見出し画像

優男に対する嫉妬、男を手玉に取る女―「お才と巳之助」(谷崎潤一郎)

引き続き谷崎潤一郎全集第三巻を読んでいます。

あらすじ

呉服屋の若旦那巳之助は奉公人のお才と、巳之助の妹お露は奉公人の卯三郎と恋仲になっていますが、屋内では母お鶴の目があり恋人と自由に話すこともままなりません。そこで一計を案じ母を隠居させ、恋人との逢瀬を気ままにすることができるようになったものの、実はお才と卯三郎が通じていたことが判明します。

感想

巳之助と卯三郎は対照的です。
巳之助は若旦那、お金持ちであることだけが取り柄の冴えない男であることに対し、卯三郎は得意先の応対、帳簿付け、算盤と仕事ができます。夜遊びにしても巳之助と同じ時期に始めたのにもかかわらず、巳之助はいつまでも藝者に遊ばれているばかり、卯三郎は藝者からお金を巻き上げるほど女の扱いが上手いです。

男に対する嫉妬
全体を通して巳之助は阿呆だなと思いますが、母お鶴にお才との交際を咎められた際にへらへらしてお才を誑かしたのだろうと言われ、自分もようやく卯三郎に負けない遊び人たるを得たと内心喜んだり、放逐された卯三郎の乞食のような素振りを見て優越感に浸ったりと、巳之助の嫉妬が描かれます。

女のためにすべてを投げ捨てる
お才との交際を続けるために巳之助は社会的地位、妹、倫理とすべてを差し出していきます。お才に唆され卯三郎とお露の駆落ちを助力し、その一環として百両を用意することになりますが、巳之助はほぼ謹慎の身に近い状態で余裕はなく、結局母の蔵から盗み出すことで捻出します。また、お露を卯の助との待ち合わせ場所に連れて行くために深夜にこっそり抜け出すなど、兄の善兵衛に気付かれたら勘当を免れない行動を繰り返します。

お才の悧巧さ
お才が初めから巳之助を財布にするつもりだったかはわかりませんが、策謀をもって巳之助からお金を巻き上げていきます。邪魔な母お鶴の隠居させる計略を練り、櫛などのプレゼントをねだるのは当然に、巳之助との関係が露見した時に備えて証文を書かせたり、卯三郎とお露の駆落ちを計画したりします。後者2つは証文の買取費用と駆落ちに必要な当座資金を用意させる形で手に入れます。駆落ち費用を強盗に見せかけ回収する際にも、卯三郎が巳之助の差し出した百両とは別にお露が資金を持っていることを見抜き回収に向かわせます。

最後に

巳之助がお才に隷属したのは、お才の女の色香の虜になっただけでなく、仕事も女遊びも満足にできないでいる巳之助の常に側にいて劣等感を刺激する卯三郎の鼻を明かしてやりたいという男の嫉妬もあったのかなと思いました。結局は、卯三郎は奉公先の女性を惑わし、お才と付き合い、お才経由で巳之助から多額のお金を巻き上げるという巳之助には到底できないことを成し遂げたですが。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?