紫水司

読書や映画が中心の雑文です。

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戦争に倦む-「輝ける闇」(開高健)

徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい。私は自身に形をあたえたい。私はたたかわない。殺さない。助けない。耕さない。運ばない。扇動しない。策略をたてない。誰の味方もしない。ただ見るだけだ。わなわなふるえ、目を輝かせ、犬のように死ぬ。 ベトナム戦争の従軍記者として主人公はベトナム戦争に立ち会う。アメリカ兵、ベトナム兵、僧侶、作家、情婦の間を基地とサイゴンを往復しながら交流していく。外国人で小説家の主人公はどこでも歓迎されて、現地の人々が戦争にどう向き合わざるを得ないか、

    • 「冷酷 座間9人殺害事件」(小野一光)

      構成 ・座間9人殺害事件の犯人白石隆浩との面会記 ・公判記録 事件の概要 twitterを通じて出会った男女9人を殺害、解体した。全員が自殺ないし殺される願望を口にし、直接会う段階で殺して現金を奪う。また、殺害の前後に強姦する。 メモ 二ヶ月間のうちに被害者の物色と殺人を済ませ、それが9人に及ぶ。犯人は風俗のスカウトマンの経験があり、弱っている女性が操りやすいと考えた。SNSで検索する際には疲れた、寂しい、死にたいといったワードで行う。当初は女性のヒモになって生活を送る計

      • スマホよりも大切なことー「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方」(カル・ニューポート)

        まとめ ・スマホ依存は軽度の行為依存だ ・SNS、動画配信サービスなどスマホアプリを通して現代人は時間や集中力を細切れにされるばかりでなく使うほど幸福感を損なう ・デジタルツールとの付き合い方を見直し、自分にとって大切なものに時間を注ぐ ・オフラインでの会話、身体性を伴う活動を勧める デジタル断ち 30日間仕事や家庭で必要なアプリ以外を削除して生活を送る ・ゲーム、動画配信サービス、SNSが見られない不便さが想像よりも小さく、見ないことで生活の質が向上することを体感する ・

        • 人材育成の失敗-「参謀本部と陸軍大学校」(黒野耐)

          まとめ ・第二次世界大戦の敗戦は参謀本部の敗北であり、人材輩出を担った陸軍大学校の教育に問題があった。 ・政治と軍事の統合を明治期は元老が強力な指導力で主導したが、昭和期に入るとそのような指導者を教育で確保することができなかった。 陸軍大学校の設立 1882年に設立される。それまでのフランス式からドイツ式の陸軍へと変えることが狙いのひとつだった。ドイツは立憲君主制という共通点があり、普仏戦争でフランスを破り欧州一の陸軍を擁するまでになったため、ドイツを範にする。 中尉・大

        戦争に倦む-「輝ける闇」(開高健)

        • 「冷酷 座間9人殺害事件」(小野一光)

        • スマホよりも大切なことー「デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方」(カル・ニューポート)

        • 人材育成の失敗-「参謀本部と陸軍大学校」(黒野耐)

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        • 創作関係
          2本
        • 気になったやつ
          25本

        記事

          君主はいかに統治するかー「マキアヴェッリと『君主論』」(佐々木毅)

          構成 ・マキアヴェッリの生きた時代のイタリア情勢とフィレンツェ小史 ・「君主論」全文と章毎のコメント どんな時代か? ・小国(ミラノ公国、ヴェネツィア共和国、ジェノヴァ共和国、フィレンツェ共和国、シエナ共和国、ナポリ王国)が乱立し教皇領、フランス王、神聖ローマ帝国皇帝という外部勢力が入り乱れて合従連衡を繰り返した(勢力均衡政策が基本) ・フィレンツェでは寡頭制、メディチ家の支配、民衆政、メディチ家、反メディチ派と支配層が転々とする 「君主論」の位置付け ・政府職を得ようと

          君主はいかに統治するかー「マキアヴェッリと『君主論』」(佐々木毅)

          読書メモ:「暗黒日記3」(清沢洌)

          • 総合雑誌の掲載を禁止されると歴史の考察を通じて同時代の外交を批判する • 裕福さ、インテリらしからぬ平易な文章、自由主義的言説、スポーツなど批判される • 生活に密着した自由主義 • 戦時の批判だけでなくて日本社会の病理を突く • 空襲でも防空壕に行く人が減った。慣れと豪に篭ってばかりはできない。 • 軍隊の鉄拳が工場でも行われる • 目下の生活はものを食わないで飢え死にするか、それとも闇でものを買って破産するかの二つしかない • 日本の空気は正直に言えないようにできてい

          読書メモ:「暗黒日記3」(清沢洌)

          単語中心から動詞中心へ−「伝わる英語表現」(長部三郎)

          英語と日本語の違い ・具体的 地形 topography → rivers and mountains ・説明的 選挙公約 I did what I said I would (during ~):選挙で私が実行すると約束したことを行った→漢語に直すと選挙公約を果たした 更に英語に直すI made good on my champaign pledges ・構造的 SVや対比 並列性、揃える(規則性)、つなげる 日本語→視覚化→伝えたい情報を抽出→英語に直す 単語の逐次訳で

          単語中心から動詞中心へ−「伝わる英語表現」(長部三郎)

          激動の時代を生きる−「斜陽」(太宰治)

          敗戦後の軍国主義から自由で平等な民主主義国家に生まれ変わった。 登場人物は母親、かず子、弟の直治、作家の上原の四人でそれぞれに激動の時代を生きる生き方が投射されている。 母親、直治は貴族組で、かず子、上原は庶民組だ。 貴族組は、価値観の変化に対して旧来の価値観を保持しようとする。 母親は夫と死別し、それまでの裕福さを失っても貴婦人としての振る舞いのまま、最後の望みだった直治との再会を経て亡くなる。直治は高等高校進学、兵役を機に庶民の社会に降りようとするが馴染めず、かと言って財

          激動の時代を生きる−「斜陽」(太宰治)

          優男に対する嫉妬、男を手玉に取る女―「お才と巳之助」(谷崎潤一郎)

          引き続き谷崎潤一郎全集第三巻を読んでいます。 あらすじ呉服屋の若旦那巳之助は奉公人のお才と、巳之助の妹お露は奉公人の卯三郎と恋仲になっていますが、屋内では母お鶴の目があり恋人と自由に話すこともままなりません。そこで一計を案じ母を隠居させ、恋人との逢瀬を気ままにすることができるようになったものの、実はお才と卯三郎が通じていたことが判明します。 感想巳之助と卯三郎は対照的です。 巳之助は若旦那、お金持ちであることだけが取り柄の冴えない男であることに対し、卯三郎は得意先の応対、

          優男に対する嫉妬、男を手玉に取る女―「お才と巳之助」(谷崎潤一郎)

          駆落ち、嫉妬、殺人―「お艶殺し」(谷崎潤一郎)

          最近、谷崎潤一郎の全集を読み始めました。 一、二巻も読みましたが、今日は「お艶殺し」に触れます。 あらすじ 主人公の新助は真面目で男前の奉公人。奉公先の主人の娘と恋仲になるが、相手が主人の娘では双方の親から結婚の許可が下りないだろうと駆落ちをする。駆け込み先の船宿の清次が主人と新助父を説得するから逗まっておけと言われるが。 感想 男が悪女に翻弄される筆者のいつもパターンなんだろうなと思いつつ読んでみましたが、突然に命を狙われる新助、姿を消したお艶、と物語が進むにつれていつ

          駆落ち、嫉妬、殺人―「お艶殺し」(谷崎潤一郎)