んでもいいレベルまできている。
 
 トイレの中でたくさんの白い脂が浮いていてあたしは涙と鼻水が垂れるがままそれを見つめ呆然となりながら床に何本も自分の髪の毛があるのを見てギョッとなる。喉がひりついて痛いし胃が痙攣をし頭の中がクラクラするしでけれどまだキャベツが見えてこないから水をがぶ飲みして一気に出すしかない。マーライオンのように。

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