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激動の時代を生きる−「斜陽」(太宰治)

敗戦後の軍国主義から自由で平等な民主主義国家に生まれ変わった。
登場人物は母親、かず子、弟の直治、作家の上原の四人でそれぞれに激動の時代を生きる生き方が投射されている。
母親、直治は貴族組で、かず子、上原は庶民組だ。
貴族組は、価値観の変化に対して旧来の価値観を保持しようとする。
母親は夫と死別し、それまでの裕福さを失っても貴婦人としての振る舞いのまま、最後の望みだった直治との再会を経て亡くなる。直治は高等高校進学、兵役を機に庶民の社会に降りようとするが馴染めず、かと言って財政難から貴族として振る舞うこともできない半端者になっている。直治はかず子に遺書を残して自殺する。
庶民組は、新しい価値観に順応する。
かず子は恋の革命に殉死する生き方をし、上原は痛飲と放蕩の退廃的な生活を送る。どちらも戦前の秩序では認められないが、自由社会では歓迎されないまでも否定もされない。
貴族組は死に、庶民組は生き残るが、その分岐は生きることは泥臭い営みなんだというかず子の述懐に集約される。庶民組は価値観の大転換に対応し、新たな生き方を定め、しぶとく生きる。

かず子の自身と上原の子を弟とその想い人との子と偽って抱かせることが革命の成就なのか。実際には、本妻に愛人の子を抱かせる当てつけ行為に高邁な理論付けをしているだけなのだろうか。弟の懸想する人妻カズちゃんとは誰か。芸術家と思われている無知な男。かず子に求婚した男の関係者か、それともかず子に対する思いの偽装なのか。

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